【オマージュ作品】仮面バトラーエスケープ

さくらのあ

第1話

「ちょっと、エスケープ!逃げるばかりじゃなくて攻撃しなさいよ!」


「嫌でございます。だって、怪人怖いですし」



 お嬢様を抱えて、オレは走る。



 突如としてこの世界に現れた怪人。彼らに対抗するために生み出されたのが、仮面バトラー――仮面を被り、怪人と戦う力を持つ戦士たちだ。オレはエスケープを名乗っている。


「なんで逃げるのー?こっちにおいでよー」


 ノイズの入ったような耳障りな声で人語を操るあれが怪人。怪人と言うからには、地球上の生物で例えるなら、人に一番近い形をしている。――が、あれはもう、人ではない。


 怪人は腹の辺りにあるダイヤルを回し、出てきたガチャガチャのカプセルを、手のような器官で投げてくる。


 そして、周囲のものすべてを大きなカプセルに閉じ込め、それを小さくすると、拾って、口に放り込んだ。


「あはは、美味しいー」


「なんで逃げるの〜って、そりゃ、カニだろうと牛だろうとトリュフだろうと、いやトリュフは逃げないか……とにかく、自分を食べようとしてるやつからは普通、逃げますよ」


「それと戦うのがアンタの仕事でしょうが!」


「仕事、ねえ――」


 バトラーとは、執事のことだ。執事というからには、当然、仕える先があるわけで、オレは一応、この高飛車なお嬢様にお仕えしている。


 そして怪人たちの狙いは、お嬢様たちであり、それを守るのが仮面バトラーの――、


「仕事ではなく、使命でございます。……仕事だって言うなら、もっと給料出してくれます?」


「お金が足りないから戦わないって言うの!?最低!」


「お金で苦労したことのないわがまま放題のお嬢様には、一生分からないでしょうねぇ?」


「はあ〜〜〜?」


「けんかしてるのー?なかよくしようよー」


 怪人はまるで子どものようなことを言いながらも、カプセルで色んなものを集めていく。


 とはいえ、このあたりの人払いは済ませてあるし、この騒ぎで残っている人間などいるはずがな――、


「わなわなわな……。エスケープ!今日のディナーはカニと牛!香り付けはトリュフよ!」


 そのとき、きょろきょろと辺りを見回す女性の姿が目に入る。怪人に気づいていないわけではないだろうに、逃げ遅れたのだろうか――。


「俊足!」


 仮面バトラーの誰よりも速く走ることができるこの力で、オレはお嬢様を抱えたまま、女性を助けに走る。


「エスケープ!返事は!?」


「容赦ないですね、うちの腹ペコお嬢は……。――すべて、仰せのままに。我が最愛のお嬢様」


 投げられ、大きくなるカプセルが女性に迫る。視界に影が差し、ようやく危機に気がつくが、そこからでは回避できるはずもない。


 向こうが手を伸ばしてくれれば届く距離。けれど、救いを求めるには時間が足りず、このままでは、オレたちもろとも、飲み込まれてしまう――。


「――お嬢、頼んだ!美味い飯が待ってるから!頑張れ!」


「いっつもこうなるんだからぁ……!」


 女性の手を取り、代わりに、お嬢様を怪人に向かって、放り投げる――。


 お嬢様が黒い革ベルトの横についた小さなボタンを親指で押すと、そこから小柄なお嬢様の背丈を超える大きさの、銀の皿が飛び出した。その皿を思い切り振って、カプセルを打ち返す。


「ちゃちゃっと片付けるわよ!」


「遊んでくれるのー?でも、そっちのおにーさんと遊びたいなー」


 皿を両手で抱えるようにして持ちながら、怪人めがけて走る。怪人から投げられるカプセルを舞うようにかわし、打ち返し、接近。


 そして――皿で頭をぶっ叩く。


「私の方がかわいいでしょうが!」


「ぐえっ。……くらくらするよー」


「怪人の言うこと真に受けるなよ……」


 目眩を起こした怪人の膝に皿を差し入れ、すっ転ばせて皿の上に載せる。


 再び、ベルトのボタンを押せば、皿に似合いのサイズの、フォークとナイフとスプーンの、カトラリーが現れる。


「もう、お腹が空いちゃったじゃない。――あなたは、どんな味がするのかしら?」


 カトラリーの三刀を振りかざせば、怪人は断末魔の叫びを上げ、光となって霧散した。

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