第97話 ご想像のとおりです


「なるほどねー。ダンジョンについてでその後の混乱や人の集中が予想されることをコラボの中で発信するつもりだから、事前にボクたちに相談した上でその対処について白の旅団に依頼したいと、そういうことなんだ」


 ふむー、と竜胆さんが腕組みをする。その彼女の横では、大垣さんがノートパソコンで検索したらしい熱海ダンジョンについての情報を紹介していた。


「場所は熱海ダンジョン、ですか。特にこれまで目立った報告や発見がなかった地方ダンジョンの一つですね。深層3階までは地元のB級探索者による探索がすでに済んでおり、ダンジョンの脅威度も星4つとそこまで危険度は高くないダンジョンです。むしろどちらかというと旨味も少ないため、過疎化しかけていっている代表的な地方ダンジョンの一つですね」

「あれ。星4つ程度なのにまだそこまでしか探索されてないの?」

「リーダー、これは地方の過疎ダンジョンによくあることですよ。だいたいそのあたりまで潜れたあたりで、B級探索者に上がったその地域所属の探索者がよそのもっと稼げるダンジョンや都会の探索者ギルドへと実質的に席を移したりしてしまうんです。そのため、過疎化している地方ダンジョンの探索が途中までしか進まず、そこから先の階層の探索が放置されているダンジョンというのがけっこうあったりするものなんですよ」


 なんでも、B級に上がれたところでレイダーズなど他地域でも活動しているクランが引き抜きや勧誘に行って地元から連れ出していってしまうことが多いらしい。そうして成長株が引き抜かれてしまうと、残った探索者たちの平均ランクが下がってしまうため、探索層がもっと浅い層まで後退してしまうというパターンがよくあるのだという。


「せっかく潜って進んでいったのなら、最後まで行ってみたいと思ったりはしないものなのかなぁ」

「そんなふうに残る者がいる場合も稀にはありますけれどね。どうしても探索者の年齢層は若者が多いものですから、地方の若者は娯楽の多い都会に憧れをもって勧誘に乗ってしまいがちなようなんですよ。それに勧誘や引き抜きの場合、応じずに残る場合よりも引き抜こうとするクランから出される定期給与や雇用契約の額などにより収入が大きく増加する場合が多いものですから、そういう経済的な面でも応じてしまう者の方がどうしても多くなるんです」


「どこのクランもダンジョン探索を進めるためにも、有力な人材を確保することには常に頭を悩ませていますからね」と、大垣さんが苦笑する。


「ま、そういうことならしょうがないかー。ボクだってお給料や稼ぎは少ないより多い方がいいもんね。そっちに惹かれちゃうのはしょうがないよ。

 さて、話を戻して……んー、今回の相談、ボクはゆーなさんたちに対して一つだけ気になってることをきちんと答えてくれるのなら、やってもいいかなーって思うよ。

 いまは特に白の旅団としてのダンジョンアタックの企画とかはない空きの時期のはずだしね」


 そう言って竜胆さんが優奈たちのことを測るような視線を向けてくる。


「ずばり尋ねるんだけどさ。ゆーなさんたちは、そのコラボ配信の中で発表しようとしていることって、いったいどんなことなの?

 地方の過疎化ダンジョンだっていうのに、そこで混乱や人の集中が発生することが予想されるっていうのならよっぽどなことのはずだよね。そこの部分についてをきっちりと教えてもらった上でないと、さすがにボクたちも人を動かしたり時間を取ったりする関係上、その点があいまいなままだと頷けないんだよね。

 だから、そこについて詳しく教えてもらえなければ、いまのままじゃ了承できないし、逆にその辺りをきちんと教えてくれるのなら、力になるのはやぶさかではないよ」


「その辺は御月くんも大垣くんも同じ意見だよね?」と竜胆さんが左右にいる二人に確認をすると、両名ともが頷く。


「動員する人たちの人件費だけでなく、交通費なども必要になりますからね。それに見合う懸念の内容でなければ、会計としても了とは言えません」

「個人的には協力してあげたい気持ちはあるが、私も同じくですね。

 混乱や人が集中してダンジョントラブルが発生することが見込まれるのであれば、事前に対処することは白の旅団としての存在意義のようなものですし、最近ちょっとしたことがあっただけにそういったトラブルを防いでみせることで白の旅団ウチの評判を挽回する機会にしてみたいとは思いますが……ゆーなちゃんの個人的なこととかが理由での混乱や人の集中が予想されるものだというのであれば、むしろ発表しないように動いた方がいいのではありませんか、とアドバイスをさせてもらうことになるかもしれませんし」


 三者三様にではあるが、きちんと説明を、と求められる。予想していたことだ。なので、茜さんと春香さんから視線を向けられた優奈は、二人にコクンと頷くと、ことになるのか、についての説明をすることを決める。

 ただし、その前に――


「わかりました。そのことについてはお話するつもりではいましたから説明させていただきたいとおもいます。

 ただ、こちらとしてもFunnyColorさんの事務所とのコラボ回での発表することの目玉になる情報でもありますので、万が一の情報漏れには厳しく警戒しておかないといけないんです。

 だから、お話すれば受けていただけるのであれば、その前にその情報に対する守秘義務のを結んでいただいてもだいじょうぶでしょうか?」


優奈がそう尋ねると、竜胆さんがちょっとムッとした顔をする。


「むぅ。それは契約を交わした後じゃないと、私たちのことが信用できないってことなのかな?」

「竜胆さんや御月さん、大垣さんについては信用したいと思っています。ですが――――自己紹介もなく、そちら側の隣の部屋で聞き耳を立ててる三人の方が居ますよね。その人たちのことは、このままじゃ信用できませんから」


 優奈がそう告げると、竜胆さんたちが一瞬きょとんとした顔になった後、すぐに竜胆さんと御月さんの顔がバッと真剣なものに変化した。


「御月っ!」

「一人も逃がしませんっ!」


 ダンッ!と二人が即座に立ち上がり、一足飛びに会議室のテーブルを飛び越え、部屋の外へと飛び出していく。しばらくしてドアの外で何かが壁にぶちあたる音や大声での罵声や怒声が何度も聞こえた後に急に静かになり、騒ぎを聞きつけてやってきたほかの人たちに竜胆さんたちが何らかの指示を下す声が聞こえてきた。その後に右手を赤く腫らして振る御月さんと、ハァ、と疲れたようにため息を吐きながら竜胆さんの二人だけが部屋へと戻ってくる。


「ゆーなちゃん、すみません。どうも余所からのスパイが紛れ込んできてたみたいですね。

 高岩。赤川と木地山、倉敷の三人はどこからの推薦で来たか、後で調べておいてくれますか」

「……隣にいたのはその三人だったんだな?」

「あぁ。ゆーなちゃんが言ってたように三人で隣の部屋に潜んでました。慌てて逃げ出そうとしてたため廊下で鉢合わせになり、そのまま乱闘になりました。いまは警備部の杉浦とその部下たちに拘束してもらっています。

 後で私の立会いの下にじっくりと話を聞かせてもらうつもりで、いまは複数人で逃がさないように監視してもらうことにしました」

「はぁ……木地山くんは仕事熱心で期待してたのになぁ。でも、ゆーなちゃん、よく気づいたね」


 そう問いかけられたので、タネ明しをする。


「まぁ、これでわかっていましたから」


 パチン、と優奈が指を鳴らすと、目の前の空中にこのフロアの階層図が浮かび上がり、この階にいる人たちのことが黄色の光点で表示された。いまはもう先ほどとは異なり、この場にいる六名以外には隣室含めて半径10m範囲内にはだれも存在していないことが浮かび上がった地図からは確認できる。


「「「!!!」」」


 突如、空中に浮かび上がってきた地図を見て、白の旅団側の三名が驚きに息を飲み込んだことが見て取れた。


「ゆ、ゆーなちゃん、それって!」


 思わず、といったように御月さんが椅子から立ち上がる一方、竜胆さんは小さく「フレア」と唱え、立ち上げたひとさし指の先端に魔術の火を灯してみせた。


「あたしでも、魔術が使えてるわねー……ってことは」


 優奈を除く全員が優奈に視線を向ける。そんな彼らに優奈は「はい、ご想像のとおりです」と言って、自身の足元に置いてあった口の開けてあるボストンバッグを指し示した。そこには黒い色をした少し大きめの機械が稼働状態で中に入っているのであった。


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