あなたというわたし

紙の妖精さん

第1話

不完全なテレポート


ゆみこは教室の一番後ろの席に座っていた。彼女の目の前では、友達たちが楽しそうに話し合っている。彼女は最近、友達の思いや会話をテレパシーで感じ取ることができるようになったが、その能力が時に彼女を苦しめていた。


「ねえ、ゆみこのこと、どう思う?」クラスメートのリナが言った。


その瞬間、ゆみこはドキリとした。リナの声が脳裏に響き、彼女がどんな思いで話しているのかがわかってしまう。「きっと、彼女も大変なんだろうね」そんなリナの考えが、まるで直接耳にしたように伝わってくる。


周囲の会話がどんどん大きくなっていく。楽しい話題の中に紛れ込む、時折彼女のことを悪く言う声が耳に入る。彼女の心は次第に重くなり、不安が増していく。「なんで、みんな普通に話せるのに、私はこんなに苦しいんだろう?」


心のストレスがピークに達したとき、ゆみこは思わず目を閉じた。逃げたい一心で、無意識に力を使う。「家に帰りたい…」その願望が強くなった瞬間、彼女はテレポートを試みた。


次の瞬間、まるで視界が流れるように変わり、ゆみこは自分の部屋の中に立っていた。安心感が胸に広がる一方で、彼女は何かが足りないことに気づいた。目の前の鏡に映る自分は、洋服や靴が全くない姿だった。


「えっ…どういうこと?」彼女は驚き、急いで自分の周りを見回した。自分の体だけが家にテレポートしたのだ。洋服は学校に残ったままだった。冷や汗が背筋を伝い、心臓がドキドキと鳴り響く。周囲に誰もいないのに、恥ずかしさが襲ってきた。


ゆみこは、無駄にテレポートしたことへの苛立ちと、友達の目が気になる気持ちが交錯して心を乱す。「また、私の能力はこんなに不完全なんだ…」とため息をつく。


彼女は床に崩れ落ち、しばらくそのままの姿勢で考え込んだ。「どうしてうまくできないんだろう。友達と普通に過ごしたいのに…」思わず涙がこぼれる。彼女は自分の能力を恨む気持ちと、何とかしたいという願望が交錯していた。


そのとき、彼女の心に一つの決意が芽生えた。「次こそは、ちゃんと使えるようになりたい。そして、自分をもっと大切にしなきゃ。」そう思った瞬間、ゆみこの心に少しだけ希望の光が差し込んだ。


彼女は立ち上がり、自分の部屋を見回した。外の音や日差しを感じながら、これからのことを考える。「どんなに不完全でも、私にはまだ未来がある。次は、もっと上手にやれるはずだ。」


ゆみこは自分にそう言い聞かせると、部屋の窓を開けた。外の世界は広がっているのだった。


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