第8話息子が心配。
「えっ?何?、」
「今ね。ケアマネの伊藤さんから電話があってね。今朝来てくれたヘルパーがお父さんを起こしに行って、亡くなっているのを見つけてくれたらしいんよ。」
「えっ?ほんと?」
春子はさぞかし動揺しているだろう良夫を気遣いながら、ゆっくり丁寧に話した。
「これから田中さん家にも電話するから、田中さんの婆ちゃんや爺ちゃんや叔母さんも来ると思うわ。」
「ちょっと待ってよ。父さんの部屋見てくる。」
春子は良夫が冷たくなっている父を見てパニックにならないか心配だった。待っていると、良夫が電話口に戻ってきた。
「父さん死んどる。」
声はしっかりしていた。
「誰かおる?」
「ヘルパーさんがおった。」
しばらくの沈黙の後、良夫が言った。
「俺、全然気がつかんかった。」
声が震えていた。
「仕方ないわ。部屋も違うし。お母さんもおらんかったし。」
良夫は黙っていた。すぐにでも帰って傍にいてやりたかったが、高知にいるのだから話にならない。
「お兄ちゃんには連絡したから、帰ってくれるけんね。それまで一人で大丈夫?」
「うん。」
「着替えて下に降りとってや。いろんな人来とると思うけん。」
「うん。」
「よし君がおってくれてよかったわ。今家におる身内はよし君だけやからね。お父さんもよし君が同じ屋根の下ににおってくれて良かったと思うよ。お母さん今、帰っているから頼むね。」
「わかった。」
良夫は小さな声で力強く答えた。長男和彦は翌日が演奏会本番なので、練習中だったら電話には出なかったと言う。良夫もいつもは起きないのに起きた。正夫の導きなのかと思った。
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