第62話
その瞬間、体が宙に浮いた。
「ヒャアッッ」
王子の首をしがみつく。
変化した抱き方。
お姫様抱っこに変わった。
カシャーカシャーカシャー!!!
数秒差で鳴ったシャッター音。
「彼女を労ってお姫様抱っこでホテルへ到着。11:37」
メモメモと書き綴る一人の女。
その隣でカメラ越しにこちらを見る男。
レストラン前で出会った変なアベック。新聞部。
「千亜稀様がどうかされたんですか?」
記者になりきっているようで持ってもいないマイクを王子の口元に近づける。
「乗り物酔いのようで」
にこやかにそのマイクに返事をする。
さっきまで「つわり」とか言ってた人はどこに消えたか…。
心の中で「何だよ、その手」とか思ってると推測される。
白い塗装、半円を描くように緩やかな曲線をした30階建てくらいの高層ホテル。
正面は全てガラス張りで階毎に生徒たちが左右に動いている。
廊下がガラス張りになっているらしい。
ホテルの玄関に着いて他の人に見られる前に王子から離れる。
「新聞部に見られてんだからそれは無理だろ」
ふてぶてしい態度の似合わない、笑顔の表王子。
言葉とのギャップにさすがのあたしも驚いた。
「俺こっちだから」
エレベーターを境に左が女の子たちの部屋。
右が男の子たちの部屋。
同じ階にいちゃ分けてる意味もあんまりない気がするけど、エレベーターの前が先生達の部屋らしく、監視は厳しいらしい。
(それなら寮のあのくじ引き、反対してよ~…)
王子の背中を見送って、あたしは『2037号室』のドアを開けた。
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