第2話

 面接の時、聖沢から「いくら欲しい?」と訊かれた。

 社会保険も雇用保険もない、一日12時間労働。休みは日曜日のみ。俺は一日1万円として35万を要求した。


 「わかった」


 と会長は言った。だがそれは最初の1ヶ月だけだった。その後は1ヶ月15万円ほどにされた。

 ヤクザからの追い込みは聖沢会長が組長と交渉してくれたおかげでなくなったので、なんとかしのぐことが出来た。

 給料は毎週木曜日に現金で支給されるのでそれも助かった。

 俺は文句を言わずに働いた。

 それは風俗部門の大門の実績を超える自信があったからだ。



 最初はピンサロのボーイとキャバ嬢たちの送迎をさせられた。

 風俗店にはそれぞれ名ばかりの社長がいた。何かあった時の捨て駒としてだった。


 ピンサロの社長は76歳の爺さん、相澤だった。実家は老舗問屋のお坊ちゃんだったようだが、大手デパートのバイヤーをしていた時、商品を横流しして刑務所に入った過去があった。

 財産分与された金もすぐに使い果たし、ここへ流れて来たというわけだ。

 酒と女が好きな男だった。

 社長という肩書の名刺を自慢気に俺に出した。


 「それじゃあ川村君、まずはトイレ掃除からだ」

 「掃除道具はどこですか?」


 と聞くと、


 「そのロッカーに入っている」


 と言われた。バケツと雑巾しかなかった。


 「ブラシはどこですか?」

 「ブラシはいらない、手で磨くんだよ、心を込めてな」


 俺は相澤が務所帰りだったことを思い出した。

 それが最初の洗礼だった。


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