母の元へと向かう旅
旅立ち
ガタンゴトンと思っていた以上に揺れる馬車に私は乗っていた。森に沿って進んでいるので過ぎていく光景はずっと似たようなものが続いていて、リュークはとっくき飽きてしまってくうくうと眠っている。丸くなっていて無害そうな見た目なので、私以外の乗客からつんつんと触られている。
馬車に揺られてからまだ半日も経っていない。セスティームの町が遠ざかって小さくなっていく光景は脳裏にはっきりと残っている。
寂しいなあ。
今年十一歳となったことから、あの町で過ごしたのは約三年だ。スノエおばあちゃんの弟子や冒険者、公爵様の部下のようなことをやっていたので、三年は短かったという気持ちが大きい。
それでも「また戻ってきてね」と言ってくれる人がいるから。私の居場所がそこにあるって感じられるから、そこにいたいと思う。
だからこそセスティームの町を離れる決意をしたものの、寂しいと感じてしまう。
*
母から手紙を貰った。スノエおばあちゃんの信頼出来る商人の経由で届けられたものらしい。場所はウォーデン王国からだ。魔族の味方をする母なので、敵地である。
内容は母は無事であること。ウォーデン王国と魔国との間には戦争が起こっていた。遠く離れたセスティームの町でも伝わっていたことである。
その戦争は一先ず終了したということ。一先ず、である。
魔国側が勝利したが、圧倒的なものではない。余力が残った状態での終戦である。相手国側で、不穏な動きがあるということで帰ることができない。そんな母の生存が確認出来た手紙ではあるが、期待した内容ではない手紙であった。
「……いつになったら帰ってくるんだろう」
「クレアが旅に出る方が速いだろうさ」
私の呟きをスノエおばあちゃんが親切に教えた。
広い世界を見る夢を叶えるために旅に出る。Cランク冒険者になったことから、おばあちゃんからの許可は出ている。だが私の希望としては、母に見守られての出発か共に旅に出たいものである。
夢が現実にできることから、最近考えていたものだ。母が遠い地で今まで一切連絡がなかったことから、理想ではあったが。理想は理想で終わりそうである。
ならば。私は母に宣言したことを実行してしまおう。
帰ってくるのが遅かったら迎えに行くと過去に私は言った。
私は待った。待っている間、母を忘れた日はない。楽しい日なら、母がいたらもっと楽しいのだろうと。つらい日なら、こんなときに母がいたらと。
前世で知らなかった家族愛をくれたのは母だ。そんな母がいない日々をここまで過ごせた。
自分で自分を褒めたい。リュークがいてくれたからできたことであるが。
そのことを契約の繋がりで伝わり、褒めてと尻尾をパタパタとしているリュークの頭を撫でる。そして私はおばあちゃんの名前を呼び、向き直る。
「行くのかい?」
「うん」
迷いなく返すと「そうかい」とだけ言って目を瞑った。
「頑固なところはメリンダと似ているねえ」
母と似ているところは少ない。 料理下手なことぐらいしか言われてこなかったために、脳内メモに書いておいた。もっと増えてほしいな。
「ガウー?」
「うん、そうだよ。旅に出る。目的地は母の元まで」
覚悟は決まりきっている。勝手に決めたことを謝り、全然いいよワクワクしてきたと心でやり取りをする。
こうして、私とリュークが旅に出ることが決まった。
準備には三日かかった。
日持ちするものを買ったり、食料に保存の魔法をかけたりした。耳飾りの魔道具を作った後も、裾を直して何回も着ていた闇の魔法陣が描かれたローブを置いていくことを、暫くかけて決めたりした。
簡単な薬の調合ができる道具のセットや友達からの贈り物によって、増えていく荷物を厳選したりなど。薬屋で働きながらなので、日にちはかかったがゆったりと準備出来た。
他にも森の中にある家に水の魔道具があることを思い出して、取りに行った。水属性の魔力を込めなければならないが、便利なものだ。公爵様対策で念の為にと、結界が誰にも侵入出来ない頑固なものになっていたことには驚いたが。
出発の日。
普段なら閑散とした早朝は、賑わっているところがあった。多くの人が見送りに来てくれたのである。
人手不足であった薬屋は、エリスの弟ともう一人がおばあちゃんの弟子となって解消されている。二人とも弟子になって一年目だが、片方は薬に通じていた人なので即戦力であった。
私がいなくても回っていける状態になったことが、旅に出る後押しとなった一つである。
「薬屋のことは心配せずに、行って来い」
応援してくれるニト先輩だが、最近になってようやくエリスを意識し始めている。エリスは随分と大人っぽくなったからだ。
「進展したら手紙で知らせるね」とるんるんにエリスは言うので、かなり良い状態になっているのではないか。定期的に手紙を送ることを約束し、エリスから別れの魔法をもらった。 きらきらと光の輝きが私に降り注ぐ。目を丸くしていると「練習したんだよ」と得意気そうだった。
「メリンダに宜しく言っておいてね」「怪我しないようにな」「楽しんで来てね」「頑張りすぎないようになー」「疲れたらいつでも帰ってくるんだよ」「そのときはお土産よろしく」「あ、俺も俺も」「私にも!」
ミーアさんやネオサスさん、ネネやイオの友達から多くの言葉を送られながら、私とリュークは旅立った。
べリュスヌースからも、馬車で街を出て森の横を走っていると念話で送られた。
他の乗客人には聞こえない言葉で私とリュークが反応したので、変な目で見られることにはなった。
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