【アルファポリスHOTランキング 30位】頑強な体のオタクパイロットが召喚されたのは不死鳥と竜が支配する浮遊大陸でした~相棒は命が宿った戦闘機
@nararu
第1章 - 鉄の隼
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灼熱の太陽が地平線に沈みかける戦場に、僕の戦闘機は鋭く突き進んでいた。操縦桿を握る手には汗が滲み、心臓の鼓動が耳に響く。眼前には、無数の帝国軍が大地を覆い尽くし、絶望がじわりと僕の中に広がる。それでも、迷う暇はなかった。
「どうしよう、ファルコン。このままじゃ、ルクスエリオス王国軍は全滅だ。」
コクピットに響くファルコンの声は、冷静でいて、鋭く的確だった。それはまるで、嵐の中で揺らぐことのない灯台の光のように、僕の心のざわめきを静めてくれた。信じがたい話なんだけど、このF-16戦闘機――愛称『ファイティング・ファルコン』からその名を取って、僕は彼を「ファルコン」と呼んでいる――が、いつしか人格を持ち、僕の道標となっていた。燃料は尽きることなく、彼の意思だけで空を舞い続ける。
「湯島、覚えているか?模擬訓練で、田中二佐が見せたあの大胆な回避機動を。」
僕は瞬時にその光景を思い出した。田中二等空佐は航空自衛隊の中でも一際優れたパイロットとして知られていた。その彼が訓練で見せた回避機動は、敵の予測を完全に裏切り、攻撃をことごとく無効化するものだった。敵の攻撃を紙一重でかわし、逆にその一瞬を利用して反撃に転じるその技術は、誰もが息を呑むほどのものだった。でも、今の状況は異なる。ここでは空対空戦ではなく、圧倒的な数の地上軍が相手だから。
「覚えてるよ。でも、今は空戦じゃない。相手は地上軍で、数が多すぎる。」
「そうだ、通常の戦術ではこの状況は突破できない。しかし、田中の回避機動は、敵の地上部隊の注意を引きつけ、混乱を引き起こせるかもしれない。高空から急降下して防空網を突破し、敵の中央に一気に攻撃を集中させるんだ。」
「それじゃ、こちらもリスクが高いだろう…」
「リスクはある。しかし、戦局を打開するためには、彼らの注意を一瞬でも逸らす必要がある。その一瞬で、ミレイアや王国軍が次の一撃を仕掛ける時間を稼ぐんだ。」
僕は地上を見下ろした。押されているルクスエリオス王国側に立って猛攻を繰り広げているのは、緑の髪を持ち、武人とは思えないほど整った容姿の、王国最高位の将軍ミレイアだった。彼女は左右の手にそれぞれ一本ずつ、計二本の剣を自在に操っていた。外見だけでなく、その身体能力も常軌を逸しており、周囲を敵に囲まれていながらも、鮮やかに敵の首をはね、鎧を切り裂いていく。この世界には、僕たちの世界で言う「魔法」のような力を使う者たちがいる。この力を使う者たちは一部の女性に限られていて、「召喚士」と呼ばれる。ミレイアもまたこの力を持ち、時折、彼女の剣は炎をまとっていた。その剣で斬られた者は、仮に傷が致命傷でなくとも体が焼き尽くされるのだった。
でも、そのミレイアをもってしても、ルクスエリオス王国軍全体の流れは敗北を避けられなかった。帝国に奪われた首都を奪還するため、ルクスエリオス王国軍の士気は高かったものの、それだけでは数で圧倒する帝国軍に対抗するには不十分だった。
僕は敵陣を覗き込む。帝国の将軍ヴァルトンがそこにいた――この上なく横柄、残虐で、帝国が首都アークヴァレーを陥落させて以来、奴の冷酷な統治によって民は疲弊しきっていた。しかも、奴の醜悪な性癖――見た目の美しい少年少女を好み、拷問を楽しむという変態性――は、さらに民の苦しみを増していた。領地から未成年を誘拐し、占領された城からは悲痛な叫びが夜ごとに聞こえるとい噂は、残念ながら本当なのだろうと王国民は囁いていた。
僕は深く息を吸い込んだ。ファルコンの言葉は正しい。リスクは大きいけど、成功の可能性がある限り、それに賭ける価値がある。
「やるしかないな。」
「その覚悟だ、湯島。田中二佐は、どんなに厳しい状況でも決して諦めなかったパイロットだ。彼は極限のプレッシャーの中でも冷静さを保ち、自分の航空機を限界まで押し上げる方法を見つけ出していた。湯島、お前が召喚されたのは、お前の精神力が田中と通ずるものがあったからだと私は信じている。さあ、準備しろ。急降下に入るぞ。」
ファルコンが言うような能力が本当に僕に備わっているのか正直自信はなかったけれど、それでも自分に喝を入れ、指示に従って操縦桿を引いた。ファルコンを高空へと引き上げるにつれて心臓が激しく鼓動する中、視界には帝国軍の中心が映り込む。今この瞬間、僕は全てを賭けて帝国軍に一撃を与える。
「――行くぞ!」
重力が全身を押し潰しそうになるけど、視線は決して揺るがない。帝国軍の中心に向けて、F-16、ファルコンは鋭く急降下していった――。
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