貞操逆転世界の女子が必死すぎて蛙化現象不可避

下垣

第1話 女子に揉まれて

 俺は不治の病にかかっていた。その病は俺の体を蝕んでいき、今の俺は死にそうになっていた。


 俺は生涯で3人の女性と付き合った。その全員、俺から告白をしている。


 告白してフラれた回数はその10倍以上。俺はかなり必死に行動して、女子にモテるために自分を磨いてそうしてやっと付き合えて……そんな人生に疲れていた。


 一方で俺が今まで付き合った彼女たちは告白した回数は0だと言っている。これは完全なる不公平ではないか。どこが男女平等なんだよと俺はそう思った。


 もし、来世があるとするならば、次は俺は告白されやすい人生を送ってみたい。そう願い、俺は意識が薄れていき死亡した。



 勝った! 俺は転生ガチャに勝った! 俺が新たに生まれたこの世界。ここは男と女の貞操観念が逆の貞操逆転世界だった!


 前世の記憶を強く引き継いだ俺。なにもしなくても女子にモテるような生活を送れると思うとワクワクしてきた。


 俺は女子にモテるために、今年度より男女共学になる元女子高に入ることにした。入学した男子はなんと俺1人!


 この貞操逆転世界。元女子高に男子が入るなんてそれはもう入れ食いだろ! さあ、女子たちよ。外来種である男子の俺を釣るが良い!


 そう意気込んで俺は教室に入った。しかし、そこでは俺の予想外の光景が広がっていた。


「きゃー! 麗美れみ様と一緒のクラスになれるなんて光栄です!」


 女子たちが1人の女子に向かってきゃっきゃと群がっている。その女子の容姿は爽やか系のボーイッシュで、男子の俺からみてもイケメンであるほどだった。身長も俺より少し低いくらいで、女子の中では高い方だ。


「まあまあ。落ち着いてくれよ。座れないじゃないか」


 麗美と呼ばれた女子は困っているような雰囲気を出しながらも、まんざらではない様子を醸しだしている。


 これはいわゆる王子様系の女子であろうか。貞操逆転前の世界でも女子にモテるタイプであったが、貞操逆転世界でも女子にモテるタイプの女子ってことか。


 こういう光景を見るとなんか自分が恥ずかしくなってきたな。貞操逆転世界で元女子高に入ればモテると思っていたのに、普通に女子がモテてるとか。


 自意識過剰というか……まあいいや。黙って自分の席につこうか。


 そう思って教室を歩いていると1人の女子と目があった。


「え……あ、ああぁああ! だ、男子だ!」


 その女子がそう言った瞬間に、教室中がざわついて一斉に俺に視線が注がれた。


「え? え?」


 俺はいきなり自分に向けられた視線に最初はなにが起きたか理解できなかった。しかし、次の瞬間、さっきまで麗美と呼ばれていた女子の取り巻きたちが一斉にこちらにやってきた。


「わー、本当に男子だ!」


「ねえねえ、君? 名前は?」


 女子たち好奇な目で俺を見ている。な、なんだ。やっぱり貞操逆転世界の男子ってモテんじゃねえか!


 これはテンション上がってきたぞ。とりあえず名前を訊かれたから答えてみるか。


「俺は猪瀬いのせ 星司せいじ。よろしく」


 俺が自己紹介すると女子たちがわーきゃーと騒ぎだした。


「ねえ。猪瀬君、どこの中学出身なの?」


「好きな食べ物とかある?」


「まだ彼女とかいないよね?」


 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。質問を全てさばききるのは不可能で困ってしまう。


「ねえ兄弟とかいるの?」


「私年上がタイプなんだ。お兄さんとかいない?」


 俺がたじろいでいる間にも女子たちは次々に質問をぶつけてくる。ここまで来ると恐怖である。


 そんな時だった。さっきまでみんなの注目を集めていた麗美さんがつかつかと俺の前にやってきたのだった。


「みんな。猪瀬君が困っているじゃないか。後で自己紹介の時間は取ってくれるだろう。その時にでも彼に自己紹介してもらえばいいじゃないか」


 女子たちに向かって爽やかなスマイルを決める麗美さん。なんだか普通にかっこいい。


「そうだね。ちょっといきなり話しかけてびっくりさせちゃったみたい」


「うんうん。ごめんね猪瀬君」


 麗美さんの鶴の一声で女子たちは解散していった。正直ちょっと怖かったところはある。


 こんな風に大勢の女子に迫られると嬉しさよりも恐怖の方が勝ってしまう。貞操逆転世界あるあるの事象なのだろうか。


 いや、俺も高校までは普通にこの世界で暮らしてこれた。この元女子高で男子1人だけという状況が特殊すぎるだけなんだ。


 なんというか、これが元の世界の女子が男子に恐怖する瞬間なのだろうかと一瞬思ってしまう。


 モテすぎるというのも辛いものだなと感じる。元の世界にいた時には絶対に思わない悩みだな。これは。


「ふふ。君は朝から人気のようだね、まあ、この学校に男子が入るなんてみんな思ってなかったからね」


 麗美さんは理解あるような感じを醸し出して俺に話しかけてきた。それで俺の中でこの子の警戒心だけが妙に解けてしまう。


「私は黒沢 麗美。よろしく」


「あ、はい。よろしく」


 麗美さんはそこだけ自己紹介をすると自分の席へと戻っていった。俺も自分の席に座らないと。


 席順は窓側の席から出席番号順に1番から配置されている。


 幸いにして俺は出席番号が1番だ。このクラスに「あ」から始まる苗字の人はいなかった。こうして俺は角っこの席を獲得することができた。


 正直あのテンションで女子たちに囲まれるのはちょっと怖いので、角っこの方がありがたい。物理的に囲まれる人数が減るのは気持ち的に楽である。


 リバーシでも角を取ると強いと言われているし、やはり角は最強だ。絶対に取られることはないからな。


 そうこうしている内に先生がやってきた。先生は栗色の髪の毛のおさげの髪型で、結構若い先生だった。後、おっぱいがでかい。


 元の世界だと女性の胸をじろじろと見るのはマナー違反だけど、この貞操逆転世界ではそれはとがめられることは少ない。というよりかは、女子の胸をじろじろと見るような男子もいないので、女子は視線に対して鈍感気味になっている。


「はい。みんな。初めまして。私はこのクラスの担任の望月もちづき こずえと言います。よろしくお願いします」


 おっぱいがでかくて若くてそこそこな美人。元の世界だったら男子が興奮してはしゃぎだす案件ではある。


 しかし、ここは貞操逆転世界の女子クラス。そんなことは全くと言っていいほど価値はなかった。俺以外には。


 先生の話を聞くフリをして、ずっとおっぱい見ていよう。まさか大人の女性も年頃の男子高校生に胸を見られるなんて夢にも思わない。


 この貞操逆転世界では胸をいくら見たところで、バレやしないし、仮にバレたとしても訴えられることもない。


 大抵は自意識過剰で片づけられる案件である。


 先生がこの高校についてガイダンスをしたら、自己紹介の時間になった。


「じゃあ、出席番号1番の猪瀬君から」


「あー。猪瀬 星司です。よろしくお願いします。出身中学は西朝日昇中学です。好きな食べ物はてんぷらです」


 適当にさっき女子たちに訊かれたことを答える。彼女の有無に関しては……答える必要もないか。


「以上です、ありがとうございました」


 他の生徒から拍手のパチパチとした音が聞こえる。俺は自己紹介をやりきった。


「はい。猪瀬君ありがとうございました。次は出席番号2番。江川さん」


「はい。私は江川 美香です。趣味は――」


 こうして女子たちが次々に自己紹介していった。俺は先に終わらせたからかなり気が楽である。


 しかし、最後の方の人は自己紹介のプレッシャーに押しつぶされそうになっているんだろうなと勝手に予想した。


 そうしてなんだかんだで最後の渡辺さんまで自己紹介が終わった。


「はい、今から休み時間ですね」


 まだ学級委員不在なので先生の指示で号令を行い、そして休み時間になった。


 休み時間になると女子が一斉に俺のところにやってきた。ええ、流石にこのモテ具合は予想外というか逆転の範疇を超えているだろ。


 結局、俺は放課後まで女子に揉みくちゃにされるハメになってしまった。貞操逆転世界の女子。ここまで必死とは予想外だった。

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