第23話 遭遇戦

11日目


俺たちは「竹」と新たな鍋になりそうな何かを探しに未開拓地域を探索していた。

海岸の漁師小屋の手前あたりに「竹」はあったと思うので、この島にはそこら中に自生をしているかと思ったらそうでもなかった様だ。

未調査地での廃村探し(鍋探し)……と同時にしようと思ってたので裏目に出たか。

二兎追うものは……になっちゃいそうだな。


新たな廃屋を見つけ、中を探索する。まぁ、すでに今日、3軒目なんだけど……


「廃屋はあるけど、やっぱり中のものは全部無いわね……」

「そうだね……皮鎧君がいたところが一番モノがあったな……」

「そこ行ってみる?」

「戦うの?」

「今も同じところをテリトリーにしてるか……くらいは確認した方が良いんじゃないかな」

「なるほど……」


ナオエさんが室内を見て回る。


「ここは拠点にできないよね……」

「ここだったら、崖上の方が安心便利でしょ」

「確かに。私たちのスキルあっての場所だからね……」


ドアは壊れて吹き飛んでいたが、屋根も壁もあるのは魅力的だ。

ただ、崖上と違い安全面ではかなりヤバい。妖魔も入ってくるだろうし、なにより虫が多い。崖上には蚊が少ないんだよね……

あ、壊れて外れてる木のドアは回収できそうかな? あ、四次元収納ポーチに入った。

すごいな、これ。


「……家を分解すれば持って行けそうね……」

「ほんとに……あ、もしかして今の筋力なら……」


今までは、木のテーブルは簡単に持ち上げられなかったが……今のステータスの上がった身体なら……あ、持てる……入った。


「……持ち上げられれば入れられる……って推論は確かみたいね」

「だね……まだまだ入りそうだし、家一軒分は入りそうだね」


試しにタンス、食器棚も持ち上げて入れてみる……入ってしまった……家具の角さえ四次元収納ポーチに入れば良い様だ。

これで崖の拠点が充実する……って、あそこでほんと良いのだろうか?

地震が起きても崩れないよな?


「……」

「こうなると、家の設置型の施設が憎いね……かまどは持ち上げられないかな……」

「……そのうち家も持ち上げて入れられそうね……」


目当ての「鍋」に類ずるモノは発見できなかったが、薪までは持って行こうとしなかったみたいなので頂戴して家を出ようとする。薪はほんと助かる。木は簡単に手に入るけど、乾燥させる時間と手間が本当に厳しい。


「まって……魔獣?」

「ん?」


廃屋の入り口からは中型のイノシシが地面の匂いを嗅ぎながら歩いていた。エサを探してるのか?


「どうする? クマ肉残ってるけど……」

「干し肉と燻製……試してみる?」

「わかったわ」


ナオエさんが槍を取り出し、「伸びる」で狙いをつける。

『伸びる』のスキルレベルが上がってきたら、速度がものすごく上がったので……おそらく獣くらいは一撃で仕留められるだろう。


俺も槍をとりだして、上手くかわされた時のために準備をする。


ナオエさんがスキルを発動させるとイノシシの胸元にキレイに突き刺さる……と同時になんかがイノシシの頭に突き刺さる?? な、なんだ?


「あれ?」

「……矢?」


ナオエさんが『伸びる』を解除して、建物の陰に隠れる。

俺も疑問に思いながら盾を四次元収納ポーチから取り出し、警戒しながら建物の外へと顔を出す。


「……」

『……』


ばっちりと妖魔と目が合ってしまった。

小妖魔より大きい……なんか筋肉もしっかりと……服はやっぱり原始人だな……

お互いしばらく固まったあと、妖魔は後ろの方へと転びどたばたとした後、懐から何かを取り出す。 

なんだあれ? 骨?


ブォーー---! ブォーーーー!!


げ! あれ、笛か!? 


「げっ!」

「えっ? ちょっと!! もうっ!!」


ナオエさんが両手に槍を持ち『伸ばす』で槍を伸ばし、首元と頭を貫く……って、すごいな!! 貫通したよ!? スプラッタだな……まるでライフルの弾が貫通したような……


「……え? あれ? すごい威力になってる……スキルレベルって重要なのね……」


撃ったナオエさんもなんか驚いてるし!? 今朝、スキルレベルが3になったって言ってたからそのせいか??

って、そんな場合じゃなかった。呼ばれたよね、増援。笛を吹くって事は周りに仲間がたくさんいる??


俺は周囲を見渡し、どちらに逃げるか迷っていた。なんか『嫌な感じ』が、どの方向からも感じる気がする。

「カタシくん、色々な気配が近づいてくて来てる!」

「えっ?」


囲まれているなら……やっぱり……上しかないよな……色々な想定をして話し合っておいてよかった。

俺はナオエさんに遥か頭上の大木の木の枝を指し示す。一瞬で理解してくれた様で、二人で『伸びる』をつかって槍を伸ばして樹上へと逃げる。


『♯$♯$###?』

『!!! #$%$#”#!!』


妖魔が二人、狩人らしき妖魔の死体に気が付いて慌てて近づいてくる。死んでいることに気が付くと周囲を警戒し出し、周りを見ながら徐々に距離を詰めてくる。


『##? #$#$##?』

『#$#$#、#$#$##』


妖魔の一人が狩人妖魔の懐を漁っている? 持ち物を見ているのか?

と思っていたら警戒している妖魔の首元にナオエさんの『伸びる』の槍が突き刺さり、一瞬にして元に戻る。ナオエさんの目が狩人の目になってる!? ってか目の奥が怒ってるな……追い回されたって言ってたから恨みあるんだろうか?

妖魔が倒れる音に驚いて立ち上がった瞬間にもう一匹も討ち取る……ってか、『伸びる』と槍の組み合わせ強すぎじゃないか??? 

音が出ないってすごいアドバンテージなような? アサシンみたいだ……


「すごいね……」

「まだ集まって来てる……あと8匹ね。出来るだけ処分しておくわね」

「お、お願いします……」


まるでゴキブリを見るような目だ……それからは一方的な虐殺ショーになった。

警戒して近づいてくる妖魔に対して、無警戒の頭上からの身体への一突き。貫通力が凄いせいか面白いように一撃で仕留めていく。

妖魔も最初は驚くが、なぜか近づいて死体の懐のポーチらしきものを漁ろうとする。そこに一撃を入れて……なんだかポーチの中身が気になるな……お宝でも入ってるのか?

最後の一人も、死体の山を見て腰を抜かし、周囲を警戒しながら骨の笛を吹こうとする瞬間にナオエさんの『伸びる』槍でくし刺しにされていた。


……ナオエさん……敵には容赦しないタイプなのね……俺はまだ忌避感が消えないというのに……


「ふぅ……これで全部みたいね……」

「そうだね、いやな感じが消えたし」

「え? 不動君って、なんか感じたりするスキルあるの?」

「いや? なんか『嫌な感じ』がしたりするんだよね。妖魔とか、スキルを感じると……ほら、槍投げ君も『嫌な感じ』がしたところに槍が飛んできたりしたし」

「……なるほど……察知スキルが無くてもわかっちゃうんだね」

「エーテルがなんたらーって言ってたからそのせいかもね」


【おそらくそうでしょうね。カタシはこの世界の住人同様にエーテルを感じられるのかもしれません】

……なるほどねぇ……これがエーテルか。鬼人族はやっぱり感じてたんだね。


安全の確保が出来たみたいなので地表に降りた。

俺は、妖魔たちが懐のポーチを気にしていた様だったので調べてみる。

なんか金属の塊……貨幣か? ……どこの世界も同じか……死体から財布を抜き取ろうとするのは。


「それ、なに?」

「おそらく妖魔の貨幣だね。皆これ取ろうとしてたみたい」

「それで隙だらけだったのね……」

「……まぁ、相手からしたら、戦闘終わって殺された後……って感じだったんだろうなぁ……財布を失敬するくらいの感覚だったんだろうなぁ」


俺は一応、妖魔のポーチを漁り、貨幣や、よくわからない焼き物の小瓶、小袋などを回収していく。ついでに妖魔の槍や、短刀、山刀、弓矢なども回収する。何かしらの素材につかえそうだったのと、妖魔に再び接収されて使われるのも嫌だしね。


「……小妖魔の槍より扱いやすいね……大きいから?」


ナオエさんが妖魔の槍を振り回しながら使い心地を確かめているようだった。なんだかとても心強いな……ってか、敵に回したらとても怖い人だな……


「体のサイズが近いからだろうね。小妖魔はジュニアサイズだし……」


四次元収納ポーチのリストを見ていると、小袋は麻痺毒のようだった……やっぱり毒使うよなぁ……米酒、気付け薬(効果なし)塗り薬(効果なし)など色々あるけど……


【迷信的な薬が多い様ですね、使わないことをお勧めします】

「ありがとう、アーゼさん……そうするよ」

【また、妖魔の槍の穂先には雑菌が多いようですので、捉えた獲物は生で食べない方が良いですよ】

「……なるほど……帰ったら穂先を軽く焼いて消毒するよ」

【それが良いでしょう。麻痺毒に関しては食べる目的の獲物には使わないことを推奨します】

「それは……食べたら麻痺する?」

【ええ、麻痺しないにしても毒であることは変わりませんので体調が崩れるかと思われます】

「ありがとう」


「アーゼさんはなんて?」

「薬系は全部だめっぽい、毒系は使えるって。穂先消毒しないと、狩りの時雑菌入るからしっかり焼いて食べろってさ」

「……なるほど」


死体はどうすればいいんだろ? 焼いた方がいい? 埋葬する? うーん……

熟考しているとナオエさんが俺の服のすそを引っ張る。


「この場を離れましょ。恐らく狼らしき集団が近づいているわ」

「……あ、そうか、血の匂い……するからか」


大分血の匂いに慣れてきてる気がする……最初に妖魔を倒した時が懐かしいな……血の匂いでむせそうだったもんな。


俺たちは足早にその場を後にした。

しばらく離れた場所で木の上に登り休息をとる。


「ねぇ、やっぱり妖魔は出来るだけ狩った方が良い気がするんだけど」

「そうだね、まさか会話も無しに増援呼ばれるとは思ってなかったよ。逃げる手段がなかったらヤバかった気がするよ」

「次からは積極的に狩っていきましょう」

「了解」


割とナオエさんって好戦的だな……スポーツでも頑張る体育会系の思考だった気がするからそんな感じなのかな? 確かバスケ部だったな……

まぁ、崖の拠点周りが平和になるんだったらなんでもいいか。


まだ午前中と言って良い時間だったので、俺たちは「竹」を求めて、俺の記憶にある群生地の方へと向かう事になった。

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