この部屋に入るべからず ―SACRED ROOM―

ハルヤマ ミツキ

この部屋に入るべからず ―SACRED ROOM―

修学旅行の夜に、友人と旅館を抜け出して散歩をしていたらたまたま見つけたんです。あのアパートを。


後で調べたんですけど、あの辺では結構有名な心霊スポットだったみたいでなんか心霊系YouTuberとかも来てたらしいんですよ。


でもその時は、そんなこと知らなかったからただの不気味な廃アパートくらいにしか思ってなくて友人と興味本位で近づいてみたんです。


そしたら二階に続く階段の手前で友人が急に『あ、ここはヤバい』って言い出して、自分は一体何がヤバいのか分からなかったんですけど友人に言われるまま結局旅館に引き返すことになっちゃって。


だから、噂のあの部屋は確認できませんでした。





■■県T市にある廃アパートは、なぜ『呪われたアパート』と呼ばれているのか。


その原因は、二階の206号室にある。


入口の扉に『この部屋に入るべからず』と書かれた張り紙が貼られたこの部屋には、かつて三人家族が住んでいた。


とても仲が良く、絵に描いたような仲睦まじい家族と近所からの評判も良かった一家はある日突然一家心中を図った。


死因は、薬物による中毒死。


三人共、部屋の中心で泡を吹いて倒れていたという。


事件の二日前、家族三人で近所の公園に出掛ける様子が目撃されていたことから何かトラブルがあったとは考えにくい。


一体、一家に何があったのか。


警察もあらゆる捜査を行ったが、真相解明には至っていないとのこと。


この謎多き惨劇は序章に過ぎず、一家心中事件から数年後、しばらくの間空き家だった206号室に越してきた夫婦が入居して五日後に突然死。


さらに数年後、また新たに越してきた女性が入居して一週間後に首吊り自殺をしたのだ。


206号室の入居者が立て続けに死亡していくことから、他の部屋の住人たちはそれを呪いだと恐れ自分たちも同じ目に遭いかねないと一斉に退去。


噂は広まり、やがてこのアパートに入居する者は誰一人として現れず大家の判断で取り壊しが決定されたが工事当日になって作業員複数名が謎の体調不良を訴えた。


そして他にも作業員本人ではなくその周りに不幸が訪れたり大家が病気で倒れたりしたことからアパートを取り壊すのは危険と判断され、そのままの状態で放置されることとなった。


以上が、地元では有名な心霊スポットでもある廃アパートが『呪われたアパート』と呼ばれる所以である。





あのアパートのことですか?


いいでしょう。お話します。


えっと、今日が17日だから5日前ですね。僕、車持ってないんであのアパートに行きたいがためにわざわざレンタカー借りちゃったりして……まあ、電車で行く手あったんですけどすげぇアクセス悪くてこれは車の方がいいなって。


2時間くらいかかったかな。家を出たのが遅かったのもあって、アパートに着く頃にはもう外は真っ暗でした。


噂どおり外観から激ヤバオーラ全開で、正直外から例の張り紙があるかだけ確認して帰ろうと思ったんですけどさすがにそれは男らしくないと思ったんで、勇気出して206号室に潜入しました。


もちろん、ちゃんと張り紙は確認しましたよ。手書きで書かれてました。『この部屋に入るべからず』って。


あ、鍵ですか?僕が入ったときは開いてましたよ。


えっ、昔は閉まってたんですか?


あれじゃないですか。なんだっけ……ああ、そうだピッキング。それか無理やりこじ開けたとか……まあ、その辺は分かんないですけど、とにかく潜入したんですよ。


中は、あんまり散らかってませんでしたね。落書きとかも、とくには見つからなくて……内心ビビりながらも何だこんなもんかって思ってたら……。


これ、部屋の中で撮った写真なんですけど……ほら、ここ見てください。そう、床のところです。ちょー血っぽくないですか?


いやいや、それがただのシミじゃないんですよ。写真の中だけなんです。こんな風になってるの。


ね、変でしょ?僕もその場で確認して何だこれって思って、試しに他の場所も撮ってみたんですけど写るのはこの場所だけなんですよ。


あ、一応ちょっとだけ動画回したんでそれも観せますね。


ほら、あんまり散らかってないでしょ?


はい。動画にも血の跡は映ってないんですよ。ますます不思議ですよね。


これとかちょっと人影っぽく見えるんですけど、たぶんそう見えるだけですよね。


ん、あれ?


ああいや……なんか、玄関の扉が若干開いているように見えたというか。ちょっと巻き戻していいですか?


やっぱり開いてる。な、なんで?


いや、この動画僕すでに一回観てるんですよ。当日家に帰ってすぐに。その時は間違いなく扉は閉じてたんです。


なのに、どうして……。





この取材に応じてくれた都丸律とまる りつさん(24)ですが、取材日翌日に急性心不全のため自宅マンションで亡くなったことが分かりました。

我々一同、心よりお悔やみ申し上げます。

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この部屋に入るべからず ―SACRED ROOM― ハルヤマ ミツキ @harumitsu33

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