第60話
部屋一面に広がる鮮やかな色。
それらがすべて洋服だと気づいた時、桜子は千鶴子に手を握られていた。
「桜子さんお願い!貴女だけが頼りなの!」
「どうかしたのですか?」
必死の様子に桜子は首を傾げた。
千鶴子は桜子の腕を取って部屋の中に入り、そこら中に散らばる洋服を指差した。
「それが、今夜知り合いの子爵様の夜会があるのだけど、招待されていたことをすっかり忘れてしまっていて……小さな夜会だからそこまで型苦しくないのだけれど、着ていくお洋服がなかなか決まらないのよ」
「はぁ……」
子爵家の夜会。
自分には遠い世界の話だと思っていると、千鶴子がぎゅっと桜子の手を握った。
「だから桜子さん、お願い!今夜着ていくお洋服を選んでくれないかしら?」
「……は?」
夜会とははたしてどのようなものだろうか、などと呑気に考えていた桜子は、その言葉に現実に引き戻された。
しばらくその言葉を頭の中で反芻し、理解した途端、
「私がですか!?」
無理だ。
だって、夜会に着ていく服など知らない。見たこともない。
自分のものを選べと言われても困るが、他人が着ていくものを選べと言われるのはもっと困る。
何も知らない自分が首を突っ込んだところで千鶴子に恥をかかせるのが関の山だ。
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