第26話「島田君、キミはいつもコソコソ着替えてるな」
この世界の女子は、ブラを見られても恥ずかしくない。
その話はもう聞いたって?
良いから黙って聞いててくれ。
なぜなら、貞操逆転した世界では、女性は胸を見られても恥ずかしくないから。
逆を言うと、男性は胸を見られるのが恥ずかしい。恥ずかしいので隠す。
隠すにはどうするか?
そう、ブラだ。
とはいえ、ブラを身に着ける男はあまりいない。ジェンダーやLGBTがどうとかではなく、単純にブカブカで隙間から乳首が見えてしまうからだ。
では、ブラじゃなければ何を付けるのか?
ニップレスだ。分かりやすく言うと、乳首に貼るシールみたいなものだな。
ちなみに男子のニップレス装着率は、俺を除けばほぼ100%だ。
その証拠に、体育の授業のために着替えているのだが、俺の周りは様々な形をして、色取り取りのニップレスを貼った男だらけだ。
「そのニップレス、例の新作じゃない!?」
「俺並んだけど買えなかったのに、良いなぁ」
着替えの最中、ニップレスの話題で盛り上がる男子たち。
俺は出来る限りその様子を見ないように、更衣室の隅でコソコソと着替える。そんな話題には入りたくないし、振られたくないので。
幸いなことに、クラスで浮いているおかげで、俺に声をかけて来る奴はいない。いや、今まで居なかったと言うべきか。
「島田君、キミはいつもコソコソ着替えてるな」
最近仲良くなった小鳥遊君。
彼は俺に話しかける。上着を脱ぎ、素肌にニップレス姿で。
「いや、別に何でもないよ」
「何でもないのに、コソコソしてるのか……んっ……!?」
驚いた表情で、小鳥遊君がメガネを何度もクイクイさせながら顔を近づけてくる。
「島田君、ニップレス着けてないのかい!?」
思わず驚きの声を上げる小鳥遊君。
彼の声に反応し、更衣室に居る男子が振り返り俺を見る。
「おい小鳥遊。声デカいって!!」
「女子に聞こえたらどうするんだよ!!」
「す、すまない」
眉を下げ、申し訳なさそうな顔をして、小鳥遊君が俺に謝ってくる。声のトーンを幾分か落として。
そして、更に声のトーンを落とし、ヒソヒソ声で俺に話しかけてくる。
「もしかしてニップレス忘れたのか? それなら僕のを貸すが」
「いや、大丈夫だよ……普段から着けてないし」
「ええぇ!? 島田君、普段からノーニップレスだったのかい!?」
「ウッソだろ!? 島田普段からニップレス着けてないとか、ヘンタイかよ!?」
俺の言葉に、男子たちが驚きの声を上げる。もはや声のトーンを気にする奴はいない。
ってか、ヘンタイってなんだよ!!
クソ。言い返したいのは山々だが、ここは貞操が逆転した世界。
世間一般ではニップレスを貼ったこいつらが普通で、ニップレスを貼ってない俺がヘンタイになってしまうのは致し方がない。
なので、遠回しに付けたくないと説明しよう。
「いやぁ、その。なんか貼るのが恥ずかしくてさ」
「いやいや、ノーニップレスの方が恥ずかしいだろ!?」
恥ずかしいから付けたくないと遠回しに言ってみるが、小鳥遊君は首を横に振り「それはない」と言って、聞いてくれない。
前の世界基準で考えれば、ノーブラの女子が「ブラジャー着けるの恥ずかしい」と言ってるようなものか。うーん。なんと言えば誤魔化せるだろうか。
そんな風に考えていたら、意外にも他の男子からフォローが飛んできた。
「そういや、小学校の時とかに恥ずかしいから付けたくないって言うやつ、一人はいたよな」
「あー、確かに。初めて着けるのって、周りにからかわれそうで俺も高学年になるまで付けてなかったわ」
おっ、これは「じゃあ仕方ないか」ってムードか?
「俺、今まで島田の事、ビッチか何かと思ってたけどさ、こう聞くとアレだよな」
「なんていうか、恥じらいって言うか、貞操観念ってやつ? それが小学生のまま成長しちゃったって感じなんだろうな」
そう言って、野郎どもが自愛の目つきで俺を見てくる。こっち見んな。
マジで嫌な予感しかしないので、さっさと着替えて出て行こう。そうしよう。
よし、さっさと体操服に着替えて、さっさと出るぞ。
「島田君。ニップレスの予備があるから、僕が使い方をレクチャーしてあげよう」
さっさと着替えて逃げ出そうとした矢先に、着替える手を小鳥遊君にガシッと掴まれた。
どこから取り出したのか彼が身に着けている物と同じ、丸いニップレスを片手に、薄ら笑いを浮かべて。
「待った。小鳥遊のニップレス丸い無地とかおじいちゃんかよ。島田、そんなのよりも、こっちのが良いだろ?」
「初めてなんだから、あまり派手過ぎるのは良くないだろ。俺の予備をやるよ」
俺の乳首は着せ替え人形じゃねぇぞ!
誰だよ「素晴らしいね。貞操逆転した世界」とか言った奴は。
もし「貞操逆転世界に行きたい」なんて言うやつが居たら、乳首がヒリヒリするまでニップレス着け外ししてやるからな!
はぁ……色んなニップレスを試されたせいで、乳首がヒリヒリする。
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