試した者達 ※別視点
監視対象の少女から、直接先程起こったことについて「大丈夫だった?」と聞いた。
「言い争うだけで暴力を振るうことはなかったので、大丈夫でしたよ。最後は私の言葉を聞いて下さいましたし」
風魔法で音を拾って話を聞いたことがあるが、話すのは今回始めてだ。知っていたことだが、性格に難はない。むしろ良い。見た目通りの子どもとは思えない、礼儀正しい少女である。立っている姿は綺麗であり、冒険者の母親をもつと聞いているがどこかの令嬢と言われても納得のいくものである。
不自然にならないよう、薬を購入して店を出た。少女の監視はもう一人の監視者である男に任せ、合流場所に向かう。いたのは、薬屋で言い争いをしていた冒険者の格好をした者達である。公爵様の元で共に忠誠を誓う仲間でもある。
「危うく剣を抜いてしまいそうになった」
「ああ、俺も。ゾッとするような威圧だったな」
気軽に言っているが、店から出てきたときに冷や汗をかいていたのを知っている。少女は威圧について何も言わなかったが、魔物相手と同じ感覚で行ったのだろうと推測する。
森での魔物との戦闘でたまに見かけるが、人間相手にそれは酷だっただろうと思った。
「体に負担はない?」
「最近厳しい隊長に鍛えてもらっているからな」
「隊長、太古の龍の魔力に当てられて気絶したのが悔しかったらしくてな。魔力の威圧に耐えるのを訓練に入れるようになったんだ」
なぜ隊長が関係するのか疑問に思ったのを、説明してくれた。最近、監視ばかりなことと、魔法使いと剣士の訓練内容は違うから知らなかった。
「終わったようだな」
合流場所からは、薬屋の店主のスノエさんを引き留めていた公爵様が見えていた。公爵様が朗らかな表情なのに対し、スノエさんが厳しい表情をしているのが対照的である。
終わったというは、両者の会話が終わったことだ。スノエさんはその場を去り、公爵様はそれを見送っている。
「ワットスキバー様」
「ああ、君達か。ご苦労だったな」
公爵様の名前を申すと、ねぎらいの言葉を頂いた。「場所を変えて話を聞く」ということで、私達の報告は移動してからだった。
「それで結果はどうだった?」
その言葉で、私達は一人一人報告する。公爵様は様々な人の視点から意見を聞いて判断するからだ。
私達は公爵様の命の元、薬屋で一つ芝居をすることとなった。少女がどう行動するのかを試したのだ。
ここ何ヶ月かスノエさんが営む薬屋から買っている回復薬や薬に異常はなかったことから、弟子という立場で害を及ぼすということはなかった。そのため懸念事項である、少女の魔力が暴走しないかを見ることが目的である。
少女が隠す顔を確認することもあった。速く冷静に争いを止めたこと、客のおじいさんに怪我をしてはいけないことでできなかったが。できたら、のことだったので問題はなかったが。
だが、始める前は慌てたものである。私は少女の監視をしているが大抵は家に閉じこもってばかりなので姿を見ることはあまりない。その暇である時間に少女を試す計画を立てていると、弟子二人が喧嘩をしたようで家から出てきた。そしてスノエさんが品物を納品するために出かける。
計らずも少女が一人になったという状況を急遽利用したのだ。元々スノエさんと話をする約束をしていたという公爵様が薬屋の近くにいらっしゃり状況を話すと、「じゃあ、スノエさんを引き留めて時間を稼ぐよ」と自ら進んで請け負って下さった。
「よほどその少女は魔力を扱うのに優れているんだな。なあネオサス?」
「……そうですね。クレディアは幼いころから魔力操作の訓練していたと聞いています」
公爵様の護衛をしていた男は話を振られて、そう答える。きっとその言葉は公爵様に以前にも言ったことがあるものだろう。その話を私は聞いたことがあった。
公爵様から笑顔の圧力をかけられているネオサスは顔色が悪かった。監視対象のことで重要なことは話さないものだから、自業自得である。さっさと話しておけば、公爵様のお手を煩わせることにはならなかったのに。それでいて剣の腕前は優秀だというのだから、困りものである。
「スノエもネオサスも、そしてミーアも。皆揃いも揃って口を閉ざす。そこまで私が信用ならないということなのか、あの子の母親の信頼が厚いのか。あの子を守りたいがためなのか」
「どれなんだろうねえ」と言いながらネオサスを見る公爵様は少し、いやだいぶ楽しそうであられた。
「まあ、少女は魔力操作が出来ることが確認できたからいいとする。……感情が高ぶればどうなるかは分からないが」
そこまで感情を高ぶらせることが出来なかったことは、私達の実力不足である。
気を落とすと、「無茶な命令をしたのは私だから、気にしなくていい。これからも監視を頼むよ」と言い残されて、公爵様は仕事のため公爵家へと帰られた。
*
女性のお客さんが帰り、その後は新しくお客さんは来ることはなかった。
おじいさんとお茶を飲みながら、まったりと店番をしていると速い歩きでスノエおばあちゃんが帰ってきて、早々に深い溜息をつかれた。
「……一応聞くが何か問題はなかったかい?」
私の店番を心配していたらしい。確かに私は半魔だってバレないようにと接客は今までやったことはなかった。だが、薬の販売の接客はそう難しいことではない。注文され、棚から薬を取り出すだけである。
おじいさんのように「いつもの処方されているもの」と言われると、こうしておばあちゃんの帰りを待ってもらうことになったが、それ以外は私一人でできた。話好きのお客さんが来て厄介なことになったが、ちゃんと対処することができた。
だから私は誇らしげに、問題はなかったこと、店番ぐらい簡単だと伝えると、また溜息をつかれることとなった。
疲れているのかと私は心配する暇もなく、おばあちゃんは座って待ってもらっていたおじいさんにテキパキと薬を出した。おじいさんが店を出ていった後、「本当に何も問題はなかったのかい?」と聞かれる。
「うん。ちょっとお客さんが喧嘩してたぐらいだよ」
「それが問題というんだ」
確かに問題と言えるが、普段から起こっていることではないのだろうか。効力が高いので回復薬を求めて冒険者はよくおばあちゃんの店に来る。それで仲の悪い冒険者と冒険者が店でかち合うと喧嘩をするのだとエリスから聞いていた。
「そんなの、たまにしか起こらないだろう」
「でも店側からよくスノエおばあちゃんの怒鳴り声、聞こえるよ」
「それは生活習慣が悪い客に説教しているんだ」
「そうなんだ」
おばあちゃんは面倒見がいいからなと考えていると、今日は何度も聞いたカラランという音がした。お客さんかと思って見ると、ニト先輩とエリスであった。
「どこいってんだい! この馬鹿弟子共が」
「すいません」「ごめんなさい」と言葉は違うが揃って謝った。二人共、しょんぼりとしているが、重苦しい空気は見られない。仲直りしたようであった。
ニト先輩がどうやって、エリスに謝ったのかとても気になるところだ。あの薬のことを話したのだろうか。
「クレア、ごめんね。迷惑かけちゃった」
「ううん。短時間だったから、大丈夫。それよりもエリス、泣いた跡が残ってる」
私は目元へと手のひらを向けて、魔法を発動させる。傷や病気を治したりするのには水や光属性の魔法の方がいいのだが、無属性でも体の活動を活性化させる方法で出来る。無属性は効果や時間は劣ってしまうが、目の腫れ程度なら問題はない。
「ありがとう。私が魔法で治せれたらいいんだけど……」
エリスは水属性の魔法を使えるが、水を生み出すことや操作することまでの段階だ。魔力の量から一日に練習できる回数は限られているので、ゆっくり上達していけばいいと思う。
話を変えて「どうやって仲直りした?」と詳しく、こっそり聞いてみた。そうすると顔を真っ赤にしたので、ニト先輩は話したんだと察した。
エリスは純粋だとしみじみと感じていると、おばあちゃんは私に話があるようで接客の方をニト先輩とエリスに任せた。そして私を部屋にと引っ張っていく。
途中、暇にしていたリューが向かってきたのだけれど、おばあちゃんが見事に撃退していた。二人だけで話をしたいためらしい。
「結果はあとどのくらいで出るかい」
リューに聞かせられない話をするというのに心当たりがないまま部屋に入ると、おばあちゃんは早々に話を切り出した。結果というのは、魔法陣の研究のことを言っているのだと思う。
「あと一ヶ月……と半月かな。闇魔法で色は変える手前まで出来ているけど、魔法が発動しているのを隠すのと魔道具にするのにだいたいそのぐらい。どこかで詰まると、もっとかかるかもしれないけど」
「そうかい。なら今日から時間をあげるから、急いで魔道具にするまで完成させな」
「いいの?」
今までは夜にしかできなかったから、研究が一気に進むだろう。遅々とした進度だったので、とてもありがたいことだ。
だが、薬屋の方はいいのだろうか。私が抜けたら、また以前のような人手不足になってしまうだろう。そう伝えると、「このままだと強攻手段をされてしまいそうだからね」と返ってきた。
「誰に?」
「公爵のワットスキバー様にさ」
「……私が半魔だってバレたの?」
「いいや。だが、どこぞの令嬢やら亜人だとは疑われてはいる」
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