彼岸花が咲く頃に

小林夕鶴

第1話

 「なんか面白い話を聞かせてよ。あと1時間くらいかかるでしょ」


 ‘わ’ナンバーのレンタカーでゆっくりと高速道路を走り、地元へ帰る。1ヶ月前にも通った慣れた道だ。ぼやけたオレンジ色のライトを眺めていると助手席から突然むちゃ振りが飛んできた。


 「そんな気分になれないよ。君の家に向かう理由を考えたら」

 僕は視線を助手席に向け、答える。


 「こっち向かないの。事故しちゃうよ」

 夜の高速道路、長い直線のトンネルの前方には1台のトラックとそれを猛スピードで追い越す営業車のみ。

 多少視線を逸らそうとも事故を起こす確率は低いように見えた。

 非常識な彼女に正論を言われたことは悔しかったが、確率はゼロとは言い切れないため、素直に言うことに従った。

 再びぼやけているオレンジのライトを眺める。営業車はもう視界から消えていた。


 「そうだ、あなたの初恋の話を聞かせてよ。私、あのまぬけな初恋の話が面白くて大好きなんだ」

 またも飛んできた振りに僕が不服そうにしていると、「まぁ初恋は実らないって言うしね。まぬけでも無理はないわ」とフォローに見せかけた追い打ちをかけてくる。

 「今はそれどころじゃないよ。緊張しているんだ。君のご両親とちゃんと話をするのは久しぶりだから」

 「あなたなら大丈夫よ」

彼女はにんまり笑って続ける。

 「小学校の時はよく来てたんだから。今さら緊張なんてしないでよ。それに、あなたのことを受け入れなかったら、呪ってやるんだから」

 「君が言うと冗談に聞こえないね」

 「私はそんなにクレイジーじゃないよ」

 「いや、君は昔からなかなかにクレイジーだったよ」

 「あなたは昔から緊張しいだったね。人と関わるのが苦手で存在感を消す天才だった」

 「そんなんだから同窓会とか大事なものに誘い忘れられるのよ」と追い打ちをかけることも忘れなかった。

 同窓会が大事だと思ったことは一度もなかったけど、確かに僕はタイミングが悪く、様々な大切なものを逸してきた。


 「さぁ暗い顔をせずに、初恋の話でもして楽しく行こう」

 と暗い顔になった原因である彼女は気にする様子なく、話を強引に戻してきた。


 根負けした僕は仕方なく、話し始める。

 

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