出来ないことを受け入れてから、変わった暮らし
星咲 紗和(ほしざき さわ)
本編
「どうして自分はこんなにできないんだろう」──これは私が学生の頃からずっと抱えていた問いだった。授業についていくのがやっとで、成績を保つために必死に勉強しても、バイトや友達との交流に割く時間なんて残らなかった。周りの友人が何の苦もなく両立しているように見える中で、私だけが泥沼でもがいているような感覚だった。
### 学習障害と生きづらさ
その後、私は検査を受け、自分がASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠陥・多動性障害)といった発達障害を持っていること、さらには学習障害(LD)もあることを知った。学習障害というのは、知的能力には問題がないにもかかわらず、特定の分野で学習に著しい困難を感じる状態を指す。具体的には、以下のような特徴がある。
- **ディスレクシア(読字障害)**:文字を読むのが非常に苦手で、文章を理解するのに時間がかかる。文字が歪んで見えたり、単語が認識しにくいこともある。
- **ディスカリキュリア(算数障害)**:数字や計算が非常に難しく、数学の問題を解くのに普通の倍以上の時間がかかる。計算のルールや順序が混乱し、何度も同じミスを繰り返すことが多い。
- **ディスグラフィア(書字障害)**:文字を書くことが苦手で、筆記に時間がかかったり、文字の形が崩れて読みにくくなることがある。
私は特に、ディスレクシアとディスカリキュリアの特性が強く、文章を読み解くのに普通の人の数倍の時間がかかり、数学の授業はただの苦行だった。
### 受け入れるまでの苦悩
「努力が足りない」「もう少し頑張れ」と言われ続けた学生時代。周りの期待に応えようと必死だったが、どれだけ努力しても報われないことが多く、自己嫌悪と劣等感ばかりが募っていった。先生や親、友人たちに「普通にできるはずだ」と思われているのが苦しかった。
その結果、無理を重ねてうつ病を発症した。精神的な限界に達していた私は、勉強もバイトも手がつかなくなり、自分が何のために生きているのかさえわからなくなった。何度も自分を責め、「なぜ自分だけがこんなにできないのだろう」と泣いた。
### 受け入れることの大切さ
しかし、検査を受け、自分の特性を知ったとき、少しだけ心が軽くなった。できないのは「努力不足」ではなく、「自分の脳の特性」が原因だったのだと理解できたからだ。そして、その時初めて「自分にできること」と「できないこと」を受け入れることができた。
それからは、無理にすべてをこなそうとせず、「できないことは無理をせずに諦める」という選択肢を持つようにした。具体的には、以下のような工夫を生活に取り入れた。
- **読み書きの負担を減らす**:電子書籍や音声読み上げ機能を活用し、文字を読む負担を減らす。必要な情報はメモアプリに音声で記録し、書くこと自体の負担を軽減した。
- **計算のサポートツールを使う**:買い物や日常の計算には、電卓アプリや計算機能を活用し、間違いを防ぐとともに、ストレスを軽減。
- **優先順位をつける**:無理に多くのことを同時にやろうとせず、一つ一つのタスクに集中する。あらかじめ予定を組み、1日にこなすタスクを少なく設定することで、達成感を得やすくした。
### 変わった暮らし
今では、できないことを無理にやろうとは思わない。自分にとって難しいことは、できるだけ避けるか、サポートツールや他者の助けを借りる。これが私にとっての「自分を大切にすること」だと感じている。
「できないこと」があるのは、決して恥ずかしいことではない。むしろ、それを認め、自分なりの対策を考えることこそが、本当の意味で自分を成長させることだと思う。かつての私に伝えたい。「君はよくやっている。できないことがあっても、それで君の価値が下がるわけではない」と。
### 学習障害の理解と支援を広げたい
今も多くの人が、学習障害や発達障害を理解されずに苦しんでいる。私が経験したような辛さを他の誰かが味わわないためにも、学習障害や発達障害についての理解がもっと広がってほしいと願っている。そして、自分ができること、できないことを理解し、それを受け入れながら、支援や工夫を活用して生きやすい生活を築くことの大切さを伝えたい。
できないことを受け入れてから、私の暮らしは少しずつ変わっていった。そして今も、少しずつ前に進んでいる。そんな私の小さな変化を、同じような境遇で悩む誰かに届けたいと思っている。
出来ないことを受け入れてから、変わった暮らし 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
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