第12話 活気づく王都
「クリム国王陛下、この度は謁見の機会をいただきありがとうございます。」
レスリア帝国エクシリア城、王座の間。そこで今、フェルベル領の領主アーカイム・フェルベル
が王の前で跪いていた。
レスリア帝国ではもうすぐ"ナトゥーロ"という大規模な祭が始まる。
ナトゥーロとは毎年この時期に行われる"自然の恵みに感謝しそれらを食し、それによって得た力で次の年もこの恵みを得られるよう尽力する"という式典だった。
今では"この時期の美味しい食べ物を食べる"という認識で民衆たちに広まっており、たいへん喜ばれる大規模な祭となっていた。
ナトゥーロは国全体で行われるもので、この祭の間はレスリア帝国はどこでも盛りあがるが、最も盛りあがりをみせるのはやはり王都のエクシリアである。ナトゥーロの間、エクシリアに存在しない食べ物はないという声があがるくらいだ。
「アーカイム・フェルベル、お前ももうすぐナトゥーロが行われることは知っているな。」
「もちろんです。今年も各地から我が領の特産品であるワインの発注を受け付けております!」
そう声高らかにアーカイムは応えたが、彼には何故ナトゥーロが行われるなど当たり前のことを尋ねられたのかわからなかった。
しかしそのようなことは彼にはどうでも良かった。国王への謁見が叶ったことに、彼は内心ほくそ笑んでいた。
「国王陛下……ナトゥーロが始まるというこの時期に陛下のお耳に入れることは心苦しいのですが……。」
「申してみよ。」
アーカイムの言葉を遮りクリムはそう言った。
「……ありがとうございます。実は我が領では近年ワインの生産量が落ちておりまして……市場に流通できるワインの寮が減って我が領地の収入は減っております。ですので今年から我が領への減税をお願いしたいのです。」
アーカイムは申し訳ないといった顔で頭を下げた。
市場にはフェルベル領産のワインの流通量は減っていた。これは嘘ではなかったが、生産量は落ちてなどいなかった。
フェルベル領のワインを愛するものは多い。その中には金持ちのものも多く、それらにアーカイムは高い金を貰うことで優先的に裏から流しており、それにより市場に流通できるワインが減っていたのである。
裏から流して得た利益は全てアーカイムが懐に入れており、フェルベル領全体での収入は減っていた。
「……わかった。フェルベル領の民の税は減らそう。」
「!」
その言葉に頭を下げたままアーカイムはニヤリと笑った。
「ありがとうございます!」
そう笑顔で顔を上げたアーカイムにクリムは告げた。
「そのかわりお前からとろう。」
「……は……?」
アーカイムの顔から笑顔が消えた。
「お前には市場に出回らない分のワインから得た収入があるだろう。フェルベル領民から減らした税はそこからとる。」
クリムの言葉にアーカイムは驚き立ち上がる。
「 何を驚いた顔をしている。」
「な、何故私が……いや、何故そのことを国王陛下が……!」
アーカイムは裏で取り引きしたものたちには口止めをしていたし、その取り引きも不自然にならぬよう徐々に行い続けていたものだった。
「レスリア帝国の国王である私が自国のこと知っていて何の疑問がある。」
「アーカイム、お前に猶予をやろう。今年のナトゥーロが終わるまでにお前が裏で行っていた取り引きから得て、国に納めていなかった分の税を納めよ。もしそれができなかった場合、お前からフェルベル領主の立場を取り上げ追放処分にする。」
「そんな……!」
「下がれ。」
アーカイムが崩れ落ちると、それを衛兵たちが両脇を抱えて王座の間から外へ連れ出していく。
それを見届けクリムは王都がよく見える自室に戻る。その窓からはナトゥーロの準備で活気づくエクシリアがよく見えた。
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