第4章 - 舞踏会

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王宮の窓から見上げると、空は澄み渡り、透き通る青が広がっていた。まるで果てしなく続くその空に、自分の心も吸い込まれていくような気がした。僕が航空自衛隊を辞めることにした理由の一つは、この空を愛し続けたかったからだ。


空はいつも、僕の心を癒してくれた。どんなに苦しんでいても、ただその青を見上げれば、胸の中にあったざわめきが静まる。それはまるで、心の痛みをそっと吸い取ってくれるかのようだった。だけど、パイロットとして飛び続ける中で、空への感情が少しずつ変わっていくのを感じていた。


業務として、僕は空を飛び続けなければならなかった。任務によっては、戦争の最中であろうと、その大好きな空を戦闘機で駆け抜ける義務がある。プレッシャーは絶え間のないもので、任務の緊張感が常に僕を追い詰めた。そんな中で空を見上げても、かつてのように心が安らぐことはなかった。むしろ、空に向かうたびに心が重くなる。


気づけば、僕はあの青い空を、次第に嫌いになりつつあった。だからこそ、僕はこの決断をした。空を愛し続けるために。


何処かの異国の航空機に撃墜されたと錯覚して自分の人生が終わったと感じたそのとき、この異世界へと引き込まれた。それでも、この新しい世界の空は、元の世界と変わらぬ青さを保っていた。その光景に、本来なら不安になるはずの状況でも、安らぎを感じることができた。


ただ、ここでは何かが違った。青い空を飛ぶうちに、不思議な感覚に包まれた。大地が僕の下を浮遊していたのだ。それはまるで、世界全体がどこにも縛られずに自由に泳いでいるかのようだった。


当時はファルコンに意識が宿っていることなんて知らなかったから、燃料がまずいことになると勘違いして、僕は着陸を決意した。場所を見つけて地面に降り立つと、新しく直面した現実の奇妙さに心臓の鼓動が強く感じられた。


人々が僕の周りに集まり始めると、歓声を上げたのだった。


「やった!」「信じられない!」「勝てるぞ!」


その後、緑の髪を持つ女性が近づいてきて、静かに言った。


「この世界へようこそ。」


群衆の喜びとは裏腹に、彼女の表情には深い影があった。その理由が今になってわかる。ミレイアは真実を知っていた――僕が元の世界に戻ることはないかもしれないということ。彼女の目には、その事実からくる罪悪感が浮かんでいたのだった。

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