第33話

なんだか神殿への体験というよりも、淑女教育だわ。


でも、ここでは、お嬢様の代わりに私がしますから、と誰かに止められることもない。


気になったことは、自分で本を探して調べることもできる。


アーサー様のお茶会や、夜会や、何かの招待状に頭を悩ませる必要もない。


書類作業をしたり、図書室へ行ったり、自由に過ごせる。


ここでの生活は、とても居心地が良かった。



今日も任された書類の計算を黙々とこなす。


えっと、んん? 


これは…初めてみる書類だわ。 


「ニコライ様、こちらはどのように処理したらよろしいでしょうか?」


「あぁ、こちらは、まずこの部分の金額を、こちらの書類に記入致します。


そして、その金額と、こちらの金額に誤差がないのかを確認してください。


誤差があることはありません。

万が一あった時は、大概書き間違えだと思うので、もう一度よく見直されてください。」



「誤差があることはないと、お聞きして安心しましたわ。」


私はニコライ様にお礼をお伝えして、作業にとりかかった。


うーん。なんだか0が多いわね。


間違えそうだわ。慎重に記入をしましょう。


00…500…

これは00…900…

00…4500…


なんだかキリが悪い数字ばかりね。

えっと、こちらの金額と誤差がないかを確認、と。



あら? おかしいわ。金額が違う。

きっと、書き間違えたのね。

もう一度ゆっくりと確認しましょう。


うーん…


やっぱり違うわ。



マリーベルは隣で作業するニコライへと質問する。


「あの、ニコライ様、少しよろしいでしょうか」


ニコライ様は作業の手を止めて、こちらに向き合う。




「こちらの金額なのですが、誤差がありますの。確認していただけますか?」



私は、書類をニコライ様に手渡す。


「おかしいですね……少々お待ちを」



書類を受け取り確認するニコライの表情が、段々と険しくなっていく。


書類をもう一度よく見た後に、ため息をつく。


「ニコライ様?」


「失礼しました、マリーベル様。

こちらは、神官長にお渡しする書類でした。


こちらの書類のみ神官長担当だったのに、手違いで紛れてしまったようです。


私としたことが……申し訳ありません。


こちらは、大丈夫ですよ。


この書類は、私が後ほど神官長にお渡しします。


マリーベル様は、残りの書類をお願い致します」



ニコライはその書類を、別の書類ケースに保管する。


「はい、では、こちらの書類を処理致しますね」


私は言われた通りに残りの書類作業に取り掛かった。


でも、先程の書類のことが何故か妙に引っかかった。


ニコライさまが大丈夫、と言われていたのだから、きっと大丈夫よね。


考えても仕方ないわ。

集中、集中。

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