誰も知らない

水森 凪

第1話


 6月中旬とは思えないほど、その夜は蒸し暑かった。


 ビル街の住宅地の公園のどこにも異様に湿度の高い熱気がこもり、夜になっても気温はほとんど下がらなかった。

 それはもう、どんな気分からも悩みからも眠れない夜からも脱出を許さないぞと、底意地の悪い自然が都会の人間たちに投げた投網のようだった。


 天草樹(あまくさいつき)は電車を降り、人の流れのままに改札を出て、逃げこむように近くのカフェに入った。

 最近開店したその店の入り口には胡蝶蘭の大きな鉢がいくつか並んでいた。某有名デザイナーがトータルプロデュースしたとかで話題になっていたが、隅々まで逃げ場のない明るさと、女性客とカップルの率の高さから何となく入るのを避けていたのだ。


 人工の冷気の中でほっと息をつきながら、ポケットの中の煙草を探り、喫煙ルームに向かう。空席がないのを確認して、仕方なくカウンターの一人掛けの席に腰をおろす。


 明日までのレポートのことを考えればさっさと帰宅したほうがいいのだけれど、一人の部屋に籠る熱気を思うと気が進まなかった。


 一人俯きながら、樹はいつもの癖でほぼ無意識にスマホをいじった。


 落ちかけている大学の単位。借金を返さないままばっくれた自称親友。双方不倫に精を出している実家の両親。たまった鬱憤が過激なサイトへ危ない連中のたまり場へと樹をオートマチックに駆り立てていた。


 人生詰んだやつ集まれ。


 ぼっちのたまり場へようこそ。


 恨み晴らしてくれる人いませんか?……


 すすけた言葉が並ぶ中、視界の中に、ふと飛び込んだ一行があった。


『明日死にます。もう決めました。さよならを言う相手も言いたい相手もいない。目を開けているのに、世界のどこにも、知っている魂が一つも見えない。

 見えないやさしい誰かに、さようなら』


 それは、あと一歩を踏み外した自分の独白のようでもあった。文面から見てたぶん、女の子だ。そして、こういう死にます宣言は寄ってたかって叩かれるのが常なのだ。案の定、すさんだレスが見る間にあとを追いかけた。


『釣り乙。止めてほしいならそう言えば?』


『さいなら。山手線だけは止めるなよ、働いて生きてる人間の邪魔すんな』


『年齢と性別によっては話を聞こうじゃないか。今いくつ?』


 まるで自分自身がおちょくられているような居心地悪さが樹を襲った。しばらくして、返事が書き込まれた。


『女です。今160歳、浮遊中。働いてる人の邪魔はしません。

 止めてほしいのかな……。

 自分でもわからないけど、縁のない人間様がわたしをとめる理由なんてどこにもないと思う。

 あるなら聞くけど。言ってみ』


いろんな意味で、予想のななめ上をいく答えだった。それからは立て続けにレスが並んだ。


『あー、年齢は10で割りゃいいの?』


『そこまで上から目線なら一人で生きていけるんじゃね』


『なんで浮遊してるの? どこで寝起きしてんの? 家に招待しようか』


『写真うP』


『処女ですか?』


 それから返事までしばらく間が空いた。ああ逃げた逃げた、やっぱり釣りか、とがっかり口調のレスが並んだあと、いきなりあるURLが表示された。多分、画像をアップできるサイトだ。


 好奇心にはあらがえず、樹はそのアドレスをクリックした。

 あらわれたのは、拝みたくなるような「足」の写真だった。


 白いつるつるした床に斜めに降ろされた、ブルーラベンダーのニーハイタイツをはいた足。ちらりとみえるひざ上の「絶対領域」は、陶器のようにすべすべとしていて真っ白だった。いつだか酔ったままふらりとはいったスーパーで、すんなりした曲線美のフィリピンバナナを、これが本物の足ならよかったのに、と手に取ってさすった情けない思い出がよみがえる。


 画像の中で、膝に置かれた手が、こちらに向けて紙切れを翳している。かなりくしゃくしゃ気味の紙に、マジックで文字が殴り書きされている。乱れてはいるが、なかなかの美筆だ。縦長の爪にはオレンジのマニキュア。

(6月15日 20:18 年齢は、10で割りたければどうぞ。処女です。だったら何なの?)

 メモに書かれているのは、今から約2分前の時刻だ。本物だ。


 そして2枚目、目だけの自撮り。

 切れ長の、睫の長い、筆で描いたように美しいラインの目だった。そのすぐ上に、切りそろえられた前髪が下がっている。


 泣いていたのか、かなり充血している。行き場を失った悲しみをたたえながら、その深い瞳は切ないぐらい黒くて、真っ直ぐだった。視線は、腐臭ただよう夜のさなかを自己嫌悪を抱えてうろついていた樹の魂を、じかに貫いた。その視線を見た途端、樹は、自者と他者との区別がつかなくなったと言っていい。


 写真の効果はすさまじく、鼻息の荒いレスが次から次へ食いつきはじめた。大体内容の想像はつくだろうか。最初の書き込みが、その代表だった。


『マジで死ぬの? そんなに綺麗な足のに、勿体ない。せめて死ぬ前にやらせてくれよ』


 ああ、ぼくたちはなんてくだらないんだ。……樹は思った。

 その夜、その時間、自殺宣言とその足と美貌と、16歳、という年齢を見た男ども、世をひねた男たちが考えたことの半分以上が、「勿体ない!」だとは。


『土下座します。さげすんでくれていいです。やらせてください』


『生まれて一度もいいことがなかったんだオレ。似た者同士じゃないか。やらせてくれよ』


『処女のままで死ぬなんて神への冒涜だ! こんなに男が余ってるのに!』


『おまえらどんだけヒトデナシなんだ。俺話聞くよ、ちゃんと聞くから死なないでくれよ。居場所教えてください』


 たとえ本音の本音で多少被るところはあっても、樹はその瞬間その時、ただバカどもをかき分けて言いたかった。


 死なないでくれ。そんな適当な絶望感のまま死なないでほしいと。


 でも、本音と冗談と欲望と偽善が人数分まぜこぜになって押し寄せているこの状況では、もうどんなことを言っても危ない釣り糸にしか見えなくなっていた。案の定、彼女は押し黙ってしまった。


 しばらくして、また書き込みがあった。


『わたしは、ほかの誰かを助けるために、ここに来たんじゃない。

 明日死ぬって言ってるのに、本気なのに、みんな、それしか言うことはないの?本当に?』


「言いたいことはある。死んじゃいけない。理由がなくちゃ生きてたらいけないなんてそんなの傲慢だよ。とにかく死んじゃだめだ!」


 樹は初めて返事を打った。その文章は自分自身への呼びかけのようなものでもあったと思う。だが、押し寄せるレスがその文章を後へあとへと押しやった。


 どうせ捨てるカラダならくれてもいいじゃないか!


 わかった、じゃあ恋から始めよう。純愛から。だから居場所教えて!


 5分余り黙った後、彼女は最後の一文をアップした。


『わかった。

 さっきの写真にヒントがある。やりたいならきて。居場所を突き止めてここに来てくれた人に、わたしの最後の一晩をあげる。それから、死にます。

 あと30分、ここで待ってるから』


 それっきり、彼女はサイトから姿を消した。


 耳の周りに、周囲の喧騒が帰ってきた。


 樹はスマホを置いて、なすすべもなく冷めたコーヒーをがぶがぶ飲んだ。

 何度見ても、写真にヒントなどなかった。白いタイルに白い壁、白い足。どこにも手がかりはない。

 だが、喧々諤々推理ごっこをしていたサイトの連中の中に、「わかった!」と叫ぶヤツが出てきた。そいつらはなんのヒントもそれ以上は呟かずに、サイトから消えていった。


 樹は焦った。はったりだとしても、もしほんとうにわかったとしたなら、誰かが彼女のもとに到達してしまう。どこに手がかりがあるんだ?


 幾ら眺め渡してもわからない。自分の能力ではこれ以上無理だ。そう諦めて、樹は絶望とともに立ち上がった。


 たまたまあのサイトを見た自分が不運だったのだ。あれは丸ごと釣りだ。明日も明後日もあの子は元気に生きているだろう、この作り話をネタにして。たぶん、それだけのことだ。

 皿を戻し、ありがとうございましたーの声を浴びながらトイレへ向かったその下向きの目線に、狭い通路をやってくるきれいな足が映った。


 ブルーラベンダーのニーハイタイツ。絶対領域の輝く白さ……


 はっと目を上げた。


 目線の先に、おかっぱ頭の女性、いや、少女の姿があった。


 シンプルな白いワンピース、長い睫を伏せた切れ長の目……


 少女は誰の目にも明らかなぐらい様子がおかしかった。上半身がぐらぐらして、狭い通路の壁を掌でさするようにしてよろよろ進んでくる。その掌が樹の横ですっと壁から離れた途端、体全体が大きくかしいだ。どんと音を立てて、おかっぱの頭が樹の反対側の壁に打ち付けられた。


「あの、大丈夫ですか」慌てて声をかけながら、少女の肩を支える。彼女はとろんとした視線を下に向けたまま、ゆっくりした口調で言った。


「いま、あきました、……から」


 ぷんと酒の匂いが鼻をつく。少女はふらふらしながら席に戻っていった。

 樹は成り行きでそのまま通路を進み、トイレに入った。


 初めての店の洋式トイレに座り込んで、そのまま呆然とあたりを見廻す。


 真っ白だ。壁も床も天井も、真っ白。継ぎ目のないタイル、それとも石? 


 眩しい陽光に取り囲まれたような、逃げ場のない白さだ。個室トイレはふたつあり、ひとつは女性専用、ここは男女兼用。幽かに酒の匂いが漂っている。


 あの子はここにいたんだ。ついさっきまでここにいて、ここで自撮りをしていたんだ。なんて、なんて偶然だ……


 樹ははじかれるように立ち上がり、ドアを押しあけて店内に戻った。


 ぐるりとあたりを見回すと、壁際の二人席に一人で座る、おかっぱ頭を見つけた。


 天使の輪といわれる光沢をぐるりと乗せた頭髪は不自然なぐらい、黒かった。青く見えるぐらいの漆黒。そのおかっぱが、俯いたままゆらゆらと揺れている。テーブルの上にはスマホ。見ているのかいないのか、いやたぶん見てはいないのだろう、映画「レオン」のマチルダを彷彿とさせる短めのおかっぱのすそが顎のあたりで前後に揺れている。

 樹はあたりを見廻した。入口からリュックを背負ったメガネ男が入ってきてあたりをきょろきょろ見回している。もしかしてあの底辺サイトの住人か? そう勘ぐり始めたが最後、入ってくる男の客がみんな最低のスケベ野郎に見えて来た。


 樹は意を決して、おかっぱの向かいにそっと座った。


 目を閉じていると思っていた彼女の頭がゆっくりと上がり、切れ長の目がこちらを見た。

 ……あの目だ。草原で道を失った獣のような、

 悲しくて、漆黒で、でもまっすぐな瞳だ。


 少女は黙って右手を上げた。そして掌をこちらに向けたまま、


「よっ」


 と言った。


 ……よっ?


 テーブルに置かれた彼女の指のネイルは、鮮やかなオレンジだった。


 樹は数秒考えて、同じように右手を上げ、小さな声で


「どうも」


 と返した。するとおかっぱ少女はぶるっと首を振り、言ったのだ。


「みず」

「水? ああ、……ええと、水ね」急いでカウンター横のセルフコーナーに向かい、ガラスのコップにジャグから水を注ぐ。


 振り向くと、少女はいすに寄りかかったまま腕を組んでいる。と思うと天井を仰ぐように顔が上向きになっていき、ごんと音を立てて後頭部が壁にぶつかった。あれじゃ終電の酔っ払いだ。


「あの、これ……」


 おずおずと差し出したコップを受け取ると、ラッパ飲みのようにして少女は水を飲み干した。その水は首を伝って彼女の白いワンピースの胸の部分をぐっしょりと濡らした。


「あ、ハンカチ……」あたふたと鞄を探る手を「いい」と短く言って止めると、少女はやっとこちらをまともに見た。


「……だれ?」


「あ、ぼくですか。ええと、名前は」

「ネットのひと? のなかの、一人?」

「そう、だけどあの……」

「この店にいたの?」

「たまたま。偶然」

「……早いと思った」


 少女はテーブルのすみのナプキン立てから紙ナプキンを取って広げた。そのナプキンの隅っこに小さく、店のマークがある。胡蝶蘭の花をかたどったマーク。なるほど、あの写真で使っていたのはこの紙だ。わかったといった連中は、こいつを見たんだなと、いまになって樹は思った。


 少女はマジックを取り出すと、大きく「締切り」と書いた。そしてそれをスマホで撮ると、しばらくキーをいじくっていた。樹の倍ぐらいの速打ちだ。あのサイトに見える形で今の写真をさらすのだろう。もうゲームは終了だと。


 ぼくは、間に合ったのだ。……かすかな優越感が樹を満たした。


 少女はナプキンをたたみはじめた。そして手のひらに収まる小ささになると、大きく音を立てて鼻をかんだ。


「おなかすいた」くしゃくしゃのナプキンを鞄につっこみながら言う。

「あ、何か食べたい?」

「吐きそう」

「……じゃ、食べないほうがいいな」

「変な感じ」

「へん?」

「半分、脳みそを乗っ取られた気分」

「誰に?」


 少女は突然樹を指さした。その指先はふらふらしながら空中に上がってゆき、ぐるぐるゆっくり輪を描き始めた。


「そこら辺にある何か」


 全然、まともな会話が成立しない。そもそも、ぼくはどうして彼女の前に座ったんだっけ? 樹は自分に問いかけた。

 そう、彼女が明日死ぬと宣言して、なら一発やらせてくれとぬかすバカが多発して、そのバカどもが正面に座る前にとこの席をとったのだ。


 しかし、彼女にとってぼくはというと……


 漆黒の目がこちらを見ている。心の底からの軽蔑がこもった視線で。


「……わたしと、なにがしたいの?」


 形のいい唇からその言葉が発せられた時、樹は厳しい母親に思いきり怒られたときのような衝撃を受けた。彼女から見れば確かに下心ではち切れそうな人種と思われているのだ、今は。だが違う。押しつぶしたような声で、樹は言った。


「話がしたい」


 少女は首を傾げた。


「何の話?」

「それは……」

「話をしたあと、やりたいことがあるんでしょ」

「ない」

「あのね、一人でもできるんだよ」

「えっ?」予想外のきり返しに思わず絶句する。

「そりゃ、そうだろうけど、いや、いやそうじゃなくて……」

「こっくりさんて」


「こ、こっくりさん?」


「暇だから、わたしもすごく暇だったから、ひとりでしてたの。こっくりさん」

「はあ……」

「バカみたいよね。あれって、誰が十円玉動かしてるのかわからないってのが味噌なのに、一人でやってもね」

「……」

「で、途中でやめたんだけど、まずかったと思う? こっくりさんこっくりさんおかえりください、これでいいんだっけ?」乱暴に五十音表の書かれた紙ナプキンを鞄から出して広げながら、聞いてくる。どれだけの間この店の紙ナプキンで一人で遊んでいたのだろう。


「……じゃあネットで言ってた、やりたいならきてっていうのは、こっくりさん……」

「なわけないでしょ」


 思いきり馬鹿にされて、樹は俯いた。いったいどこをどうやったら、まともな会話に持っていけるのだろう。ここはひとつ、自分から切り込んでいくしかないようだ。


「きみ、明日死ぬって言ってたよね。あれは、本気?」


 少女は黙り込んだ。そして目を閉じると、また後ろの壁に寄りかかった。そのまま寝てしまいそうな様子に、樹は続けて声をかけた。


「本気なの?それだけはちゃんと確かめたかったんで」


「……もう」

「もう?」

「もう、誰もいないから」


 そのまま黙り込む。樹も口を閉じて待っていた。一分ほどして、少女はまた口を開けた。


「誰もいなくなっちゃったから、帰る家もないから」

「帰る家がない? 家出してるんじゃなくて?」

「親戚のところに仮住まい中。いろいろあって一家離散したの。わたしには家が、家族が全てだったから、わたしもいなくなるの」


 家が全てか。自分とは正反対だ。ぼくには家はあるけど家族全員嫌いだからな。樹は胸の中で独りごちた。でも、かなり由々しき事態らしいのは確かだ。


「じゃあ、やっぱり死ぬ気なんだ」おそるおそる聞くと、

「うん、そうだね」あっさりと言う。


「それ、やめてもらうわけにいかないかな」


「どうして?」


「ええと、……こうして知り合ったからには、もう赤の他人じゃないし、まだ若いのにそんな理由で死んでほしくないから」

「そんな理由?」寄せた眉間に明らかな不快感が浮かんでいる。樹は慌てた。

「いや、詳しくは知らないけども、絶対生きられないってわけじゃないだろ。その日一日命をつなぐ食べ物と水があれば、生物としては生きられるだろ。明日以降のことを考えると絶望するっていうなら、考えなきゃいいだろ。それを毎日続けりゃいいんだよ。野良猫みたいに、野良犬みたいに、鳥みたいに、魚みたいに、森みたいにさ」


 少女は目を丸くすると、かすかに笑って


「……確かに」と呟いた。


 それから、ふうとため息をつくと、細い視線を下に向けた。


「でもね、わたしは家のない動物と違って、一応ちゃんとした家のあったかさを知っているから、それを奪われるのは辛いんだよ。生まれたときから一人ならよかったんだけどね」


 愛、か……。


 一応、幸せな子だったんだな。すべてを失う前は。樹はだんだん、心の奥にしみわたるように、彼女を気の毒に思いはじめていた。


「なにかない?」こちらの心の動きを見透かすように、少女は言った。


「なにかって……」

「あなたが今一番大事にしてるもの、ちょうだい。わたしたちもう知り合いなんでしょ。それが力になるかもしれないから」

「一番大事? 大して金になるものなんていま持ってないよ、貧乏学生だし」

「それでも、わたしが喜びそうなものがあったらちょうだい。その分だけ生きるから」

 新手の追いはぎか?

 同情した途端、突拍子もないことを言う子だ。いくらかわいくても、いくら先が危ぶまれても、こういうシチュエイションで意地でも金は出したくない。樹はがさごそと鞄を探ると、小さな包みをとりだした。


「じゃ、これあげる」

「なに?」

「すごく大事なもの」


 少女は中を覗いた。「おふくろいなり」と印刷されたパックが出て来ると、呆れたように持ち上げて見入った。中には、大き目のいなりずしが4個、入っている。


「ぼくの晩飯、それだけ。バイト代が入るの、あさってなんだ」


 少女はプラスチックケースを開けて一つつまみだすと、実にうれしそうにふわあっと微笑んだ。そうしておふくろいなりを口に入れ、おいしそうにもぐもぐと口を動かした。  


 その時樹の背中から店員が苦い声で話しかけて来た。


「すみません。お持ち込みはご遠慮願っております」

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