第32話
「おはようございます。本日も宜しくお願いします。」
「マリーベル様。」
「おはようございます」
あれから毎日、簡単な計算作業を続けている。
この部屋で作業する人達とも、顔見知りになった。
名前と顔はまだ一致しないけれど、挨拶や簡単な世間話ができるくらいの仲にはなれた。
まだまだ人前で話すことは苦手だけれど、
全く交流のしてこなかった自分にとっては、大きな進歩だ。
そのおかげで、苦手な計算がほんの少し分かるようになってきていた。
足したり引いたりなど、簡単なことは分かるのだけれど、何割や比率などが全くダメで。
ニコライ様は計算のことだけではなく、
私が尋ねた事に対して、快く答えてくださる。
一般常識の範囲なのだろうけれど、知らなかったことを知るというのは、楽しい。
学ぶことが楽しいと思えるなんて、信じられない。
ニコライ様は、教師としての資質があるのではないかしら。
素晴らしい才能を持ち合わせているのね。
色々なことを教わったわ。
例えば、この国にある4つの侯爵家のこと━━恥ずかしながら、自分の家名しか知らなかったわ。
領地での特産物や発掘物、農作物のこと。
潤っている領地と、そうでない領地との現状について。
国内や隣国の簡単な情勢なども。ニコライ様の博識に驚かされるわ。
記憶力が悪くて、まだ全部は覚えきらなくて、
こっそりメモをとったりするけれど。
この私がメモをとる姿を見たら、エレナは何て言うかしら。
神殿内にある図書室での、自由に閲覧できる許可もくださったわ。
あとは、貴族の子女として、出来て当然と思われている刺繍も全くしたことなくて……。
今までチャリティーバザーなどでは、きっとアンが刺繍したものを、私の名前で出していたのね。
ほんとに何もできないわ、私。
どうして、お父様達からお叱りも受けなかったのかしら。
どう考えても、こんな私を受け入れてくれる嫁ぎ先などあるはずがないわ。
ましてやアーサー様の婚約者だなんて、論外でしょうに。
刺繍に関しては、近いうちに指導してれる方を紹介してくださるそうだ。
ニコライ様は心当たりがあるとおっしゃっていたわ。
こういう時に、人脈が役に立つのね。
自分ではできないことでも、誰かの協力を得て解決したりできる。
ニコライ様は、知り合って間もない私に、親身になってお力になってくださる。
本当にお優しい方だわ。
私も、いつか、ニコライ様のお役に立てるかしら。
もっと、色々と努力したら、その時には……。
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