第95話 <ファレン 3>


「しかもな、最新の配信でも彼女はまたやってくれてるんだぜ」

「はやく!はやく見せてよグレアム!!」


 興奮冷めやらず、もったいぶるグレアムの横にまで席を移動させ、彼の腕に抱きつきながら続きをとファレンはねだる。


「まぁまぁ、落ち着けって。次のはもっとすごい爆弾情報ばかりなんだからな。

 とはいっても、これまでのようなダンジョンでの配信じゃねぇんだが」

「えっ、そうなの?

 むぅ……でも、グレアムがそこまでもったいぶるってことはきっと面白いんでしょうね」

「あぁ、面白さ……いや違うな、出してきてる情報のヤバさって意味では、これまでよりも代物だ。

 ファレン、この配信の動画に関しては忠告しといてやる。彼女が途中でだしてくる物とかに衝撃を受けず、それよりも彼女が発言する内容について、集中して頭に入れて行けよ」

「……?

 よくわからないけど、まぁいいわ。うん、彼女の言葉を聞き逃さずに集中すればいいのよね??」


 グレアムがなんでわざわざそんなことを言ってくるのか不思議に思いながらも、ファレンはそれよりも新しいおもちゃを与えられる前にお預けされている子どもに戻ったような気分になって、彼に続きの動画をねだる。


「じゃぁ、行くぜ」


 そうして見せられた動画は、最初はパパラッチたちをドローンで撃退するだけの、それまでの彼女の配信動画に比べれば地味としか思えないものであり、おなじくパパラッチに常日頃から追いかけまわされて迷惑を受けてるファレンにしてみては多少の痛快さや同情感は湧いても、そこまでグレアムが言うほど特殊なモノだとは思わなかった。だが、その動画はその後がたしかに


「え、ええぇぇぇ……」


 ファレンからしてみれば、物置かとしか思えないほどにせまっ苦しい、ただの地上の部屋で少女ゆーなが取り出してきたモンスター肉が空間に溶け出していく様子がないことに最初に驚き、彼女が魔術を使って見せた時には「やっぱりSランクなのね!」と思えば少女自身にそれを否定され、その理由が噴魔機とかいう謎の黒い機械によるものだとあっさりと彼女自身から暴露された時には「なにこの子!それの貴重さや重要さ理解してないの!?」と思わず両手で頬を抑えて絶叫してしまい、続けて語られた魔力とは、ダンジョンブレイクはどういう仕組みなのか、というこんなもの配信なんかで気軽に語るべきものじゃない情報の津波にはあまりのショックにくらっと意識が飛びそうになる。果てには彼女が言及したモンスターを食べることやダンジョンの深い場所にいけるからこそ強くなれる、ということにはファレン自身の実感からの納得を与えられ、動画を観終えた時には思わず椅子の背もたれに身体を預けて天を仰いで放心状態になってしまったほどだった。


「おーい、ファレン。ショック死したりしてねぇよなー?」


 顔の前でグレアムが手をヒラヒラとさせてくるのがうっとおしくて、バシッとその手をはたいてどかせる。


「――安心して。あまりにヤバイ情報の連続に脳が疲労しすぎちゃっただけよ。……ねぇ、なにこの子、自分がいったいどれだけヤバい話を公開してるかってこと、わかってるの?」

「お、天には召されてなかったか。

 さて、な。わかっててやってるようには見えねぇが、もしかすると全部わかっててやってるのかも知れねぇぜ。

 ただひとつ感じるのは、たぶんこの子の底はまだまだこんなもんじゃねぇだろうなってことだけだ」

「はぁ……それについては同意見ね。だってどうみてもこの子、『こんなのちょっとした間をもたせるための雑学だ』っていう程度の感覚で話してたでしょ。

 これだけとんでもない情報を叩きこんできておきながら、緊張の色なんてまったくなかったもの。まるでハイスクールの普通の女の子が友達にオススメのデートスポットについて説明してたみたいな感じじゃない。つまりはそれだけこの子にとっては、これだけのヤバい情報の数々でもってレベルの情報だったっていうことなんでしょうね」


 底が知れない。いったいこの子はダンジョンのことについてどこまで知っているのだろうか。


「さて、どうするファレン。

 とりあえず俺から教えてやれるのは、彼女が出してきている配信動画は、これが最新のものだっていうことだけだ」


二っとグレアムがそう言ってファレンに尋ねてくる。そんなの答えは決まっている。


「グレアム、たしか次のW.D.C一軍あたしたちの遠征は1ヵ月後だったわよね?」

「そうだな。次のダンジョンアタックではグランド・キャニオンにあるダンジョンで深淵5層の突破を目指すってことで、これまで以上に装備と後方支援チーム、物資を集めてやるために、レオンやオルターが手配し始めたところだぜ」

「じゃあ、レオンたちにはそこにもう一人分、物資の追加をするよう言っておいて」

「やっぱそうなるよな。オーケー、そっちは言っておいてやるよ。

 で、その間おまえはどうするつもりなんだ?」


 ニヤニヤと笑みを隠さずに質問してくるグレアムにファレンは笑みを浮かべて尋ね返す。


「あら、グレアムだってそうするつもりなんでしょう?」

「ハハッ、やっぱそうなるよな!

 知ってるか?

 都合がいいことに、このゆーなって子は、ジャパンのどこのクランにも所属してないフリーなんだって言う話なんだぜ!」

「ホントに都合がいいというか、ジャパンのクランは馬鹿ばっかなの?

 じゃああたしたちが勧誘しに行っても、もちろん問題ないってわけよね」

「そういうことだ。あぁ、ちなみにすでに東京行きのジェット機の手配は済ませてある。

 あとはアレスたちに断りを入れるのとUSC合衆国議事堂から渡航の許可を得ることだけだな」


その言葉にハァ、とおもわずため息を吐きだす。

Sランク探索者である自分たちの海外渡航は国の許可が下りづらいということに気がついたのだ。


「前者はともかく、後ろが面倒ね……あ、でもグレアムのことだからこの話を持ってきたって時点で何か手は打ってあるんでしょ?」


そうファレンが尋ねると、グレアムが両手の人差し指でファレンのことを指差し、満面の笑顔になる。


「Exactly!

 というよりも簡単だったぜ。なにせ俺にこの情報を持ってきたヤツが、そもそもホワイトハウスの友人だったりしたんだからな!!」

「もう、グレアムっ!

 ってことは、あなた最初から全部計画的だったってことでしょ!!

 このおバカっ!!!」


 罵りながらも思わず歓喜の感情が爆発してしまい、ファレンは自分からグレアムに抱きつきにいってしまう。


「ハッハッハッ!

 行動がわかりやすすぎて大好きだぜ、ファレン!!」

「あなたに行動を読まれるのはしゃくだけど、今回のことに関してだけは許してあげる!

 じゃあすぐにアレスに言うわよ!どうせあのクソ真面目、いまも休まず執務室で指揮を執ってたりするか、妹のとこに居るんでしょ!!」

「さすがにこの時間だから、リーナ辺りが休ませてるかも知れねぇがな。

 ――んじゃ、行きますか『魔女』さま」

「もう、その呼ばれ方は、なんだかおばあちゃんが大釜で煮込んでそうなイメージになっちゃうからあたしは嫌いだって言ってるでしょ。

 でも良いわ、いまは気分がとっても良いもの。いつもだったら雷の一つも落としてやるところだけど、今回だけは許してあげる!」


 嬉しさから笑顔でそう言ってファレンがグレアムの腕を引っ張ってW.D.Cの本館に向かって歩き出す。


「さぁ、これから忙しくなるわよ!ぜったいにそんな狭い島国で燻ぶらせずに連れ出してあげるから、待ってなさいよね、ユーナ!!」


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