第7話 家での想い
そう言うと薫子さんは「良い子ね」と私を見てほほ笑んだ。私はやや照れてしまった。
薫子さんに導かれるまま玄関へ向かい、靴を履く。
「またいらっしゃい」
「はい!またきます!」
ドアを薫子さんが開いてくれて、手を振りながら出ていった。
私は二冊の本をぎゅっと抱きしめながら、速足で一号棟の我が家へと帰っていった。
私が帰宅するとお母さんはまだ帰ってなかった。でもお兄ちゃんの友達はみな帰っており、本人はテレビを見ている。
「ただいま」
そう言っても返事はない。リビングのお兄ちゃんを通り過ぎ、自分の部屋へ本を持って入っていく。
とりあえず本を勉強机の上に置いて、ご飯を食べたら読もうと決めた。
そこで廊下を歩く音が聞こえ、お母さんがドアを開いた。
「ただいまー」
「おかえりー」
「おかえりなさいっ」
私は急いで玄関へと走った。お母さんが疲れた顔をして靴を脱いでいた。
「すぐご飯にするからね。秀、手伝って」
「はあい」
お母さんはお兄ちゃんには手伝ってとは言わない。それはいつものことだった。でも今日は口にはしないけど、なんとなくいやだなって思ってしまった。
私がご飯をよそったり食器を出したりする。お母さんはその後ろでおかずを作っていた。その間、お兄ちゃんはリビングでテレビを見ている。
途中、お兄ちゃんは台所にやってきた。そして「今日の飯、何?」とぶっきらぼうに尋ねた。
「今日は肉じゃがよ。もうすぐできるから」
お母さんは鍋で煮た、作り置きの肉じゃがを器に盛った。
「ん」
そう言ってお兄ちゃんは引っ込んだ。私はやっぱりいやだなあと思う。私はせっせとお膳をふいた。
その後、机の上に肉じゃがとほうれん草のお浸しと豆腐の味噌汁が置かれる。続いて私はお母さんから順に、ご飯をついでいき、最後は自分の分を持って席に着いた。
お兄ちゃんはご飯の気配を察知したのか、リビングのテレビを消してもう席についている。お母さんも続いて席に着いた。
そしてこれからご飯!というとき、お兄ちゃんは「あ、」と口を開いた。
「秀、お茶」
冷蔵庫の中に入った麦茶が出ていなかった。私が一番冷蔵庫に近い席だから、立てばすぐとれる。なんだかなぁと思いながら立ってお茶を冷蔵庫から取り出した。
「はい」
「ん」
もちろんお礼はなかった。それもまた嫌だった。いつものことだけど。
私はいただきます、と言って二人より遅れて食卓に着く。お浸しにはめんつゆをかけ、一口食べる。いつもの味だ。
「今日は学校どうだった?」
お母さんは興味あるのかないのか、いつもそれを尋ねる。お兄ちゃんはそれを聞いていつも無視しているので、私が答えるのがルーティーンだ。
「なにも。いつも通りだよ」
嘘だ。本当は家を飛び出して、薫子さんに会ったのだ。でも言ったらまずい気がした。知らない人の家に勝手に言ったのがばれたら、お母さんに叱られるだろう。
「そう、何かあったら早く言いなさいよ」
お母さんは肉じゃがをつつきながらそう言った。私も肉じゃがの糸コンとじゃがいもを同時に口に含む。
「お母さん、この肉じゃが美味しいね」
「そう?ありがとう」
ここでようやくお母さんは顔を見せてくれる。私は嘘ついた後ろめたさから、しきりにおいしいを繰り返しながら食べ進めた。そしたらお兄ちゃんに「静かに食え」と怒れてしまった。
夕飯が終わり、お風呂に入る前の小休止で、一度自分の部屋に行く。
お待ちかねの読書タイムだ。
机の上の二冊ある本を見比べる。図書館の本は期限があるから、早く読まないといけないけれど、薫子さんがせっかく貸してくれたのに、すぐ読まないというのも嫌だ。
とりあえず畳に寝そべり、薫子さんの貸してくれた本を開いて、読み進める。それもすぐに夢中になった私は、無言でページをめくっていく。
しばらくして、ふすまを開ける音がした。見ると、お母さんが入ってきた。
「秀、その本どうしたの?」
お母さんは私の手に持った本を見た。しまった、と思うがすぐ弁解を思いつく。
「今日図書館に行ったの。そこで借りたんだよ。お母さんはどうしたの?」
自然な言い方ができた。それに対してお母さんは「そう」と返事する。特に興味もなさそうだ。
「そろそろ風呂入らないとだめよって言いに来ただけよ。図書館ね。それもいいけど、本もほどほどにしなさい」
「はあい」
お母さんはそれだけ言うと台所のほうに戻っていった。私はホッとして、とりあえず机の上に本を置く。また読もう。そう思って私は速足にお風呂場へ行った。
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