真実の愛<越えられない壁<金

白雪の雫

第1話







「ラズベリー嬢よ!お前は私と真実の愛で結ばれているシャイン=マスカット男爵令嬢を学園内で暴力を振るった!お前のような嫉妬深い女は王太子妃に相応しくない!故にお前との婚約は破棄!及び国外追放とする!!」


 結婚相手を探している年頃の子女、貴族家の当主達、或いは奥方達が談笑する夜会の最中、王太子にして婚約者であるチャーリー=チョコミントから大広間で婚約破棄された私ことラズベリー=チーズスフレは呆然となってしまいましたわ。


 自己紹介が遅れました。


 私はラズベリー=チーズスフレ。


 チョコミント王国一・・・いえ、世界一は言い過ぎかも知れないですけれど、それくらいの金持ちといっても過言ではないチーズスフレ公爵家の娘です。


 そんなチーズスフレ家のモットーは【世の中金】だったりします。


 お金がなければパン一つを買う事が出来ないのですもの!


 ・・・・・・我が家のモットー等どうでもよろしいですわね。


 夜会に参加していた貴族達も、私のように呆然となっていましたわ。


「ラズベリー様!あたしは貴女に傷つけられただけではなく命の危機も抱きました!ですが、あたしに対して暴力を振るった事を謝ってくれたらマスカット男爵家の者として許して差し上げます!!!」


「謝罪の言葉一つだけで、ラズベリーを許すシャインは何と清らかで優しい心の持ち主なのだ!シャインのように寛容な心を持つ娘こそ王太子妃、未来の王妃に相応しい」



 は?


 殿下?


 あんた等王家の生活費のみならず王宮に仕える使用人達の給料に王宮の警備等は全部チーズスフレ公爵家が賄っているんだぞ!!


 コイツ・・・王太子の癖にその事を知らんのか?



 は?


 何言ってんだ、このピンク頭?


 公爵家を男爵家が許す?


 逆だろうが!!!



 という視線を私と家族、そして他の貴族達も二人に向けています。


「殿下?私がかの令嬢に対して暴力を振るったとは、どういう意味なのでしょうか?」


とぼけないで下さい!ラズベリー様はあたしの教科書とノートを破ったり、筆記用具を壊しました!!」


 それだけではありません!!


 ラズベリー様はあたしを学園の屋上から突き落としたのです!!!


「私がシャイン嬢を突き落とした・・・ですか?もし、私が学園の屋上から突き落としたとしたら何故、シャイン嬢は夜会に参加出来るのでしょうか?」


 突き落としたら瀕死の重傷か、樹木がクッションになって軽傷で済んだとしてもシャイン嬢のご両親が娘の身を案じて休ませるはずですよね?


「そ、それは・・・チャーリーが助けてくれたからよ!!」


 私の疑問にシャイン嬢が答えて下さいましたの。


「そうなのですか?」


「そうだ!哀れな事にあの時のシャインの身体はお前に対する恐怖で震えていたのだぞ!!!」


「そうですか・・・。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 私はシャイン嬢に疑問をぶつけましたわ。


「あの高さから突き落とされたというのに、傷の一つも負わないなんてシャイン嬢の身体ってモンスター並みに頑丈なのですね」


 先程も言いましたけど、学園はそこそこの高さがある建物です。


 自ら命を絶つ手段であれ、勇気試しであれ、学園の屋上から落ちたら内臓の損傷、複雑骨折するという風に何かしら肉体に傷を負っているはずです。


 それなのに私が突き落としたというシャイン嬢はどうして無傷なのでしょうね?


「そもそも私は学園に通っていないのですが?」


「「え゛ーーーっ!!?」」


 私の一言に殿下とシャイン嬢とやらが声を上げて驚いていますわ。


 シャイン嬢はともかく、殿下は私が去年に卒業した事を存じておられないのかしら?


 その事を話したらお二人は再び声を上げて驚きましたわ。


 シャイン嬢の学部と学年が分かり兼ねるので何とも云い切れないのですが、私・・・殿下二つ年上なのですよ。


 学園を卒業していても不思議ではないのですが?


 今年に高等部の三年生となった殿下が、どうして驚くのでしょうか?


 それだけ殿下は私に興味と関心がなかったという事なのでしょう。


 思い返してみれば殿下と婚約してからというもの、私は一度として殿下から誕生日プレゼントなんて気の利いたものを贈って貰った事なんてなかったですしね。


 ・・・・・・というより、殿下このバカ・・・チーズスフレ公爵家が、王家が王家としての威厳を保てるように金銭面だけではなく、王宮に仕える者達の給料と王宮の警備面でも援助していた事を知っているのですかね~?


 しかもシャイン=マスカットという令嬢とは初めて顔を合わせたのですが?


 私達の婚約は国王夫妻がチーズスフレ家に土下座をして頼み込んだのに・・・。


「婚約破棄と国外追放、謹んでお受けいたします」


 我が家にとって殿下との結婚は何の旨味もない。


 それどころか我が家が王家から集られるだけですもの!


 我が家は王家の財布ではないのです!!


 婚約破棄?


 してもいいですよ?


 何と言っても我が家から無駄な出費がなくなるのですから。


 殿下との婚約破棄は大歓迎です♡♡♡


 さてと・・・国王夫妻が大広間に姿を現す前にチョコミント王国から出奔しましょうか?


 それから殿下の男爵令嬢との浮気に対する慰謝料と、今までチーズスフレ家が負担していた全ての費用の一括返還を王家に要求するとしましょう。



 私と殿下の婚約が破棄になったという事は即ちチーズスフレ家からの援助が打ち切られるという事。


 お二人は貧乏になっても真実の愛を貫く事が出来るのでしょうか?


【世の中金】がモットーである私と違って殿下とシャイン嬢は真実の愛で結ばれていますもの!



 毎日の入浴が数ヶ月に一回になったとしても!


 入浴が水浴びになったとしても!


 水で濡らした布で身体を拭うだけになったとしても!


 侍女達からマッサージを受ける事が出来なくなったとしても!


 一流レストランで食事が出来なくなったとしても!


 パンを買う事が出来なくなったとしても!


 高級茶葉で淹れたお茶が口に出来なくなっても!


 高級ブランドの化粧品を手に入れる事が出来なくなっても!


 一流デザイナーが仕立てた流行の衣装とアクセサリーを手に入れる事が出来なくなっても!


 着せ替え人形のように衣装とアクセサリーを選り好み出来なくなっても!



 お二人であれば真実の愛を貫く事が出来る!!!



 私は遠い異国の地でお二人の真実の愛を温かい目で見守る事にいたします。




 お父様とお母様、そしてお兄様達は、私と殿下の婚約が立ち消えになる事を想定していたのでしょうか?


 電光石火の如く、チーズスフレ家はチョコミント王国を捨てて他国に亡命したのです。



 風の噂によると、チーズスフレ家の出奔を機に他の貴族家も亡命した、らしいですわ──・・・。







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