第8話
「滞在するのは初めてですか?」
神官は気軽に声をかけてくれる
「えぇ。なんだか緊張しますわね」
「皆さん最初は緊張されますけど、すぐに慣れますよ。良かった」
神官は安堵の表情を浮かべる
「あの、良かったとは?」
「あぁ失礼。いや、その、無視されるかと思いまして…」
「あらどうして?」
「あなた様は違ったようですが、貴族の方は色々と気難しいですし。」
本日の装いは、なるべく地味なものにしたつもりだ。それでも貴族然とした雰囲気には違いない。
まだ名乗ってはいないけれど、
知らないうちに威圧感を与えていたのかもしれない。
「ごめんなさい。少し派手だったかしら?」
神官の方は慌てて否定していた。
「いえいえ、派手だなんてとんでもないです。
そうではなくて…その…とても…お綺麗ですから」
最後は消え入りそうな声でよく聞きとれなかった。場違いな装いではないのなら、良かった。
着替えの服も簡易的なワンピースを用意している。
ここでは、着替えも一人でしなければ。
まあ、なんとかなるわよね
案内された部屋では、数名の神官達が書類作業に追われていた。
「ニコライさま、体験される方をお連れしました。
ニコライさまが神官長の所へご案内してくれます。私はこれで」
ここまで案内してくれ神官は、深々と頭を下げて
立ち去った。
「ありがとうございました。」
お礼を述べるマリーベルの元へ、ニコライが近づき声をかける。
「体験の方だとか?」
「はい。本日より宜しくお願い致します」
私は淑女の礼をとり挨拶をする。
「女神だ」「どこのご令嬢だ?」
チラチラと視線を向ける者や、ぼーっと見惚れる者、中には凝視している者までいる。
ここにいるとなぜか注目を集めてしまうようだ。
「お前達、手が止まっているぞ!」
ニコライは周囲に一喝すると、マリーベルへと向き合う。
「騒がしくて申し訳ありません。
私はニコライと申します。ここでは家名は関係ないので、ただのニコライとお呼びください」
端正な顔立ちをした綺麗な男性だった。
挨拶にも気品が感じられ、優雅な身のこなしに思わず目が惹きつけられる。
美形な方達をそれなりに拝見してきたけれど、
私が出会った中では群を抜いた美しさだ。
社交活動をしていないので、自分が知らないだけで、名の知れた貴族なのかもしれない。
「ニコライさま、ご挨拶が遅れました。マリーベル・マーティンと申します」
「━━━は?」
ニコライさまはまるで時が止まったかのように静止していた。
ニコライ様だけでなく、しーんと静寂に包まれた室内。
長い沈黙の後に、驚きの一言を漏らす。
ニコライ様の声と共に、
「嘘だろ」「あれが例の噂の悪女?」
「そういや、神殿に来るってあの神官長もビビってたよな」
「まじかよ」
周囲が一斉に騒ぎ出す。
ニコライさまが「ゴホン」と、咳払いをすると静かになった。
「騒がしくて失礼。本日は噂のマーティン家のご令嬢も来ると伺っていましたが……
あなたは、どう見ても違いますね?
おかしいですね、私が見落とすことはないのですが。
書類に不備があったようです。少々お待ちを。
これを作成したのは誰だ?」
ニコライは、本日神殿に滞在する予定の者が記載された書類を掲げながら皆を見渡す。
素早く皆一斉に、視線を逸らした
私のせいで、誰かがお咎めを受けるのかもしれない。
「ニコライさま、その書類間違えておりません。
私が、その噂のマリーベル・マーティンです」
自分の噂を肯定しながら、自己紹介をすることになるなんて恥ずかしすぎる。
ほんのりと頬が紅潮する
「彼女が?嘘だろ、だって確か悪女じゃないのか?」
「むしろ女神だ」
「あぁ」
あぁ、やはり私の噂はここでも広まっているのね…
家の者に対しても酷い仕打ちなどしたことないのだけど、なぜかしら。
あまり積極的に誰とも交流していないのだけれど。
私のことをよく思わない方がいるのでしょう
こんな風に噂だけが広まって……
はぁ、またため息がでてしまう。
とりあえず、神殿の中だけでも噂を何とかしなければ。
そうしたら、アーサーさまも私の努力を認めてくださるかしら。
人前だということも忘れて、一人の世界に入っていた。
そんな私を凝視しているニコライ様の視線にきづく。
「ニコライさま?」
「あ、失礼しました、マリーベル嬢。
神官長の所へご案内します。
教育がなってなくて申し訳ありません。彼らには後ほどきっちりと
ニコライは周囲を一瞥すると、神官達は青褪めていた。
大丈夫かしら。
「ニコライさま、私の噂のことでしたら構いません。私の問題ですし…。
むしろ、そんな噂のある私の滞在を許可してくださって、神殿の皆様には感謝しておりますわ」
私は精一杯の感謝の気持ちを述べて、軽く微笑む。
「天使だ」「お近づきになりたい」
周囲から声が聞こえて、なんだか注目されて恥ずかしい。
「マリーベル嬢は、随分噂とは違うようですね。
お優しいですね。
滞在期間中は、不手際がないように私があなたのお力になります。」
ニコライは微笑を浮かべていた。
眩しい
その笑顔は反則だわ。
思わずトクンと胸が高鳴る。
「私のような者と関わると、ニコライ様にご迷惑かかると思います。ですので、あまり私のことはお気になさらず」
「私がそうしたいのです。それでは参りましょう」
「そ、そうなのですか。よろしくお願いします。」
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