第七王子に転生したので、やりたい事をやらせてもらうぜよ!

紫葉瀬塚紀

第1話 夜明け前 ~第一の章~

 巨大な城を思わせる屋敷が真っ赤な炎に包まれ、辺りの暗闇を消し飛ばすかの様に激しく燃え上がっていた。距離を置いて見守る俺達も、その熱量を全身に浴びる事で、改めて膨大な火力の凄まじさを感じ取っていた。

「今回も派手にやってしまいましたね…」

 俺の隣に立ち、燃え盛る屋敷を見ながら、ソキーラが半ば呆れた様に呟いた。

「ミントがやり過ぎたんですよ。火力の出し過ぎです」

 俺を挟んでソキーラの反対側に立つコシンが落ち着いた口調で言う。

「なっ、何言ってんのよ、コシン!そもそもアンタが仕組んだ事でしょ ! ?」

 責任を押し付けられたミントがムキになって、尖った耳の先まで紅潮させ言い返した。

「賄賂御殿の終焉か…」

 俺は負の要素が溜まった、ある意味この国の象徴とも言える建築物の最期を見届けると、踵を返し次の行動に向け歩み出した。

「まだまだこの国には洗濯が必要ぜよ!」



「退屈だ…」

 フカフカの大きなベッドの上に仰向けになって、白く高い天井を見上げながら、俺は誰に言うともなく呟いた。誰に言うともなく、と言ってもこの無駄に広い寝室の中には、俺と世話係のソキーラしかいない。

 俺の服を畳んで衣装タンスの中にしまいながら、ソキーラは共感の欠片も感じられない口調で

「退屈ではありませんよ、カイエル王子。数十分後に王族会議があります。早く準備をして下さい」

 と極めて事務的な返事をした。俺は大きなアクビをして

「くだらん。時間の無駄使いだ。あんなのに出席しても、部屋の隅に大人しく座らされて、発言権も満足に与えられない。何の為の会議か分からん」

 と仰向けのまま愚痴をこぼした。そんな俺に、ソキーラは少し困った様な顔をして

「本当に王子は変わってしまわれて…。あの日以来…」

 と服を畳む手を止めて、こちらに視線を向けた。あの日…。それは俺がこの世界に生を受けた、色々な意味で始まりと言える一日だった。



 この世界で王子として生まれ変わる前の俺は、別の世界の日本という国の住人だった。

 その頃の日本は、長年続けて来た鎖国政策を諸外国の圧力を受けた事で廃止したが、それが元となり内乱に近い状態に陥っていた。革命を目指す者、政権維持に務める者、新しい体制の確立に尽力する者。様々な思惑と行動が入り乱れる中、俺はこの国の未来を危惧し、最善の策を講じそれを実行して来た。敵対する二大勢力を結び付け、この隙に乗じて介入しようとする諸外国の狙いを阻むべく、国を乱さず血を流さない政権交代を押し進めた。全てはこの国の未来の為。それを願って新しい力強い日本に変えるべく走り回った。そしてその実現まで後一歩と迫ったある日、俺は近江屋という宿屋で複数の刺客に襲われ、命を奪われた。


 死んだ俺は天国に行かせて貰えなかった。何故か三途の川を渡る前に神様に呼び止められ、別の世界の人間の命を引き継ぐ様にお願いされた。

 その人間とは、とある王国の第七王子で、重度の病に侵され絶命寸前だと言う。神様曰く将来その国の中心となるべき逸材で、周りは気付いてないが、そのまま死なせてしまうには惜しい程の指導者としての素質を秘めているらしい。

「新しい人生を歩んでみないか?」

 そう言われて、持ち前の好奇心がムクムクと頭をもたげた。前の人生は志半ばで終わってしまったので、その異世界とやらで今度こそデッカい事をやり遂げてみたい。

 俺はその第七王子の命を受け継ぐ事を了承すると、神様から色々説明を受けた。俺の人格、性格、体力、前世の記憶はそのままで、その上に第七王子のこれまでの知識や記憶が加えられるという事。更に身の危険が迫った際に発動する新たな能力も与えて貰える等、諸々な事柄を教え込まれた。

「前世の様な活躍を、次の人生でも期待しているぞ」

 神様にそう言われて、新たな希望を胸に第七王子の体に入り込んだ俺だったが、現実と話しに聞いた内容があまりにも掛け離れていた事に、最初の内は全く気付いていなかった。

 

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