第91話
桜子が目を覚ました時、目の前には鈍い金色の光がふたつ、あった。
小さな鳴き声と共に聞き覚えのある鈴の音が聞こえ、桜子はそれが猫―――鈴鳴の目だと認識した。
鈴鳴は桜子の首と肩に身体を擦り付けるようにして顔を覗き込み、ぺろりと頬を舐める。
微笑み、桜子はその頭を撫でた。
「鈴鳴……?どうしてここへいるの……お屋敷にいるはずじゃ……」
(……お屋敷?)
自分の言葉に違和感を覚える。
甘えるように頬を擦りつけてくる鈴鳴を撫でる手を止め、ゆっくりと身体を起こす。
やけに肌触りの良い布団を握り締め、恐る恐る視線を巡らせる。
布団だと思ったのは、家にあるはずのない真っ白なシーツと天蓋付きのベッド。
見覚えがある内装は、落ち着いた色の壁と調度品。
そして夕日で茜に染まった硝子窓からは、壮大な庭園が見えた。
……どう考えてもここは自宅ではなく、藤ノ宮家。
「確か、轢かれそうになって……」
それから、どうなった?
意識が遠のいたところまでは覚えている。
必死にその後のことを思い出そうとしていると、突然部屋の扉が開いた。
鈴鳴がベッドから音もなく飛び降り、しなやかにその人の足元にすり寄る。
「まぁ、桜子さん!気がついたのね。良かったわ……!」
「……奥様?」
いつもと変わらぬ千鶴子の笑顔に桜子は瞬いた。
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