第11話 決着
「デレク、それにジャガいつまで隠れているつもりですか?」
セリカが痺れを切らして言った。
二人は茂みの中で何やらごそごそしている。
そこに隠れているのは間違いないのたが、何をしているかまでは理解できない。
すでに暗殺者ギルドとのちょっとした争いは始まっている。ウロボロス教団幹部候補であるこの彼らがこうあっては他の信者達にも示しがつかないのだ。
「いい加減にしてください。もしそのまま隠れているようでしたら幹部候補を――」
「姐さん! 出てきたぜ!」
「私も少しは力になれるかと思い」
まだ何も伝えてはいない。
しかし彼らは当然何事もなかったかのように飛び出してきたのだ。木の棒を持って。
「よかったです。まだ幹部候補としての自覚はあるようでしたので」
セリカは毎度のように笑顔を向ける。が、目が笑っていないのだ。
目と言葉のなんとも言えない恐怖心でデレクとジャガの二人は身体をビクビクさせている。
それほどまでに恐ろしい聖女なのだ。
「ハハハッ! 女の言いなりかよ」
と、セリカと対面している男は言う。
だが、構わずセリカは二人に指示を出した。それは二人にしかなし得ないことであり、幹部候補の彼らだからこそできる仕事である。
デレクは飛行艇を操縦できる唯一の人材。
ジャガは癒やしの魔法を使う唯一の人材。
「デレクあなたは女子供を引き連れ飛行艇で待機を。飛び立つ準備をするのです」
「おっし任された!」
「ジャガ、あなたはデレクのサポートを。もし傷を負う者がいたら治療を施すのです」
「ええ、ご指示通りに」
「ちなみに失敗したら……どうなるか」
二人はセリカの指示通りに動き始めた。
しかし、いらぬ邪魔が入ったばかりかよりにもよって使者であるクズトの屋敷の近くで揉め事が起きようとは想像もしていなかった。
まあ、揉め事というよりかはおそらく……クズトの暗殺が目的の彼らと偶然出会ってしまった、ただそれだけのことなのだが。
(ぐぬぬっ使者様の領地を汚すわけには……)
もう一度【鷹ノ目】で周囲を確認する。
決して優勢とはならないものの信者は強い。神への信仰心こそが劇薬となり、身体能力はもちろん気分を昂らせるのだ。
で、昂ぶる結果、目に映った通りである。
美しい若葉には血が飛び散り、相手を嘲笑う狂人っぷりを見せる信者達。状況を知らない者が見たら殺人鬼としか思わないだろう。
「こ、の……悲鳴、テメェ何しやがった!?」
状況を把握していない男は焦るように問い質す。しかしセリカは黙り込んだまま。
説明する気などさらさらないのだ。
「う〜ん、どうやらあとは……」
セリカはギロッと男を睨んで語り始めた。
「ご存知ですか? 稀に人は特異な体質で生まれることがあります」
「オレに布教しようと何も変わりは――」
「この世には武の天才、魔の天才といった才能に恵まれる者がいます。しかしそれは努力で賄えたりもします。あなたは……」
「あ? ああ、オレはその才を持つ者に部類するだろうな。だがな努力で賄える? ふん、バカか。凡人はいくら努力しても凡人なんだよ!」
「そう、ですか。残念です」
セリカは左目を手で覆った。
何が始まるかと思えば、一瞬にして森の光景がどこか辺境の村に移り変わったのだ。
「おい! どういう原理だ。さっきまで――」
「【幻想使い】これは教会の人間、それも執行者の面々しか知らない能力です。真実であり、真実ではない。楽しんでいただければと」
「わけわからねぇことを」
「来なさい。慈悲なき影【アナスタシア】」
男の前に立ちはだかったのは、それはもう巨大な影。意志があるのか生き物のような影は巨大な手で男を包む。
そしてセリカが軽く右手を閉じると、影はみるみる収縮していき、禍々しい円形の球体と化したのだ。
「これにて執行完了。救いなき者よ、闇とともにあらんことを」
この言葉を最後に男は姿を消した。
現実でも、幻想世界でも。
幻想世界を解くと、元いた森が姿を現す。
だが、少し気がかりなことがあった。
(なぜ、あの村が……やはりこの悲しみを溶かすには使者様とともに歩む必要が?)
セリカは雲一つない透き通る空を見上げた。
遠くから聞こえる男性二人の声。
「姐さん。やっぱりすげぇな」
「セリカ嬢……今の力は?」
「わたくしの能力です。これは他言無用で」
話そうとしないセリカ。
しかしジャガは納得がいかないようで、
「教会関係でしょうか? セリカ嬢がどのような立場で教会に属しているか、いえ元々属すような方ではないように思えますが」
「さすがの情報網ですね。どこまで掴んでいるのか気になりますが、伏せておくように」
「もちろんですよ」
そしてセリカとデレク、ジャガを含めた三人は使者と会うため一度飛行艇に戻り、お目通りの準備を進めるのであった。
もちろん散らばった暗殺者ギルドの死体はきちんと火葬にし、処分した上で。
…………………
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