第5話
「まず、見ての通り、でいいかは分からないけど、私たちは本当の姉妹ではないんだ」
「お姉ちゃんのお父さんと私のお母さんが再婚して、姉妹になったんだ~」
「へー、そういうことだったんだ」
納得、と言わんばかりの顔をするサラ。
「サラちゃんは教会に入ったばっかりでしょ?」
「え、あ、はい、そうですけど、どうして分かったんですか?」
「私、普段は帝国で「魔道具」の研究をしているんだけど、一か月に一回はラナに会いにここに来ているからね。新しく入った子はすぐに分かるよ」
「なるほど~、って、え、帝国!?あの帝国ですか!?」
「え、えっと、多分、サラちゃんが思っている帝国だと思うよ」
「ヒエッ」
私の言葉に、顔を青ざめさせるサラ。青ざめさせる理由に心当たりがない私が戸惑っていると、
「お姉ちゃん、研究ばっかりで忘れているかもしれないけど、一般的に帝国は軍事国家として有名なんだよ」
「……あー、そうだ、すっかり忘れていた」
『帝国』
レディアン王国の東に位置する、世界一の国土を持つ国。「魔道具」を始めとした様々な研究が盛んに行われており、世界中から多くの人が集まっている。
教育機関、という点ではレディアン王国の方が優れているが、研究だけならば帝国が、数世代先を行っている、と言われている。
しかし、帝国の最大の特徴は広大な土地や研究ではなく、他国とは比べ物にならない程の軍事力を有していることである。
一人一人が優秀な「異能者」によって構成された軍だけでなく、広大な土地で得た大量の食糧が常に保存されており、仮に長期戦になろうとも問題ないため、絶対に戦争を仕掛けてはならない国、というのが共通認識である。
最も、帝国はあくまで自衛のために軍事力を持っているだけで、他国に侵略していないのだが、イメージとはどうしても悪い方が回ってしまう物なので仕方ないだろう。
そうだったなー、と思い出していると、怯えたままのサラが口を開く。
「あ、あの、お姉さんは私たちが気に入らないからって殺したりしませんか?」
「大丈夫、そんなことは絶対にしないから安心して」
「よ、よかった……」
そう言いながら息をつくサラを見て、少しだけだが誤解が解けたのだろう、と感じていると、いつの間にか食堂に到着しており、奥で調理に勤しむレミアの姿が見えた。
「あら、シエル、また新しい子を怖がらせたのかしら?」
「怖がらせた、って、レミアさん、私のことを何だと思っているんですか?」
「冗談ですよ。ささ、空いている席に座ってください。早くしないと、料理が冷めてしまいますからね」
そう言い、レミアは奥からたくさんの料理を持ってきて、机に並べていく。
「お姉ちゃんもサラちゃんも早く座ろう!」
「ラナ、分かったから、引っ張らないで」
「え!?私も一緒でいいの!?」
「むしろ、サラちゃんは嫌じゃないの?」
「いえ!お姉さんが迷惑じゃなければ是非、ご一緒させてください!」
私が申し訳なさそうにすると、サラは首をブンブン、と激しく振る。そして、先ほどまで青ざめた顔はどこへ行ったのか、と言わんばかりに頬を紅潮させながら私の隣に座る。
(ねぇねぇ、リーエルさん、まーたお姉ちゃんが女の子を堕としているよ)
(一回、怖がらせてから、優しくする。無自覚に惚れさせているよね~)
サラとは反対側の私の隣に座ったラナが、何やらリーエルと話しているが、小声で話しているため、聞き取ることができなかった。
「ラナ、リーエルさん、何を話しているかは分かりませんが、早く食べますよ」
「「はーい」」
「じゃあ、手を合わせて、せーの」
「「「いただきます!」」」」
机に並べられたたくさんの料理に舌鼓を打っていると、隣に座るサラが少し緊張した面持ちでこちらを向く。
「あ、あのお姉さん、さっき言っていた「魔道具」って何か聞いてもいいですか?」
「ん?あぁ、そっか、この国だと「魔道具」は聞きなれない言葉だったね。食事の後でいいなら、教えるけど、どうかな?」
「お、お願いします!」
サラが喜色に満ちた笑顔で勢いよく頭を下げる。すると、周りにいた子供達も気になったのか、「私も聞きたい!」「僕も!」といった声がいたるところから聞こえてくる。
「ふふっ、人気者ですね~、シエルさん」
「食事が終わったら、みんなで会議室に行きましょうか。シエル先生がたくさんのことを教えてくれるみたいですし」
『はーい!』
いや、先生ではないんだけど、と一人、小さく突っ込むも気づく者はいない。
その後、食事を終えた私はラナたちに連れられて、大人数が入っても問題ないほどの広さを有している会議室の中へと入る。教室として使われることもあり、部屋の中には黒板があるので、子供たちの期待に満ちた視線を受けながら、私は置いてあるチョークを片手に説明という名の「授業」を始める。
「最初に、皆は「魔法」について知っているかな?」
私の問いかけに、多くの子供が元気よく手を上げたので、一番前に座っているラナを当てる。
「「魔法」とは、「英雄」と呼ばれる人が使える力のことで、炎を出したりすることができます!」
ラナの回答に同意するように、多くの子供が頷いているのを見て、私は少し意地悪をしてみる。
「じゃあ、その「魔法」と「異能」の違いは何だと思う?」
私がそう聞くと、先ほどとは打って変わって、静寂が部屋に広がる。さすがに難しかったか、と思っていると、ラナの隣に座っていたサラが手を上げた。
「えっと、確か、「異能」には使える限界、『星約』があるけど「魔法」にはない、ですか?」
「お、良く知っているね。大人でも知らない人はいるのに」
「い、いえ、たまたま読んだ本にそんな事が書いてあった気がしたので……」
「サラちゃんの言う通り、「異能」には『星約』と呼ばれるものがあって、例を挙げると、一日に使える時間が限られている、とかだね」
私の言葉に、子供たちは「知らなかったね」「そんなものがあるんだ」といった反応をするが、それも仕方のないことだろう。
『星約』はあってないようなものであり、中には『星約』の影響を全く受けない者もいるのだ。
「「魔法」と「異能」の違いは分かったかな?じゃあ、次は「魔道具」について説明するね」
そう言い、私は懐から杖を取り出す。
「「魔道具」は帝国で開発されている「魔法」を再現するための道具で、この杖は水の魔法を再現することができます」
そして、杖の先を真上に向け、起動させる。
すると、杖の先に大きな水の球が生まれ、それを見た子供たちが感嘆の声を上げる。
「最も、本当の「魔法」はこの程度ではないから、「魔道具」は「魔法」の劣化版、と言われています」
「そうなんですか?」
「うん、そもそも「魔法」を見たことがある人は少なくて、文献や「異能」を参考して作られたものがほとんどだからね」
杖をしまい、「説明はこのぐらいだよ」と言い、私は会議室から出る。後ろで「ありがとうございました!」と子供たちが言っているのを聞きながら、部屋に戻る。
「ふふっ、皆、目をキラキラさせて可愛かったなぁ~」
先ほどまでの光景を思い浮かべ、一人微笑む。
「さて、明日もやりたいことがあるし、もう寝ようかな」
寝巻に着替え、ベッドに潜り込んだ私は眠気に抗うことなく、目を閉じ、夢の世界へと落ちていった。
波音が聞こえる。静かに鳴り響く音を心地よく感じながら、目を開く。
そこに広がっていたのは、『黒』の世界。一切の光を通さない黒い海、私はそこに膝より下を入れた状態で立っていた。
(……今日こそは、何か分かるかな)
見慣れた黒く染まった空を眺めながら佇むも、波音以外、何も聞こえない。
物心がついた頃から見ている、不可思議な世界。夢か現実なのかも分からず、私以外に誰もいないため、何の情報も手に入らない。
一応、視線らしき物は感じているが、その存在がこちらに接触してくることはない。
結局、今日も何も得ることは出来ずに私はこの世界から意識を手放した
窓から差し込む朝日を浴びながら、私は目を開く。起きたばかりで思うように動かない体に鞭を打ちながらベッドから出る。
持ってきた普段着に着替えていると、扉をコンコンと叩かれる。
「お姉ちゃん、起きてる?」
「起きてるよ」
「入っても大丈夫?」
「大丈夫だよ」
私がそう言うと、扉が開かれ、ラナが分厚い本を片手に部屋に入ってきた。
「その、朝からごめんなさい、聞きたいことがあって……」
本を開き、首を傾げるラナ。
「朝から質問? 勉強熱心だね~」
「えっと、大丈夫、かな?」
「いいよ、お昼までは予定がないから、付き合うよ」
「ありがとう!」
ラナの質問に答えながら、朝食を食べ、その後は教会の子供と一緒に遊ぶなどしてお昼まで時間を潰した。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい!」
そして、迎えた十二時、ラナたちに見送られながら私はメンバーのいる屋敷へと向かった。
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