第4話 バカンスの四人

 わたくし達が天からの恵みたる宝物を授かって早数ヶ月。

 各地で暴虐を尽くす悪鬼達を払い、人々を救済しては感謝を得る日々。


 それ自体はパーティを組んだ当初からでしたが……、やはりあのお宝。

 クアンさんが扱うあの籠手の力のおかげで、一層の名声を手にしました。


 格闘術に優れた人物と武具。この組み合わせに加え、どのような攻勢すらも払いのける力。

 さすが、尊い犠牲の上に手にしただけはございましたわ。

 神の国にきっと……。


 さて? あのお方の名前はなんでしたか?

 ……まあ、そのような事はどうでもいいでしょう。


 そのお方もきっと、天にまで届くわたくし達の栄光に鼻が高い思いを味わっておられる事でしょうね。


「さあ、見えてきましたよ。みんな」


 クアンさんがそう言って指を示すのは、この国でも有数のリゾート地。

 激戦続きのわたくし達の心を荒ませない為には、時折こういった世俗の風流を楽しむ必要がございます。


「じゃあ、あそこに入ったら一旦解散ってことで。みんなで一人ひとりの時間を楽しもうじゃん」


 ルロリアさんが声を弾ませ、同意するわたくし達。

 普段一緒に過ごしている分、見知った方々の目を気にせずに楽しむ時間は貴重ですので。


「分かってると思うが、何か問題が起きても自分で解決しろ。休暇にわざわざ面倒を見るのはごめんだ」


「分かっていますよ、ラキナ。ただ……少しばかりの”手合わせ”などはむしろよろしいでしょう? 折角こういう場所に来られたのだから、違った味わいもある。そうは思いませんか?」


「……好きにしろ」


 ぶっきらぼうなラキナさん、ですがクアンさんの誘いを断ることなく、了承していました。

 ……いやはや、名前も覚えていないあの方がここに居たらと思うと、ゾッとしないでも……無いかもしれませんわね。


 まったくいつの頃からだったのか……。興味などはございませんが。




 いざ街に入れば、リゾート地特有の陽気な雰囲気に高揚してしまいますが、だからこそ楽しめるというもの。


 今はもう一人で行動して、各々が好きに過ごし始めていました。

 最終日の集合時間まで完全な自由。


 聖職者たるもの、どのような土地であれ質素を嗜むものとはいいますが……。


「お客様、お飲みものをお持ち致しました」


「あら、ご苦労様です」


「では、ごゆっくりお楽しみ下さいませ」


 ボーイの男性からお酒を受け取り、喉に流れていく甘さに一口で酔いしれる。

 ここは街の中央にあるカジノ。


 皆々様がお金で欲を掛け、そして一瞬の煌めきを追い求める場所。

 ドレスをレンタルし、着飾った今のわたくしを、一体誰がプリーストなどと思うのでしょうね。

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