第10話 伸上ナオエ


伸上ナオエ


中学の時のクラスメートであり、初恋の相手であり、何となくの気恥ずかしさと、周囲の目を気にしすぎたせいでぎくしゃくしてしまった相手……高校は別だったから……


って、そんな事を考えている場合ではなかった!


ナオエさんは無事だよな? ってか武器持ってないじゃないか!

最後の矢を放った小妖魔がナイフを片手に木を登り始める。ナオエさんがひきつった表情をしながら小妖魔と犬を見比べている。どうするか迷っている感じか? あの感じだと直接的に攻撃できるスキルは持ってないな? SP使い切ってるとか??


【助けるのですか?】

(もちろんだ!!)


俺はゆっくりと近づき、犬が吠えながら後ろ立ちになり、木の幹に手をかける瞬間を狙う。

『固定』!!


犬が突然張り付いた両前足に驚いている間に槍を身体目掛けて全力で突き刺す。相変わらず嫌な感触だ。


「ぎゃんっ!!!」


木に登っていた小妖魔も聞きなれないであろう鳴き声で何事かとこちらを見る。

それと同時に俺は『固定』を小妖魔の靴にかける。

慌てて飛び降りようとした小妖魔は靴が固定されたおかげで綺麗に逆さづりになってしまう。迷わず四次元収納ポーチから違う槍を取り出し相手の体に突き刺してねじりこむ。ゴリゴリとした感触が手から伝わってくる。

そしてすぐに引き抜く……まるで血抜きをしているかのように血がドバドバと出てくる。小妖魔は激しく暴れていたがしばらくすると動かなくなった。

俺は犬の方を見る。息が荒いがまだ生きている……槍を抜く。こちらも立ったままだったので血が凄い勢いで出てくる……血が噴き出し、しばらくするとぐったりとしていく……


【小妖魔を討伐 HP+0.02 MP+0.01  STR +0.02 DEX +0.02 AGI +0.02 INT +0.03 MND +0.04  SP+0.02 ……】

【犬を討伐 HP+0.005 MP+0.003  STR +0.006 DEX +0.002 AGI +0.002 INT +0.003 MND +0.005  SP+0.006……】


目の端にログが流れるが、俺はナオエさんの方が気になっていたのでそちらの方を見る。


「ナオエさん! 大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます!……って、あれ? 不動君???」

「降りれるか?」

「……夢なのかな……やっぱり夢だよね……もちろん、ちょっと待って……」


随分力のない声だな……

ナオエさんが木の枝に手をかけると、みょーんと手が伸びて……

伸びた!! 

手が伸びた!!


俺が驚いている間にナオエさんが地面に着地し、手が凄い勢いで元に戻っていく。ゴムのスキル?それとも「伸びる」「伸縮」とか? 

ってか目の焦点が合ってないような?? 

ふらついてる?


「す、すげぇ……」

「……ありがとう……死ぬかと思ったよ。……不動君もまきこまれちゃってたんだね……」

「お、おう。久しぶり……なんか大人になったな……」

「……当たり前じゃない……って、あれ? 高校生に若返ったのに……あ、そうか……成人式来なかったよね……」

「ああ、ちょっと忙しくてな……」


何となく変な空気が流れる。ナオエさんが俺を見ている様な遠くを見ている様な……

考えてみたら気まずい。ぎくしゃくとした空気のまま別れたままだったんだよなぁ……なんか恥ずかしさで悶絶しそうだ。


「……あ、あのっ……水……ある?」

「お、おお。あ、ある。ってか、今作ってたところ」

「……作るって、海水から?」

「あー違う。川を見つけたんだけど……そこから煮沸して……ろ過してって感じで……」

「……不動君ってサバイバルとかできちゃう系だったの?」

「あ、いや、サバイバル本を参考に……」

「……あ、そうか……真面目だね……そうだね、誠実な人だったよね……」


……そういえば割と中学の時は部活を頑張る真面目キャラだったな……

大人になってからした失敗を考えると……誠実さって無くなったよな。まぁ、元彼女が俺を振るのも仕方ないんだよね……


「……いや、そうでもない……」

「……まぁ、色々……あるよね。大人になったら」

「んだな」


また変な空気が流れる……おかしいな……あ、そうか……槍を握ったままだった……しかも血まみれの……

視線がチラチラと槍の方にいってるもんな。

目も何か据わってる感じだし……警戒してるんだな……頭に手をやったりして……頭痛でもしてるのだろうか?

敵意を見せないためにも槍を四次元収納ポーチに入れる。ついでに小妖魔の弓やらナイフも入れておく。

ナオエさんがなんか驚いている感じだけど……


「ナオエさんはどうするつもり?」

「……え、あ、その、安全な場所と水を探しに来たんだけど……害意はないよ」

「ああ、そっか……あ、そっちじゃなくて、バトロワに参加するの?」

「……へ? 強制参加……じゃないの?」

「あ、いや、逃げ回るのも手かなと……ほら、誰かが黒結晶とやらを壊せば終わりなんだし、生き残れば一千万円だろ?」

「……あ、そうか、そう言う考えがあるんだねぇ……襲われて逃げ回ってたから……」

「……他のプレイヤーから?」

「……うん。逃げ回って色々あって、ここにたどり着いた感じ」

「それは……災難だったな。俺は他プレイヤーは見かけたけど、襲われてないからな」

「……運がいいのね……」


あれ? ちょっと待ってよ……ナオエさんが俺を殺す可能性も……あるのか?

とりあえず敵意は見えないけど……なんか複雑な感情が邪魔してそう見えるのかもしれないけど……


「……ねぇ、とりあえず、情報交換しない?」

「ん、ああ、いいよ。って言ってもこの近辺の情報しかないけどね」


俺は先ほど作っていた山菜海水スープが気になったので移動をする。

ナオエさんも俺の後をついてくる。足がふらついてるな……大丈夫だろうか? 演技ってわけも無さそうで不自然なところは無いな……相当疲労している? 言動もなんかワンテンポ遅い気もするし。


「……すごいのね……これ作ったの? あ、古いから元からあったのか……」

「漁師小屋ってやつらしい。ココが今の拠点」

「……なんかいいわね……鍋まであるし……なんか煮てるし……」

「ああ、さすがに鍋は無かったから近くの廃村から拝借して来たよ」

「……そうか、持って来ればればよかったのか……」

「あ、食べてみる? 海水山菜スープ……不味いかもしれないけど……」

「……この島来てから食べたのは支給品の携帯食料だけよ……ごちそうに見えるね」


俺は拾ってきた木の皿にスプーンで海水山菜スープを味見してみる……あれ? 結構うまいぞ、これ。適当に拾った小さい貝入れたのが正解だったか?

塩味が体中に染み渡るな……ちょっと苦みがあるか?


「……おいしそうね……」

「思ったより行けそうだ、ほら、食べて」

「……ありがとう……おいしい……」


あ……なんか知らないけどナオエさんの目に涙が……携帯食料を……4日……5日も食べ続けた後だったらめちゃくちゃおいしく感じるのか?? 俺はどうすれば……あ、肉もあるから肉も……四次元収納ポーチから焼いておいた魚を取り出す。


「よかったらこれも……」

「え!! 魚!! あ、ありがどぉおおおお」


俺は一心不乱に泣きながら食べるナオエさんに若干引いてみていたが……よく見ると支給された探検家のベストや服はかなりボロボロ、そこら中に血の跡が付いていた。何個かは返り血だろうか、かなりの量の血が付いていた。

それによく見ると目に酷いクマが出来ている。満足に寝られなかったのか……他のプレイヤーに追い回され、妖魔に追い回され……魔獣に追い回されてここに来た……って感じだろうか?  

あれだけ手を伸ばせれば……森の中だと逃げるにはもってこいのスキルだろうしな。


ナオエさんは食べ終わりそうになるとユラユラと揺れ出す……目が半開きになり……あ、これ寝ちゃうやつだ。

俺は慌てて彼女を抱きかかえる。うーん困ったな……とりあえず安全な小屋の屋根の上に……


【お優しいのですね】

「え? なんで?」

【今なら無防備ですよ?】

「……ああ、そうか……なんか、そういう考えにはならなかった。とりあえず寝かしてくるよ……」


俺はナオエさんを抱え……ってか軽いな……女性って軽い……なわけないな、学生時代に酔っ払った勢いでふざけて女友達をお姫様抱っことかしたら、あまりに重くてびっくりした記憶あるし。ナオエさんはしっかりとした肉付きだし、ステータス上昇のおかげか……強くなってんだな、俺。

ナオエさんを雑に寝袋に包み、『固定』で漁師小屋の屋根に括り付けてくる。これであまり移動は出来なくなったな……まぁ、スキルの検証と、調理した山菜スープの収納、残りの水のろ過……など色々試す事があるからいいか。


あれ、俺の寝袋……どうしよ? ナオエさんの寝袋借りればいいか……

ナオエさんの四次元収納ポーチに手をかける。あれ? 無反応だな? リストが出てこない?


【他人の収納ポーチは使えませんよ】

「え? そうなの?」

【プレイヤーが死んだ際には支給品は全回収で、こちらの世界で獲得したものが自動的に外に排出される仕組みとなっています】

「まじか……この万能サバイバルナイフいいんだけどなぁ……もう一本あればすごい便利なんだけど」

【個人的には壊れないナイフは便利すぎるかと思いますので仕方がないかと】

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