第14話

『グルォオオオオオオ!!!!』

「嘘、でしょ……!」


 振るわれる尻尾の攻撃を鋼と化した両腕で受けるも、衝撃を殺せず、私の体は簡単に吹き飛ばされてしまう。


 自分でも言うのもあれだが、私の異能は地味だが、かなり強力である。にもかかわらず、こんなにも力の差を感じさせられるのは想定外だった。


「はぁ、『私』じゃなければ、もう少し良い戦いになるんだろうけどなぁ」


 迫りくる凶爪を紙一重で躱しながら静かに呟く。



 竜の一番の強さは、爪や尻尾、さらには口から放たれる瘴気でもなく、体を覆う鱗が持つ防御力である。

 生半可な武器では傷一つ、つけることが出来ず、一般的には、異能による鱗の破壊、そして、その内側に隠れている生肉の部分を攻撃することで討伐する、という方法が取られている。


 私の異能は「鋼」で、代表的な使い方は体を鋼に変えて、殴ったり蹴ったりというものであり、言い換えると、少し頑丈になった武器で攻撃しているようなものだ。


「つまり、私一人だと、竜の撃破は難しい、ってことなんだよね~」


 そう呟きながら、連続で振るわれる凶爪を、ぎりぎりで躱していく。


「私の仲間を転移させたのは、私一人で竜と戦わせるためだね?」


 その中で、未だ、こちらを見ているだけで動く気配のないブライトに問いかける。すると、ブライトは竜を背後に控えさせながら、再び高笑いをする。おそらく、そうしないと死んでしまうのだろう、と考えていると、ブライトが口を開く。


「それだけだと思ったか?」

「……どういうこと?」

「なぜ、この竜以外に、魔獣の反応が四つ、現れたと思う?」


 私の疑問に、疑問で返すブライト。その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中で、たくさんの情報が凄まじい速さで流れる。


 竜を除く魔獣の反応が四つ。

 ブライトに恨みを持っていそうな貴族は四人。

 私に対して有利な特性を持つ魔獣。


「……まさか」


 情報を整理した私はある一つの結論にたどり着いてしまう。そんな私を見て、ブライトは愉悦に浸った表情で、信じたくない現実を告げる。


「気づいたようだな、貴様の仲間たちは、一人、もしくは二人を最も相性の悪い魔獣のいる『学術棟』に転移させたのだ!」

「……そんな大がかりなこと、一人ではできないはずですよ」

「それが出来た理由にも気づいているのだろう?」


 嗤いながら、こちらに問いかけるように話すブライト。私は顔を歪ませながらその答えを口にする。


「……私達が最も怪しいと睨んでいた四人の貴族、彼ら全員を仲間にしたのでしょう?」

「その通り、彼らは私の、いや、『私達』の行動理念に共感し、今回の作戦に手を貸してくれたのだ」

「面倒なことを……」


 おそらく、大金を積まれでもしたのだろう。貴族も所詮は人間、プライドよりも金の方が大事なのだろう。


 降りかかる災厄に対し、私が今一度、気を引き締める。


「いい加減、貴様を嬲るのも飽きてきたな。そろそろ死ぬがいい」


 ブライトの言葉に呼応するように、背後に控えていた竜が咆える。


 それを合図に、竜による一方的な攻撃が再び始まった。



「なるほど、私の異能に対して、最も相性のいい魔獣ですか、厄介ですね」


 吐き出された溶解液を足元の土を集めて作った土壁で防ぎながら、私、フランは分析した結果を小さな声で零す。


「物分かりがいいようだね、最も、分かったところで何も出来ないだろうがね」


 それに反応するのは、先ほど、溶解液を私に向けて放った『大蛇』の魔獣の背後に立つ、一人の男。


「エイリーン伯爵、まさか貴方がこのような茶番に付き合うとは思えませんでしたよ」


 実力主義の派閥に属し、ブライトとは度々、ぶつかっていたダース・エイリーン伯爵、彼が参加するとは思えなかった私は思わず、そう口にする。


「何、世界の審理に気づかされただけだ」

「世界の審理、ですか?」


 すると、エイリーンが抽象的な言葉で返答したため、オウム返しをしてしまう。


「あぁ、我々のような、貴族しか世界では生きていけない、という審理に気づかす、実力主義を掲げていた自分が恥ずかしいよ」

「……貴方は本当に、あの、エイリーン伯爵なのですか?」

「あの、とは、どういうことかね。私は正真正銘、ダース・エイリーン伯爵、世界に選ばれた一人の人間だ」

「そうですか……」


 何かを信仰しているのか、恍惚とした表情を浮かべながら語るエイリーン伯爵に、私は警戒を強める。


(ここまで変わってしまうのは、正直に言うと、おかしい。きっと何かがあるはずです)


 予想外の変貌の原因、それを突き止める。心の中で、そう呟き、再び攻撃を仕掛けようとした次の瞬間、


『皆、大丈夫?』


 微塵も焦った様子のない、頼りになるリーダーの声が魔道具を通して、私の耳に送られきた。


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