第80話 コラボ配信についての打ち合わせ



「――熱海ダンジョン、ですか?」


 考査が終わり放課後になって、優奈を追跡してくる者たちをあの手この手で振り切ってFunnyColorの事務所へとたどり着いた優奈は、茜たちスカーレットのメンバーたちと、そのマネージャーである瀬田せだ 保之やすのり氏と共に、コラボ配信についての打ち合わせを行っていた。本当は優奈の専属サポーターである琴音にも一緒に同席してもらう予定ではあったのだが、優奈の追跡者を撒くために急遽協力してもらった結果、彼女は不参加となってしまっている。そんな場で互いの挨拶に続けてスカーレットのメンバーが優奈に迷惑をかけていること(特に先日のワイバーン料理の後のりんねの無茶な要望についてとか)などについての謝罪が改めて瀬田氏からていねいにされた後、優奈とスカーレット側との打ち合わせが始まった。

 なお、そんな原因となったりんねは部屋の片隅でひとり、首から「わたしはとらぶるめーかーです」と書かれた札を首からぶら下げて床に正座させられている。

 そんな形で始まった直後に、優奈からコラボ探索の配信場所として茜たちへと提案したのが静岡県熱海市にある熱海ダンジョンであった。

 都内にあるダンジョンでではなくそんな場所を提案されて、戸惑うスカーレットのメンバーたちとは逆に、意外にも興味を持つ姿勢を見せてくれたのは彼女らのマネージャーである瀬田氏である。


「それは……地方振興関係の案件はスカーレットの皆さんはあまりしていませんから、面白そうですね。地方の過疎ダンジョンの探索という、いわゆる遠征と言われるものについても、久遠さんたちはこれまでほとんど行っていませんし」


「もし優奈さんさえ構わなければ、熱海の温泉街の商店街やホテルとも連携を取って、地域活性のためのPR配信なども組めるといいですね。いくつか案件が事務所にも来ていたりするんですよ」と瀬田氏は言うと、持ち込んでいたタブレットPCを操作して熱海ダンジョン近隣からFunnyColorの事務所へと来ているのPR要望の案件資料を複数、スカーレットのメンバーたちへと掲示している。


「実を言うと、久遠さんたちスカーレットのメンバーの皆さんには、事務所としてはもう少し地方案件の消化もしてもらいたいんですよね。皆さんはFunnyColorウチ所属の探索者パーティーとしては上位層であるB級探索者パーティーでもありますので地方のダンジョンなどへの遠征は可能なんですから」


 ちくりと刺すようにそう言いながら、にっこりと微笑えんではいるのだが、そんな瀬田氏の背後からは茜さんたちに向けて重々しい圧力がゴゴゴゴゴと音を発するかのように溢れかえってきている。


「いやぁ、でも行き慣れてるダンジョンの方が安全マージンが高く取れますから……」

「そこは同意できますし理解もできます。それに私としましても、スカーレットの皆さんに怪我とか万が一のことが無いままに、これからもマネジメントをさせていただきたいですしね。

 ただ、久遠さんたちが地方のダンジョンに潜るのであれば、そのための物資や宿泊所などの手配、潜る階層までの判明している地図やモンスター情報の収集、必要であればその地域の探索者ギルドに案内人の手配依頼などのサポートを事務所の方できちんとさせていただくんですよ。

 それが我々のお仕事なんですから、もっと利用してほしいくらいなんですが……」


 せっかく探索者事務所に所属されているんですから、もっと我々にも頼ってください。と、瀬田氏が圧力を緩めながら茜さんたちに向けて苦笑する。瀬田氏によるとスカーレットはダンジョンギア関係の案件は積極的にやってくれるものの、遠征案件に関してはほとんどしてくれておらず、地方のファンをもっと獲得するためにも本当はもっと日本全国に出回ってほしいと以前から考えていたということだった。


「ですからコラボ配信の舞台を熱海ダンジョンにするということについては、正直予想外の提案ではありますが事務所としては特に問題ありませんね。

 もしも注文を一つ付け加えさせていただけるとすれば、できれば鴻島さんにもスカーレットの皆さんと一緒に熱海市内の観光PRをしていただけると嬉しいとは思いますが、その点はいかがでしょうか」


 その要望に対しては特に異論はなかったため、優奈が了承する。そうすると瀬田氏は満足そうに「ありがとうございます」と言って頷いた。


「でも、優奈さんはどうして熱海ここにしようと思ったんですか?」


 さて、第一関門は突破だ。なので次の本命の要望を――と思ったところで、千鶴が優奈にそう尋ねてくる。なので、ちょうどいいので優奈は茜たちに理由を説明した。


「実はですね、この熱海ダンジョンの中には温泉が湧くところがいろいろとありまして――」


 そうして優奈が、この熱海ダンジョンには温泉がいくつもあり、その中でもある場所に沸く温泉には、とある特殊な効能があるということを説明する。ただしそのためには、その階層まで行かなければならないことと、その温泉に入る際には水着になって浸かる必要があるということを説明すると……


「う、ううーん。水着ですかー……」

「配信で水着姿を……そ、それはその、どうなんでしょーか……?」

「ちょ、ちょっとそれは恥ずかしいわよね。……うう、でも優奈ちゃんが言ってる話が本当だとすれば、探索者としてあまりにも美味しすぎる場所だし、優奈ちゃんがこんなことで嘘をついたりしてくるとは思えないし……」


と、千鶴、春香、茜の三人が一様に水着姿になって配信に出るということに、若い女性としての恥じらいからか目線をさ迷わせて考え込み始めた。


「う、ううむ、そうですね……。事務所としてもスカーレットの皆さんについては、お色気とかセクシー路線とかで売りだしているわけではありませんから悩ましいところです。それに鴻島さんも、まだ探索者高校に通う女子高生ですからね。それは避けた方が良いのでは……」


 さらには瀬田氏までもが事務所としてスカーレットと優奈のことを考えてか難色を示しかけた。

 けれど、そんなスカーレット側のメンバーと瀬田氏を一喝する人物がここにはまだ一人、同席している。


「なぁーーーーに言ってんのよ、みんな!

 こんな美味しい話を断る理由なんてあるはずないじゃない!!」


 ガバッ!と勢いよく立ちあがったりんねさんが、そう叫んで茜さんたちと瀬田氏を見回す。だがその直後、脚が痺れていたのか「あいたたたたたーーー!」と呻き声をあげてのたうちまわった。しばらくしてその痛みを抑えつけられたのか、りんねさんがどうにか姿勢を立て直すと、ビシッとスカーレットの他の面々と瀬田氏に向けて指を突き付けた。


「優奈ちゃんの話通りなら、あたしたちだけで行くのは、たぶんまだまだ厳しい場所じゃん!なのに、それを優奈ちゃんがキャリーしてまで連れてってくれるって提案してくれている上に案内までしてくれるっていうんだよ!!

 しかも、その温泉の効能ってのが優奈ちゃんの話し通りだっていうのなら……それこそ、これからのあたしたち自身の探索者としてのキャリアにもっのすごい好影響与えてくれるって代物なんだよ!

 ――それだけじゃないよ、その温泉の効能が本当に優奈ちゃんのいう通りのモノだったしたなら……きっと伝説になる配信回になることは約束されきってるんだよ!

 きっと配信後の再生回数だって、あたしたちスカーレットが、ううん、それどころかFunnyColorっていう事務所全体を通してもみたこともない記録を打ち立てられること間違いないはずだよ!!」


 りんねさんが叫ぶようにそう言って、興奮した様子で茜さんたちやマネージャーである瀬田氏のことを説得し始める。


「そもそもという情報自体、あたしたちに優奈ちゃんが公開して誘ってくれたりしなくても、優奈ちゃん自身が彼女の配信でこれまでみたいにサラッと出してきてもよかった情報じゃん!

 それをわざわざあたしたちを誘ってくれるために出してきてくれてるってことは、あたしたちがそこに浸からなきゃいけないっていう、なにか必要性があるって優奈ちゃんに思われてるってことでしょ?

 つまり――今後も優奈ちゃんとコラボしてったり付き合っていきたかったら、必要なことだって言われてるってこと、みんなちゃんと気づいてる?」


 そんなりんねの言葉に、茜さんも春香さんも千鶴さんも、三人とも揃ってさらに深く考え込みはじめる。

 それはともかくとして、優奈としてはりんねさんの言葉の中でひとつ気になるところがあった。


 、ってなんでりんねさん、わざと優奈について言及する時にその部分を強調した言い方をしたのかなぁ、ということだった。

 まぁ、空気を読んで尋ねたりしないではおいたけれど。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る