無象街/muzougai

渦雲/うずも

1 何気ない会話から

「ねぇねぇ!貴方無象街で育ったんでしょ!お話聞かせてよ!どんな感じなの!」


今日この瞬間、この場所で、この一言を言われて

私は初めて 自分の街が無象街と呼ばれていることを知った


「むぞう?むぞうってあの、有象無象のむぞう?」


「知らなかったの?無象街の話!そこ出身の人だから知ってると思ってた〜!」


いや、知らない 聞いたこともない

私の生まれた街はちゃんと名前がある 

街灯が夜道を照らす中、さりげなくされてしまった話に相槌を打ちながら私は無象街?の話の内容を聞く

しかしそう呼ばれる理由自体はその子も知らず、1番知りたかった理由が分からず モヤモヤした気分で帰路に着く 

普通の学生の帰り道だ


友達と別れてから暫くして私はふと、道に目を落としてしまった 大きな大きな水溜まりがあったのだ 

何の変哲もないただの水溜まり...に見えたが私は何か、その水溜まりに対し違和感を感じていた


そうだ 今日雨なんか降っていない


雨なんか降っていないのに水溜まりがある 

私は見間違いかと思い近づいてみたがやはり水溜まり どこかから水漏れでもしてそれが道路に流れ込んでしまっただけだと そう思いたかったが

ここでもう一つ そこにある決定的な違和感が水溜まりを見る私の眼を疑わせる


水の中に街がある


ただの道路にできた水溜まりの中に 閑静な住宅街とは程遠い高い建物の競争 

残業の光を灯すオフィスのビル群 

まさに都会と言うような街並みであった 

もう近づきたくはなかった その水溜まりは普通ではない でも私は、その建物の群れが放つ異彩に惹かれてしまった 




水溜まりに足を踏み入れる

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