第25話 ダンジョンを駆け抜ける
荒川ダンジョンに優奈が入ってから10分ほどが経過した。
バフ付きの駆け足でダンジョンの中を高速で駆け抜けた優奈は、この短時間ですでに荒川ダンジョンの下層入口へとたどり着いている。
<はっや、もう下層入口かよ>
<やっぱゆーなちゃんのマップクリエイトってスキル凄すぎだって。ダンジョン入口からここまで迷うことなく一直線じゃん>
<途中で進行ルート上に居たパーティーの横を、壁を蹴っての三角飛びで追い越しながら『すみませーん、失礼しまーす』とだけ声を残してあっという間に追い抜いてった時の連中がみせた( ゚д゚)ポカーンっていう顔は笑えた>
<その後に居たゴブリンの群れを飛び越えてった時の顔もな。モンスターも( ゚д゚)ポカーンって顔することあるんだな、って初めて知ったわ>
「RTAってことですからねー。必要の無さそうな戦闘は極力避けて進んでますよー」
駆けてきたスピードそのままに走りながら、優奈は視聴者たちのコメントに返事をする。
<余裕あるな、ゆーなちゃん>
<見た感じ、電車か高速道路の車かってくらいの速さで駆けてんのによく呼吸が乱れないもんだ>
まぁ、バフのおかげである。一応、今回は脚力を10倍程度のバフ、あと体力の持続回復だけではあるが最初からかけてある。
なので、スキルの方のマップクリエイトで階層構造を把握し、他の探索者たちやモンスターとの接触はなるべく避けながら、最短距離で次の階層へと優奈は駆け抜けていっていた。また、道中でどうしても避けられそうにない位置にいるモンスターに関しても、勢いそのままに跳びあがるための踏み台にしたりその頭上を飛び越えたりすることで全て戦闘を回避して走り抜けていく。
下層序盤の草原地帯も、中域の森林地帯も、優奈はそうやって極力他の探索者やモンスターとの接触を避けながら駆け抜けていった。
特に森林地帯では本来の探索であれば迷路状に入り組んでいる森の中を二次元的に迷いながらも進んでいかなければならないのだが、そんな環境に対して優奈は強化した脚力で入口から目の前にあった樹の幹を一気に駆け上り、森の樹々の上を飛び跳ねるように駆け抜けていくことでショートカットを繰り返し、あっさりと森林地帯の階層をクリアしていったのだ。
真面目に迷路を探索している探索者たちやダンジョンの意志がもしもあったりすれば、確実に反則だと言われてしまいそうな行為である。でもこっちの方が早いし楽なんだからしょうがないよね。
そうしてたどり着いた下層終端部である遺跡エリアに入ってからは、さすがに駆け抜けるだけではなくバフ込みの遠隔討伐でモンスターを接触前に処理し、その遺骸の脇を通り過ぎていくという手を取る必要があった。
けれど、それについても遠隔で魔術を発動させる際にほんの数秒速度を落として相手との距離と方角を確認し、その上で指を弾くという動作で魔術を起動させる必要があるだけだったため、走り抜ける速度はほとんど変化させていない。
<うっは、もう下層9層目到着なんだけど>
<荒川ダンジョン突入からまだ20分ほどしか経ってないんですが>
<たしか前に同じRTAやってた鬼哭一座の場合、この時間ならまだやっと上層4層に到達できてたくらいだよね>
<脚力バフとか付けて速度が上がってるって言っても、結果が段チすぎる>
<最初に見た新宿ダンジョンの配信で、なんであの短時間で下層ボス前まで行けてたのか謎だったが、たぶんあの時も今回と同じようなことしてたんだろうな>
<とか言ってる間に、もう最後の階層への階段にまで到着してるし>
<これはボス扉前までの到着RTA、30分切れそうかな?>
<もうこの時点で新記録達成だしな。やっぱすごいわ>
そんなコメント欄を横目で読みながら優奈は、荒川ダンジョン下層における最後の階層へと足を踏み入れる。そしてこの階層の構造を読み取るためにマップクリエイトを発動させた。
(……んん?)
それにより得られた情報を脳内で見て、優奈は思わず眉を顰めてしまうのであった。
一方、優奈が眉をひそめたのと同じタイミングで、ある者たちが優奈の配信を見て彼女が下層終端部のボス階層へたどり着いたことを確認し、その策謀を開始し始めようとする。その者たちの口元には自分たちの計画が上手く行った後のことを想像してか、一人を除き一様に下卑た笑みが浮かび上がっていた。
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