スターマイン
月丘翠
① 男子高生のカバン
「学校を爆発させよう」
佐藤がそんなことを突然言い出した時は驚いた。
佐藤は桐谷の高校の同級生で、どちらかというとクラスの端にいる地味なキャラでそんなこと言いだしそうにないキャラだ。
学校の帰り道、何も話さないので、いじめにでもあっているのかと思って、「話聞くぞ」と川辺の公園へ向かったのだ。
「突然どういうことだよ」
「お前はおかしいと思わないのか」
「何が?」
「学校だよ、学校。俺らを同じ格好にして、言うことを聞かせて、我慢強さを鍛えるためだっていうのに、いじめはなくならない」
佐藤は立ち上がって手を広げてまるで舞台俳優のように動いている。
「まぁそうかもしれないけど、爆発させるって」
「考えてみろ、爆発させるくらいしないと変わらない」
「・・・お前、クスリでもやってんのか?」
「やってない!私は断じてまともだ」
そういうと佐藤はベンチの横に座った。
「変えたいんだ、学校を」
佐藤はまっすぐに桐谷の目を見ている、
桐谷は、佐藤をなだめると、その日は解散した。
きっと佐藤はアニメか、漫画か何かの影響を受けたに違いない。
桐谷は気にしないことにした。
しかし次の日-。
「桐谷、作戦会議を行うぞ」
「はぁ?何の?」
「例の爆破計画だ」
1日寝たくらいでは覚めない夢だったようだ。
桐谷は面倒に思いつつ、放課後佐藤に付き合うことにした。
佐藤に誘われて高校近くの路地裏にある、小汚い喫茶店“アンダーグラウンド”と名前まで暗い喫茶店に向かった。
からん、ころんとドアを開け、中に入ると、おじいちゃんが1人いるだけでほぼ客はいない。
「コーヒーが一杯350円、作戦会議にはちょうどいい店だ」
佐藤は満足げに運ばれてきたコーヒーの匂いを嗅いだ。
「で、作戦会議ってなんだよ」
「まず結論から話す。決行日は文化祭の日だ」
桐谷たちが通う高校は秋に文化祭を行う。文化祭と言ってもやることが決められていて、教師の監視の中で行われる面白さとは程遠いイベントだ。唯一毎年盛り上がるのは、ミスコンだ。女の子の見た目で順位をつけることに教育上よくない、と廃止になりかけたこともあるそうだが、多くの女子が継続してほしいという意見だったため、今も続いている。ちなみにミスターコンはない。元々この高校は女子高で5年前から共学になったが、圧倒的に女子の人数の方が多いからだ。もちろん、男子の立場は弱い。
「なんで文化祭の日なんだよ」
「この高校で、1年でも1番盛り上がる文化祭に行うことで、大きな影響を与えることができるからだ」
「はぁ・・」
佐藤は鼻息荒く語っているが、桐谷からしたら疑問しかわかない。
「それに佐藤、お前の大好きなマロちゃんがミスコンにでるんだろ?」
マロちゃんとは高校1の美人で名高い、神宮司恋歌のことだ。
佐藤曰く、入学式で一目ぼれしたらしい。
理由は大好きなゲームのキャラ、マロちゃんに似ているからだ。
そのマロちゃんはミスコンの予選を順調に勝ち上がり、当日の決勝5名まで来ていた。
「マロちゃん悲しむぞ?
「・・・いいんだ」
「ん?なんかあったか?」
「実は・・・」
先日学校の帰り道、1人で歩いているとマロちゃんが見えたらしい。
声をかける勇気もないので、絶妙な距離を保って駅まで歩いていたそうだが、途中から男の子がやってきて楽しそうに話して、手をつないでいたらしい。
「ふーん」
「ふーんって親友がフラれたんだぞ?何か言葉はないのか?」
「いや、そうなるのはわかってたことじゃん」
桐谷がそういうと佐藤はしばらく黙りこくった。
「まさか、そんなことが理由で文化祭めちゃくちゃにしたいわけじゃないだろうな」
「何を言ってるんだ、俺には大義が」
「何が大義だよ、ったく」
「桐谷、お前はやる気がないんだな?ならいい」
佐藤が立ち上がろうとするので、なだめて座らせる。
「やらないとは言ってないだろ?」
全くやる気はなかったが、このまま放っておいたら犯罪者になりかねない。
万が一の時は、友人として止めねばならないだろう。
「とりあえず、作戦を教えろよ」
佐藤は咳払いすると、話始めた。
思ったより現実的な作戦で、そして少し桐谷をわくわくさせた。
「どうだ?悪くないだろ?」
「あぁ」
桐谷はニヤっと笑った。
「退学になったら責任とれよ?」
「一緒に働きに出てやるよ、相棒」
佐藤と桐谷は握手すると、その日から当日に向けて動き出した。
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