どこからが痴漢でしょうか?

dede

可愛い女の子かと思った?じゃじゃーん!dedeでした。


何年経っても、繰り返し思い返してしまう記憶というものがあります。これはその一つです。




尻に手が当たっているのです。


 いえ、ちょっと一呼吸して落ち着きましょう。私も男です。紳士たるもの、簡単に動揺してはいけません。

 ええ、まず、整理しましょう。ココは休日も夕暮れ時の電車の中です。晩秋の夕暮れはマッチのようなオレンジに街を一時染め上げたものの、今は陰りを見せ始めているのです。徐々に乗車する人が増えてきて、背中への圧が高まり、吊革を持つ手に力が入り始めた頃合いなのです。


尻に手が当たっているのです。


 いやー、まあ、私も男ですし。相手も女性なら気遣って全力で回避してたでしょうが、男ならまいっかと尻に手が当たる事もあるんじゃなかろうか。

 ただまあ、ちょっと留意すべき点として……なぜ当たってるのが手の甲ではなく手の平なんでしょう???

 あ、いや。いけませんいけません。悪意に基づいて物事を判断するのは良くない事です。きっと、満員電車の圧に負けて手首を返すことができないでいるのでしょう。きっとそうでしょう。電車が揺れるタイミングで少し手が動いてる気がしているのですが、きっと気のせいです。自意識過剰です。私にそのような価値はないのです。


 いやだって、ほら?私、男ですよ?そんなことあろうハズがないじゃないですか。汗臭い男子高校生ですよ?小学生とかなら間違う事もあったかもですが、高校生にもなってですよ?恰好も、スリムジーンズに赤いチェックのモコモコしたアウター……あれ?案外女の子でも着てておかしくないのか?いや、でも男子ですよ。髪型だって……髪型だって……結べたな、この頃。いや、でも体型でわか……あ、だから服装で分かりづらくなって?いや、でもそこは匂い、匂いですよ!汗臭さで分かるでしょうよ!男子高校生は汗臭いですよ!秋なんで控えめですけど!

 そもそもがですよ、褒められたものでは……というか、明確に犯罪行為ですが。そんな世間とは一線を画すような犯罪的助平な方がなのですよ。そんな人間が、女性と間違えて男をターゲットにするなんてミスを犯すだろうか!いや、ない!

 ですからこれも、私のタダの自意識過剰な、後になれば羞恥するような、客観的に見ればただ満員電車に揺られてた、というただそれだけの光景なのですよ。


 なんでしょう、ココまで思考がグルグルしてたら昔読んだある女性の話を思い出しました。エッセイだったかマンガだったか忘れましたが、その方が学生の時に初めて電車で痴漢にあった話です。その筆者は、始めよく分からなかったそうです。自分がそういう性的な対象と見られるなんて思ってもみなかったそうで。でも徐々にこれは、あれだな、痴漢だなと理解されて、それでも気持ち悪いというよりはタダタダびっくりだったと。それを淡々と語られていて、その時はそんなものかと思っていたのですが……。


 まあ、今ならお気持ち、分かります。あ、いえ。やはり分かりません。私のコレは痴漢ではないのですから。ただ、想像を膨らませると理解できなくはない。生々しいぐらいには理解できなくはない。


 まあ、ともかく。この手は何だと悶々としていたら、ある時大きく電車が揺れました。そして尻にあった手も離れていきました。いやー、よかったよかった。


 その手が股下になければですが。


 え?満員電車だったとしてもそんな所に手が辿り着く事って普通あるん?でも確かに内太ももに感じる手の感触。あ、今度は手の甲でしたよ?全然安心できませんが!たまに反対側の太ももに指先が当たりますが!

 しかも偶然なのか意図的なのか、さする様な動き。いやー、でも、まさかなー?吾輩、男である。名前はdedeである。彼女はまだない。


 そもそもですよ?もし。もしですよ?仮に私の背後にいる彼が痴漢だとして。私の取るべき行動に何がありますか。叫びますか。男子が。「痴漢ですよー」と叫びますか。むしろ颯爽とその手を掴んで「コイツ、痴漢です!」と検挙しますか。触っていた相手?私ですよ。

 しかしこの人もおバカですよ。こう言ってはなんですが行き過ぎた助平で犯罪にまで手を染めて、その挙句引いたカードがババ(♂)なのですよ。まったく。不慣れなビギナーだったら紛らわしい相手を狙わずにもっと女の子女の子した人物を狙えばよいものを……いや、見方を変えたなら私は一人の女の子を痴漢の魔の手から救ったのか。そう考えると誇らしくも思えてきます。嘘です。タダタダ不可解なだけです。というか、ここまできてある考えに至りました。

 ホントにこの人は、女子を狙っていたのか?始めから男子狙いだったのでは?その可能性を私は鼻から無視してはいなかったか?それならば私が狙われた事も或いは……いや、ないわ。報告2度目ですが彼女いた事ないんですわ?イイ感じになった事すらもないんですわ?どうせ狙うならもっと美形とかさ、いい体つきの男子を狙えよ痴漢紛いの人!!急に腹が立ってきたのです。

 そもそも結局あなたどっちよ!痴漢なの!違うの!どっちなの!!私がオカマっぽくなってきた!!


 と、そんな風に苛々しだしていたら、ふと、太ももから手の感触が離れました。揺れと共に停まる電車。開くドア。流れる人。閉まるドア、動き出す電車、まばらな車内。そして振り返る私。


 周囲にいたのは部活帰りらしき他校の男子高校生たちでした。きっと彼らではないでしょう。


 そうしてたくさんのモヤモヤを残したまま、電車は目的地につきました。もうすっかり暗くなった駅のホームに下車します。何度も繰り返し乗った電車のハズなのに、なんだか今日は長旅を終えたような心持ちなのです。思った以上にくたびれました。嗚呼、早く風呂にでも浸かって寛ぎたい。


 今でも、たまに思い出して、一体何だったのかと考えるのです。

 痴漢だったのか、ただの私の自意識過剰だったのか。男だったのか女だったのか。何がしたかったのか。

 そして、私が女だったなら、この経験はどう意味が変わってたのだろうか、とか。


 まあ、幸いにして私は女性ではなく男でして。ハッキリ痴漢という訳でもなくなんだか痴漢だったような……?という経験だったからこうやって語れてる訳でありまして。そういう意味ではこの体験も無駄ではなかったと思う事にします。スッキリしませんが。ただ思う事はただ一つ。


 だったとしてさぁ、もっとさぁ、相手選ぼうよ?

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