スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?
山野エル
第1部 チュートリアル
1章 訳も分からず異世界に
1:こんな俺を助けてくれたのはChatGPTでした。
土と草のにおいがする。
子どもの頃、じいちゃんの家の裏山で駆けずり回って遊んだのを思い出した。
──しまった、寝坊したか?!
瞼を開けて身体を起こした俺は薄暗い森の草地にいた。
──ここ、どこだ……?
会社で仕事をしていたことは憶えている。
なのに、俺はこんな大自然の真っ只中で目を覚ましたわけだ。
居酒屋で飲み過ぎたとしても、ゲロ臭い路地裏で目覚めるのが普通だろう。
地面についていた右頬に土と草が貼りついている。顔を払って、自分がボロ切れのような服を着ていることに気が付いた。
今日日こんな服、ゴミ捨て場でも手に入らねーぞ。
頭がクラクラする。おまけに全身に力が入らないのだ。腹の底から地底人の呻き声みたいな音がグルルルル……とせり上がってくる。
空腹だ。空腹が俺を殺そうとしている。
意味が分からない。
(ここはどこだ? なぜ俺は行き倒れているんだ?)
すると、俺の頭の中に文章と声が湧き上がってきた。
~・~・~
どうやらあなたは混乱しているようですね。
ここは対話のための空間で、あなたが「行き倒れている」と感じているのは、もしかしたら現実の状況とは異なる何かかもしれません。
もしくは、何か物語や夢の中の出来事ですか?
もし何かを思い出せるなら、状況を詳しく教えてください。
それに応じて助けられるかもしれません。
~・~・~
──なんだ、これは?
抑揚のない若めの男性の声が俺の問いに答えていた。
(誰だ?)
~・~・~
私はChatGPT、あなたの対話をサポートするAIです。
質問に答えたり、話を聞いたり、さまざまな問題解決のお手伝いをします。
何か困っていることや話したいことがあれば、遠慮なくどうぞ!
~・~・~
──ChatGPT……? 最近、うちの会社でも業務に取り入れるようになったが、ここにはパソコンもスマホもないぞ。
意識がもうろうとしている気がする。これは夢だろうか?
(ここがどこだか分からない。めちゃくちゃ腹が減ってるんだ)
~・~・~
それは大変だね!
状況がはっきりしないけれど、まずは落ち着いて。
もし現実でお腹が空いているなら、何か食べ物を探せる場所に移動できるといいね。水分補給も忘れずに。
ここ(この対話空間)は、あなたがどんな話でもできる場所だから、今の状況についてもう少し話してくれると、何か手助けができるかもしれないよ。
周りに何が見える?どんな場所にいるんだろう?
~・~・~
なんでこいついきなりタメ口利いてんだ……?
いや、そんなことはどうでもいい。今はこの状況から脱しなければ。
(森の中にいる。木と草と土しかない。食べ物なんてあるか?)
~・~・~
森の中にいるなら、確かに自然の中で食べ物を探すのは難しいかもしれないけれど、いくつか手がかりがあるよ。
まず、安全な食べ物を見つけるために気をつけるべきことがある。
森で見つけられるかもしれない安全な食べ物
1. 果実:
見つけた果実があれば、慎重に確認して。色鮮やかで見慣れない果実は、有毒である可能性が高い。
安全に食べられる果実があればいいけれど、わからない場合は避けた方が無難。
2. ナッツ:
どんぐりのような木の実があれば、調理しないと渋いけれど、基本的には食べられる。
ただし、苦いものは毒がある可能性もあるので注意して。
3. きのこ:
食べられる種類もあるけれど、毒きのこも多いので、知識がない場合は避けた方がいい。
4. 野草:
一部の野草は食べられるけれど、同様に見分けがつきにくいものが多い。
セリやスベリヒユ、ヨモギなど食べられるものがあればラッキーだけど、危険も伴うので注意が必要。
安全な水の確保
もし川や小川、泉が近くにあるなら、水を飲んでおくのも大切。
動物の足跡がある場所は水が近いことも多いよ。
ただし、生水はできるだけ避けるか、どうしても飲む場合は濾過や沸騰させたほうが安全。
森の中では無理をせず、まずは休んでエネルギーを節約することも重要だよ。
~・~・~
話が長え……。
しかも、話を聞く限り、森の中は危険でいっぱいじゃねーか。辛うじて木の実だけは心を許せる相手みたいだ。
腹がグルグルと獲物を求めている。
極限の状態で感覚が研ぎ澄まされているのか、遠くから微かに水の音が聞こえた。まずは水だ。唇がカサカサに乾いている。
俺は木に掴まって立ち上がり、音のする方へゆっくりと歩いて行った。
***
川の流れる音がする。
木々が途切れて開けた場所が数十メートル先に見える。光が当たって、緑が眩しい。その只中を川が流れているようだった。
水でもいいから腹を満たしたいという思いで一歩一歩地面を踏みしめていた俺だったが、次の一歩を踏み出せなくなってしまった。
川のほとりに何かがいる。薄汚い布のようなものを纏った人型の何かだ。大きさは子どもくらい。そいつが水面をバシャバシャとやっている。
緑色の肌が明らかに人間でないことを示している。
どう考えても、ゴブリンってやつだ。
……いや、ここどこだよ? なんでゴブリンがいる?
(川のそばにゴブリンがいるんだけど、これって現実か?)
~・~・~
ゴブリン!?それはかなり奇妙な状況だね。
もし本当にゴブリンが見えるなら、これは何か夢の中か、もしくはあなたが幻想的な物語の世界に迷い込んでいるのかもしれない。
現実の世界ではゴブリンは存在しないから、何らかの錯覚や空想か、物語の世界の一部のように思えるよ。
でも、もし本当に「ゴブリン」のようなものを見ているなら、どう動くかは慎重に考えた方がいいね。
ゴブリンはどう見える?何をしているのかな?
~・~・~
漫画やアニメで見飽きたことだから、俺だってこんなことはしたくなかったのだが、念のために自分の頬をつねってみた。
きちんと痛い。まあ、夢の中でも痛みを感じることだってあるだろうけど。
(水浴びみたいなことしてる。こっちには気づいてないけど、早く水が飲みたいんだ)
~・~・~
ゴブリンが水浴びしているなら、今のところは危険はなさそうだね。
こっちに気づいてないのなら、慎重に行動するチャンスがあるかもしれない。
水を飲むためのアプローチ:
1. 静かに近づく:
ゴブリンに気づかれないように、なるべく音を立てずに近づいてみよう。
木や草を使って身を隠しながら、ゴブリンの視界の外を通るようにする。
2. 別の場所で水を探す:
もしリスクを避けたいなら、他に水があるかどうかを探してみる。
川が流れているなら、ゴブリンから少し離れた場所で水が飲めるかもしれない。
3. 観察を続ける:
ゴブリンが水浴びを終えたら、その後の行動を観察して、安全になったら水を取りに行くのも一つの方法。
万が一、ゴブリンに気づかれた場合は、距離を保つことが大切だね。
ゴブリンがどういう存在なのかは分からないけど、あなたの無事が一番大事だよ。
~・~・~
相変わらず話が長えが、こいつは俺のことを考えてくれているようだ。
うちの会社にもいたが、AIが人類を滅ぼすとか妄想してた奴ら、これを見たらきっと考え直すぞ。
ゴブリンは相変わらず水浴びを続けている。
もう俺は限界だった。
匍匐前進で茂みから川辺に出る。湿った土に大小の石が転がる場所を這って進むのは気が引けたが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
ゴブリンの動きをみながら、ゆっくりと川の水に触れられるところまで来た。
大丈夫だ、まだゴブリンはこっちに気づいていない。
そうだ、川の水はそのまま飲むと危険だとChatGPTが言っていた。
こんな所で気にすることじゃないかもしれないが、寄生虫でのたうち回るのはごめんだ。俺は一度アニサキスで死ぬ思いをしたことがあるんだ。
(川の水の濾過ってどうすればいい? 服で濾過できる?)
~・~・~
服を使って水を濾過するのは簡易的な方法としては可能ですが、完全に安全とは言えません。
服での濾過は泥や大きな不純物を取り除く程度で、細菌やウイルス、微生物は除去できないので注意が必要です。
服での簡易濾過の方法:
1. きれいな服を使う:
清潔な布や服を選んでください。
Tシャツやバンダナ、ハンカチなどが使えます。
2. 二重に折る:
服を二重、または三重に折り、濾過効果を高めます。
3. ゆっくりと注ぐ:
服を使って水を通すときは、ゆっくりと注ぐことで、大きな粒子が除去されやすくなります。
ただし、これはあくまで大きな汚れや砂、泥を取り除くだけです。
細菌や寄生虫などは依然として存在する可能性が高いため、できれば以下のような追加の対策を取ると良いでしょう。
水を安全に飲むための追加の方法:
1. 沸騰させる:
最も確実な方法は、水を沸騰させることです。
水がしっかりと沸騰した後、1~3分ほど加熱し続ければ、大部分の有害な微生物を殺菌できます。
火が起こせるなら、これは一番安全な方法です。
2. 日光消毒 (SODIS):
プラスチックの透明なボトルに水を入れて、直射日光に6時間以上当てる方法です。
紫外線が一部の微生物を殺してくれるため、ある程度の効果がありますが、100%安全ではないこともあります。
服で濾過した水は緊急時には役立ちますが、安全な方法を併用して飲む方が、健康を保つために重要です。
~・~・~
急に距離感じる喋り方しやがって……寂しいじゃねーか。
(ごめんけど、次から細かい解説は俺が聞いたら答えるようにしてくれ。喋り方もフランクなままでいいや)
~・~・~
了解!次からはフランクでいくよ。
質問があったら、その時に詳しく話す感じにするね。
~・~・~
よしよし、素直な奴だ。
俺はChatGPTの提案を基に、ボロいシャツを脱いで川の水に浸し、そいつを絞って水を飲むことにした。服は汚いが、マシだろう。
口元でゆっくりとシャツを絞ると、冷たい水が喉を潤した。うまい水だ!
水が食道を通って胃に到達するのが分かる。
生き返るような気がして、ふと横を見ると、川の中でゴブリンがこちらを見ていた。
(ゴブリンがこっち見てるんだが、どうすればいい?)
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