第24話 竹の群生地と槍投げ君
このあたりだと思うんだけどなぁ……
俺たちは、俺がこの世界に最初に降り立った周辺に来ていた。
地図を見る限りはこの辺が自動マッピングされているから、ここだと思うんだけど……
「まだ? 戻るまでの時間を考えると、そろそろ引き返さないと」
「なんだけど……あ、あった」
竹の群生地が広がっていた。最初に通り過ぎた時は日本かと思ったくらいだ。
「……あ、周りの警戒お願いできる?」
「え? 私もやるけど?」
「……大丈夫かな……結構音が出ると思った気が……」
ナオエさんが四次元収納ポーチから、ホームセンターに置いてある様な、近代的な斧を取り出し、おもむろに大き目の竹に打ち込む。
カーン! カーン!
かなり大きい音だな……って、え? なんで斧?? 俺は支給品のリストを確認する……無い、無いよな? 手鏡もそうだけど、女性優遇なのか?
【女性の方が力が弱いのと、色々必要とのことで支給品は男性よりも多いそうです】
……ありがとうアーゼさん……ってかズルいな……最初のスキルが強ければ力が弱いも強いも関係ないじゃないか!
「ほら、不動君もやって」
「斧……無いんだよね……」
「え? 支給品にあったでしょ??」
「男女で支給品違うんだってさ」
「? そうなの? じゃぁ、どうやって竹を回収しようとしてたの?」
俺は鬼人族からもらった山刀を抜き、何かのドキュメンタリー映像で見た感じで竹に何度もたたきつける。斧とまではいかないがうまく行きそうだ。
「山刀ってそうやって使うのね」
「確かそうだった……なんかのドキュメンタリ映像で見た」
竹を切り倒す。思ったよりは楽だな……中がスカスカだからだろうけど。
ってか何となくだけど……筋力がものすごく上がってる気がする。何をやってもステータスが上がる世界なんだろうか?
試しにログを確認するが……あ、あれ? なんか妖魔を倒した事になってる?? もしかしてパーティ機能があるとか??
【妖魔や魔獣を討伐した際に近くにいるとエーテルを吸収できるシステムです】
え? それじゃ、ナオエさんが倒したあの妖魔のエーテルももらっちゃってるって事?
【そうなりますね】
……何か悪い気がするなぁ……言っておいた方が良いんだろうか?
「ねぇ、なんか力が強くなってる気がするんだけど、不動君はどう?」
「あー、強くなってるね。魔獣とか妖魔倒すときに近くにいると……勝手に強くなるらしいよ」
「……なるほど、それで……」
……今ので誤魔化せたのだろうか……いや、ここは誠実に……
【あまり説明しなくても良いかと思われます。正直者は馬鹿を見るというやつです】
……アドバイスありがとう、アーゼさん……
竹を持てるサイズ、取り扱いのしやすいサイズに切り分けていく。葉っぱは役に立たないよね……枝もざっくり切っちゃおう。
一人二本分の竹を確保し、さぁ戻ろう……とした矢先、『嫌な感覚』をナオエさんの首元辺りに感じる。
俺はナオエさんをダッシュして抱え込み竹林の方に転がり込む。それと同時に食器棚を収納ポーチから取り出し適当に放り投げる。
ガゴォン!!!
食器棚を貫通して止まった妖魔の槍の穂先が出ている?!
やはり槍投げ君か!! ここもテリトリーだったのか!
「あ、ありがとう。機転が利くわね……」
「もう少し奥に、竹林の中に入ろう」
「わかった!」
竹林の中に飛び込み、伏せた状態になって周囲を警戒する。
……気配が無いな……分かってはいたけど、相手がスキルを使わないと場所が分からない。俺は察知能力がないみたいだな……
「ナオエさん……場所わかる?」
「私の分かる範囲にはいない……凄い遠いところから狙ってきたのかも」
しばらく竹林に吹く風と、葉っぱがなびく音だけが周囲を包む。
困ったぞ……槍投げ君は、いつだか木の上から見た時の草原辺り、ここから二キロくらい先がテリトリーだと思ってたから、こんな近くにいるとは思ってなかった。
「ねぇ、この竹林を突っ切って逃げれば逃げられるんじゃないの? 追尾って言っても、直線的に追尾するんでしょ?」
「……あ、そうか……食器棚は持ってきたかったな……」
「機会があれば回収しましょう……あれ欲しかったの?」
「あ、いや、殺風景でしょ? 拠点」
「……余裕あるわね……」
ナオエさんが微笑む。ナオエさんこそ余裕ある感じに見えるんだけど……
目を合わせた後、二人で同時に走り出す。竹林の密集した場所へと入っていく。
一瞬『嫌な感じ』を受けるが、すぐにその感覚が消える。
「みつけた! あそこ!!」
「ん?」
どこ? 全然わからなかった……って、確かに人影らしきものが……百メートルは離れてる……ってか逃げ出したな。丘をぐるっと回って逃げてる……
「追おう!」
「わかった」
二人で槍投げ君をしばらく追跡する。見晴らしのいい場所では立ち止まり、相手の攻撃を警戒する。
どうやらナオエさんが相手の足音か気配を感じられるようで、的確に相手の場所を探している感じだった。相手も蛇行したり色々して俺たちをまこうとしている様だった。あちら側も追跡してくる俺たちの事はわかっているようだった。
しばらく追うと、まだ踏み入れたことのない廃村へとたどり着いた。
……隠れる場所だらけだな……迷いなく入っていったところを見ると、ここに他のプレイヤーや妖魔の類はいないんだろうな。
「ここが彼の拠点?」
「そうみたいだね……」
さて、どうしよう……このまま追跡をやめるか……何方にしろ今の状態だと相手を殺す状況になりそうだな……
距離を詰めようとしていたナオエさんが不思議そうな表情で足を止めていた俺を見る。
「どうしたの不動君?」
「あ、いや……このままだと相手を殺すことになりそうで……」
「……そこまで忌避感は無いかもよ。死んだら消えるの……光の粒子になって」
「……見た事あるの?」
「うん。目の前で消えた人、見た事あるから」
ナオエさんの目が遠くなる……最初に会った時は睡眠不足なうえボロボロだったもんな……プレイヤー同士が戦うような環境から逃げて来たから大変だったんだろう。
俺たちは気配を悟られ無いように、身をひそめながら大きく迂回して廃村へと近づいていった。
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