あなたの魔法使い

山本いろは

第1話 プロローグ

それはまるで魔法のようだった。


よその家では見たこともない、りんご飴のような赤色をした、絨毯が床に敷いてある……。家具はみなダークチョコレートのような色で、日本っぽくない、ヨーロッパで使われていそうな形のものばかり……。

壁際には、不思議なことに、枯れた花がさかさまに吊り下げられていたり……、日本じゃない、田舎の風景が描かれた絵が飾られていたりする。

そんな映画の中の景色みたいで、それだけで胸いっぱいなのに、赤ワインみたいな色のソファに座らされた私は、戸惑いながら震えていた。


(これは、夢?)


テーブルには、白いテーブルクロスが広げられていて、シミ一つない。その上には、うちの急須より、よっぽど大きな白いポットと、ティーカップが二つ置かれていて、目の前の魔法使いは、手慣れた手つきで、白いポットを傾ける。彼女の白いカーディガンの袖と、黒い髪がともに揺れ、ゆっくりとした動作がとても優雅で、見とれちゃいそうだった。


「どうぞ、めしあがれ」


そう言って彼女が差し出したのは、小さな青い花柄のティーカップだ。澄んだ琥珀色の紅茶が八分目まで入っている。いい香りがする。家のティーパックで入れた紅茶とは違う、なんだが甘酸っぱい香りだ。

その魅力的な香りに反して、私の心は戸惑いで埋まっている。


(夢じゃないなら、どうしてここにいるんだろう、私)


全体的に私が今までいた世界からは程遠くて、なんだか脳がちかちかしてしまいそう。こんないい香りの紅茶があって、素敵な部屋があって、今まで見たことないものばかりに囲まれて、夢と思ったほうがゲンジツテキだ。


(これは本当に現実?)

(何かの魔法?)

(この目の前の人は、魔法使いか何かなのかな……)


魔法使い、改め、薫子さんは「それで」と一呼吸おいて私を見る。


「どうして、あんなところにいたの?」


薫子さんの質問に私の体がびくっと跳ねた。

そうだ、やっぱり、これは夢じゃない。現実はそっちだ。素敵な部屋や、いい香りの紅茶で戸惑っていたけれど、ここに来るまでの出来事。それ話さなくちゃいけない。


「えっと――――」


私は、さっきまであった出来事を順に思い出していった。

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