ランブルフィッシュ
菊池昭仁
第1話
夕方、
「川村、お前も飲め」
「私は仕事がありますので」
「夜は長い、酔いも醒める」
それは会長の社交辞令だと分かっている。俺はこの組織に入ってまだ半月の新米だった。
会長は俺を試していた。使える人間かどうかを。
幹部連中は薄ら笑いを浮かべて俺を見ていた。
聖沢
大学で経営学を学んだインテリで、反社にも顔が利く暗黒街のボスだ。
デリヘル、ピンサロ、ファッションヘルスにレンタルルームを始めとする風俗業は元より、キャバクラ、クラブ、スナックに居酒屋、ラーメン屋にイタリアンなど、様々な店舗展開をして、数百人の人間を使って荒稼ぎをしていた。
従業員の殆どは前科者だった。
聖沢は普通に働くことが出来ないこの連中を集め、安い賃金で働かせていた。
休みは日曜日のみ。正月も2日から働かせていた。
もちろん労働組合も就業規則もない。労働基準監督署に訴える奴もいない。
働いてメシを食う。
「働かざる者、食うべからず」がここのルールだった。働かせてもらえるだけで良かったのである。文句は言えない。
そしてそれはある意味必要悪であり、行き場のない人間たちの溜まり場だった。
カネが欲しければ会長に気に入られるように成果を出すしかない。
みんな必死で生きていた。
聖沢は地元の警察、ヤクザともズブズブで、何度も国税に入られ、その度に彼らともすぐに仲良くなってしまう不思議な魅力を持った男だった。
「川村、会長がせっかくそう仰っているんだ、少しは飲め」
村井が俺に言った。グループには広告代理店もあり、村井はそこの専務だった。
私は村井の話を聞き流した。
「聞いてんのかコラ! 表に出ろ!」
村井は柔道、剣道二段。極真空手の有段者でもあった。そしてグループ唯一の大卒。
力士のような体格で武闘派。会長のボディーガードでもあり、逆らう者はいない。
それを見越しての挑発だった。
俺は席を立った。
「逃げるのか?」
「表に出ろと言ったのはお前だ。売られた喧嘩は買う主義でね?」
「そんな小柄な体で俺に勝てるとでも思っているのか?」
俺はスーツを脱いだ。
その場が凍りついた。
ワイシャツから透けた彫物を見た村井が言った。
「なんだお前、ヤー公だったのか? 上等だ、相手になってやる。手加減はしねえからな!」
俺と村井が店を出ようとした時、風俗部門を統括している社長の大門がそれを
「止めろ、酒が不味くなる。やるなら会長のいないところでやれ」
大門は少年院あがりの元ホストで、女たちに人気があった。
長身のイケメンの24歳である。
グループの利益は大門によるものが殆どだった。
会長からレクサスを与えられ、毎月100万以上の報酬を得ていた。
その利益を食い潰していたのが飲食部門だった。
そしてその立て直しに採用されたのが俺だ。
俺は事業に失敗し、毎日のようにヤクザや借金取りから追い込みを掛けられ、藁にも縋る思いで仕事を探していた時、聖沢に拾われ、女の子たちの送迎と飲食部門の管理を任されていたのである。
「いいか川村?借金は返さなくてもいい、返すな。
成功したら半分返しに行けばいい、俺はそうした。
カネを返しに行った時、凄く喜ばれ信用された。
「聖沢さんは義理を欠くことのない人だと思っていました」とな?
諦めていたカネが戻って来たんだ、そりゃ嬉しいに決まっている。
俺も経営に失敗してカネがなかった。
だが俺は諦めなかった。腹が減ったが財布に50円しかなかった。俺はコンビニに行って130円の菓子パンをレジに持って行き、「50円分くれ」と言った。
その時目が覚めた、こんなことしてちゃ駄目だとな?
川村、お前も俺と同じ、何億というカネを稼いだ男だ。億を稼いだことのある男は必ず復活出来る。
俺がそうだったようにだ。
お前は俺の言う通りに動け。そうすれば必ずお前は復活する」
俺はその時誓った。
(この歓楽街の帝王になってやる)と。
俺は毎日2時間睡眠で夢中で働いた。
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