10話 いざ買い物

 相変わらずあざとい血赤のお願いに負け、彼女の店を出る。

 なぜ、彼女の願いをここまで聞いてしまうのかは自分でもよくわからない。歳もおそらく五つほど上で、自分よりも多くの物を持っている彼女をなぜ放っておけないのかわからない。

 だまされたときにはもう絶対に会わないと決めるけど、情報が必要になるときは必ずある。

 それで会いに行ったら最終的には絆される。

 友人じゃない。何か恩があるわけじゃない。ただの知り合いだ。むしろ、こっちが恩を売ってる。情報をもらってはいるけれど、アレは対価としてそれに見合った金額を渡してもいる。

 同業者で、あっちは情報屋。

 それだけだと思う。

 それ以外の関係は僕もあいつも求めてはいないはずだ。

 左側に視線を流す。血赤は道をうつむきながら歩いている。身長の兼ね合いで彼女の顔が見えるけれど、何を考えているかわからない。かろうじてわかるのは何か考え事をしているのだな、ということだ。


「血赤、何考えてるの」

「今はクロウと呼んで、エテル」

「だったね、クロウ。もう一回聞くけど、何考えてたの、今」

「秘密。言うつもりはないよ、この情報は非売品だからね」

「まあ、買うつもりはないけど」


 別に無理矢理聞きたいわけじゃない。

 ただ、彼女の命令で僕は今日一日動くというだけ。いつもと変わらない。いつも娼館帰りの男から金を取っているのが彼女の隣で買い物に行っているだけ。

 知りたいわけじゃない。

 だから知らなくて良い。

 そう、言い聞かせる。


「どんな服を買う予定なの?」

「スカートかなぁ。ロングは流石に動きにくそうだからショートで。丈は膝より上で良いよね」

「却下。論外。話にならない」

「え?良くない?」

「無理。断固として拒否する。絶対に認めない。そもそもスカートはくつもりはないし」

「着ないの?スカート」

「着るわけないじゃん、僕が。普通にズボンでしょ」

「しょうがないなあ。私が買うのになあ」


 謎にウザい血赤を放って置いて、少し歩く速度を上げる。置いて行けたら良かったのだけれど、血赤は普通についてくる。

 まあ、素の身体能力だし当然か。こんなところで身体強化するのももったいないし。やっぱ付いてくるなあ、こいつ。

 しばらく歩いていると、東地区の中ではまともよりな建物が見えてくる。看板にはベスティメンタスと書かれているし、これが目的地で間違いない。扉には開店中と書かれた札がかかっていて、何を思ったのかその隣には人が笑っている絵が描かれていた。

 絵の線には普通に魔力が通っている。何、これ。魔方陣?

 正直意味がわからない。何か謎の儀式に必要な文様なのかもしれない。・・・・・・だったら入りたくないな。なんで顔なんだろうな・・・・・・。


「血赤、ここで良いの?謎の顔が描かれてるけど」

「謎の顔じゃないよ、ちゃんと意味があるんだって。これは女性の顔だから女物しか今日は売ってないよ」

「は?どういうこと?」

「いや、言ったとおりだけど。だから、今日は女物しか売ってないんだって」

「何を言ってるのか理解ができない・・・・・・」

「どっちを売るかは店主さんの気分で決まるんだけどね。今日は女物の日だって感じ衣がしたから正解だったね」

「ますます意味がわからない・・・・・・」


 あまりの情報の複雑さと奇っ怪さに頭を抱える。

 意味がわからない。店が売る商品を店主の気分で適当に変えたらだめだろう。行った日に良い商品がありませんでしたって何日かされた後に欲しがっていた性別の服が売ってたら殺意しかわかないよ。少なくとも絶対に買いに行くのをやめるね。

 それになんで女物の日だって的確にわかるんだよ・・・・・・。僕やっぱりお前がちょっと怖いよ・・・・・・。


「それに店主さんも女物の服着てるんだ」

「わあ、肉体の性別はどっち?」

「わからないよ、私でさえも。一つ言えるのはあの人、着てる服が替われば性格が大分変わるんだよね」

「まじですか」


 今までお目にかかったことのない人種らしい、その店主って人は。

 まともな人間でありますように。お願いだから。二人目の血赤とか二人目の灰夜とか他にもいろいろいる頭おかしい人間よりはましな人間でありますように。

 無理だね、既に男なら女装癖、女なら男装癖があるって確定してるのに。

 儚い望みは絶たれた。もう少しまともな人間は居ないのかよッ。まあもし居たとしても東地区で数年暮せば命の価値が低い人間になれるだろう。

 しょうがない。僕だってそうなのだから。

 積極的に殺しはしないとは言え、別に見殺しにすることに躊躇いはないし、人が死ぬのを見てももう動揺しなくなった。

 顔を上げれば血赤が扉に手をかけていた。


「ちょ、待ってよ。血せ、ゴホン、クロウ。心の準備が」

「ハイ待ちませーん。パカー」


 アホみたいな効果音を口にしながら扉を開ける。

 これが問答無用というやつか。悲しいね、これが搾取ってやつなのか。従わざるを得ない人間は従わせる相手の良いなりのまま・・・・・・。

 まずい、血赤がアホっぽかったせいで僕の頭も浸食されてる気がする。知能が著しく低下していないかなあ。大丈夫かなあ。


「いらっしゃい。あら、久しぶり」

「こんにちは、ベスタ。今日はこの子、エテルの服を見繕ってもらいたくて」

「こんにちは、エテル、と言います」

「ふふ、可愛いのね。どんな服が良いの?」

「かわい」

「動きやすい服で。クロウの言うことは無視してください」

「わかりました。少し待っていてね」


 そう言ってベスタと呼ばれた店主は奥の方に行った。

 久しぶりだったな、一部とは言え本名を呼ばれるの。

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