第2話 姿を現す者達
「あ~あ……、素直に倒れてくれればよかったのにぃ」
「仕方がありませんね。あの殿方、”無駄に”お体が頑丈でいらっしゃいますから」
侮蔑した声色で会話をするルロリアとアモネの会話が、俺の耳に聞こえつつも、その内容を理解する事が出来ない。
「……え?」
「ああ、すまんなサーライル。こちらの不手際だ」
「不手、際……?」
「つまり――こういう事だ」
何よりも愛しいはずの恋人――ラキナが悪びれもないような謝罪をすると共に、いつの間にか握られた剣から斬撃が飛び出す。
それは呆ける俺の左足をかすめるように、しかし、ザックリと深く傷つける。その切り口からは鮮やかな血液がぬらぬらと流れ始めた。
痛みと失った足の力に抗う事も出来ず、体は片膝で支えるように倒れて蹲るしかなかった。
(なんだ!? 何が起きて……!)
「不思議でしょうね、サーライル。本当はこんなことまで君に話す必要は無かったんですが……、まあこれまでの付き合いもありますので、せめてもの手向けだと思って耳をお貸りしますよ」
幼馴染の、あの誠実を絵に描いたような男からは想像も出来ないような見下した不敵な笑みと声で、俺を見下ろした瞳で親切心を醸し出しながらも話を続ける。
「あの酒場での話、実はその後も独自に聞き込みをしましてね? それで知ったんですが、今までここに乗り込んだ方たちは単独で動いていたそうです。それでもしやと思った事がありまして……君を除いた全員と相談した後、一つの仮説を立て、実行する運びとなりました」
「何を、言って……っ」
「今君がいる地点、その足元をよく御覧なさい。仄かに光っているでしょう? それは恐らくトラップが発動したという証拠。つまり――我々にとってはこの上ないチャンスでもある、という事です」
「は……?」
「う~ん、分かんないかなぁ? でもそのオツムじゃ仕方ないね。ボク達さ、話し合ったんだよ。もし話の通りなら、誰かを身代わりにでもすればお宝を手に入れられるんじゃないかなってさ。ってなるとさ」
「消去法的に、それはあなたという事になりますね。だって仕方がありません。今のわたくし達のパーティで最も損失的に小さい人間はあなたしかいらっしゃらない。多少名残惜しいですが、大事の前の小事。今もまばゆい輝きを放つあの宝物を確認してしまいましたので、それとあなたとの価値を天秤にかければ……」
「だが、我々の今後の活躍の為の犠牲になれるとなれば喜ばしい話だと思わんか? 偽の情報だったらなまだ長生き出来たのだろうが……。これも運命だ、お前はゆっくりあの世とやらで見守ってくれればよい。ここまで付き合ってくれた礼として、何年か後、お前の故郷でそれなりの墓でも立ててやる。仲間の為に果てたと吹聴すれば、お前ですらも英雄として称えられるだろう。安心して死んでゆけ」
ルロリア、アモネ。そして最愛のラキナから立て続けに浴びせられたのは、あまりにも惨い言葉。
「そん、な……こと……!」
「では、そろそろお別れと行きましょうか」
アモネが杖をかざすと、俺の体は淡く光る鎖に拘束されて身動きが取れなくなる。
地面からあふれ出す力も相まって、指先一つまともに動かせない。
ラキナは剣を鞘に収めるとゆっくりと近づき、俺の隣へと止まる。
「最後の慈悲として一つ報告しておくが……別にお前の事が嫌な訳では無い。ただ本当のところ好きでも無かっただけだ。これで夢も覚めたろう?」
何を言っているのか……。理解する間もなく、その後ろからクアンも続くように近づいてくる。
「死の神の導きがありますように。さようなら、私の一番の親友よ……」
そして拳を振りかざしたクアンは――蹲る俺の頭に向けて……。
「ッ!?」
声にもならない悲鳴を、まさか自分が出してるとも認識すら出来ず、この意識は黒く塗りつぶされて行った。
………………。
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