麗しき男のできるまで

@kondourika

第1話◇学校にいけない◇20240925

麗しき男のできるまで

令和三年五月十四日早朝、一階でガタガタと戸が開く音がした。良夫が夜勤明けで帰って来たのだ。勝手口は、二階の恵理子の寝室の真下にあるので出入りがあると良くわかる。枕元の時計を見ると六時を少し過ぎていた。 

「今日は早かったな。」

 恵理子は頭の中で呟くと、そのまま目を閉じた。小林恵理子は、愛媛県今治市で調剤と相談薬局を一人で経営していた。十三年前に夫正夫が心筋梗塞で亡くなり、十五年間介護をしていた母芙美子も三年前に旅立った。今は次男良夫と二人で、住居兼店舗で暮らしている。良夫は三年前から今治にある佐々木電工で働いていた。良夫は中学三年生で不登校になり、それから約十一年、自宅で引きこもりっていた。引きこもりのきっかけはいじめだと本人は言った。日本では学校にいけない子は病気だと見なされ、親が院へ連れて行き、皆が大騒ぎするので、当事者は何か理由がないと大人は許してくれない。良夫の場合、先生がいじめている子に注意をした。その為余計に学校に行けなくなったのだ。その頃、不登校は今のように多くなかった。良夫の学年百二十人中に二人しかいなかった。恵理子はその頃から芙美子が経営するあすか薬局を手伝っていた。当時は正夫がまだ健在だったので、薬局から車で二十分程の夫の実家の二階で暮らしていた。 

良夫の不登校が分かったのは中学三年生になったばかりの四月だった。「部活に来ていない。」と、先生からの電話があった。良夫はその当時卓球部に入部していた。恵理子には二人の息子がいたが、良夫は長男和彦とは正反対で内向的な性格だった。人と違う事をするのが大嫌いでいつも友達とつるんでいた。本を読むのが好きで小学校では野球部に入っていたが半年程で辞めた。卓球部は友達に誘われて中学二年生の終わりに入ったので自分より下の学年の子が先輩だった。先生から電話があったので、恵理子は店を芙美子に任せて自宅に帰った。自宅は二世帯住宅で、恵理子達は二階に住んでいた。良夫の部屋や他の部屋も探したが見つからなかった。祖父母の暮らしている一階に下りて探すことにした。一階とても広く部屋も押し入れも沢山あった。良夫は小さい頃から狭い処が好きだったので、一階の押入れを片端から開けて回った。台所の隣の部屋の押入れを開けると良夫の運動靴が下の段の布団の上に置いてあった。上の段の布団をめくると良夫が寝ていた。

「よっちゃん、どうしたん?先生探しよるよ。心配したがね。」 

 良夫は恵理子が何を聞いても答えず、押し入れから飛び降りると、二階の子供部屋の奥にある納戸に閉じこもって出てこなかった。今考えると、学校など行きたくないなら行かなくても良かったのだ。良夫の苦悩を考えるとそう思うが、その頃はそう思えなかった。

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