魔法陣の解析
小さな火を灯す蝋燭が部屋の机を控えめながらにも照らしていた。それを元に紙にとある魔法陣を写す。闇属性の魔法が施されているローブのだ。歪みなく、丁寧に、書き忘れのないように。
私はこのローブを頼りすぎていた。もっと半魔だと一目見て分かる紫の特徴を、隠す努力をしなければいけないと思った。
だからこの魔法陣を解析することにした。私は他の属性が中級魔法まで発動出来るにも関わらず、闇魔法はただ影を動かすということしか出来ない。
他の属性は母の教えや本があったからできたが、闇魔法は情報がなにもないまま手探りでやっていくしかなかった。相反する光魔法の情報があればよかったが、闇魔法と同様に希少だ。
私は魔法に関することはこのままだと限界を感じていた。無詠唱までできるようになったが、それ以上は無駄な魔力を減らすことぐらいしか出来なかった。
だからローブに刺繍してあった魔法陣を見て、今以上の力をつけるために研究したいと思った。ただ暇な森での生活では、研究は趣味になりつつあったこともあったが。
直ぐにしなかったのは、時間ができたら研究をしようと思っていたからだ。
まずは生活に慣れてから。でもそれは悠長すぎていたようだと、今日の出来事ことで感じた。そのため私が闇魔法を自身で使えるようになって、ローブがなくても紫の色を隠せたらと考えた。
勿論魔法以外でどうにかしようとは考えた。私は髪が長いので短く切る。かつらを被る。髪を染める。カラーコンタクトをする。
これらは森にいたときに検討したことだ。見知らぬ世界を見てみたいという夢の元、母から半魔の話をしてどうすればいいと相談したのだが、全部駄目だと言われた。
母は私に髪をのばしてほしいらしく却下され、かつらはこの地域は強い風が時々吹くし不自然だからと。染めるのは髪が痛む、紫の色は綺麗だからと褒められ止めさせられ。カラーコンタクトはなにそれと聞き返された。
バレたら最悪自分の命がかかることだからそんなこと言っている場合ではないと思うが、母はローブを用意してくれたのだからそんなことする必要はないのだとだから言ったのだと、後からスノエおばあちゃんにローブを渡された私は今になって気付いた。
そういうことで、このままローブを着ることを忘れずフードも風などで外れないように気を付けるだけでなく、魔法陣から闇魔法に関することを知れたらと思い、思い立ったら直ぐ行動ということでやっている。
今ようやく魔法陣を紙に写し終えた。文字や記号の配置、効果、大きさ、などなど。
「うん、なるほど…………全く理解出来ない」
魔法陣という言葉の意味は知っているが、知識はない。森の中にある家で使っていた水や火が出る魔道具に描かれていたから、見たことはあった。
だが、闇魔法をどうにかしてものにしようとその方向ばかりに向かっていたため、魔法陣は興味があったが後回しにしていた。
「……どうしよう」
本当に、どうしよう。夕方まで寝ていたから、眠気はない。
なので紙に描いた魔法陣の効力を見ることにした。魔法陣の上に側にあった物を置いて魔力を込める。何も変化は起こらなかった。
どうしてだろうとローブにある魔法陣と比べて描き忘れがないか見るが、そんなことはない。
うーんと唸ってよく考えると、魔法陣は魔力が込められるもので描かないといけないのではと推測した。
私はただのインクで描いたからいけなかったのだろう。魔力が通る特殊なインクというものがあるらしいので、効力を見るのはまた今度にすることにした。
未だ私は自分の目で見たことはないのだ。
フードのところに適当に物を入れて外から私は見てみたのだが、人間の顔の部分でないと効力は発揮しないようで普通にその物が見えた。
やはり研究とは難しいものだ。森でもやっていたが、中々捗らない。それでも楽しいと思えてしまうのは、母が言う父の魔族の血が流れているという証拠かもしれない。
だが、研究好きの変態というのは嫌だ。そんな父でも母は好きだという気持ちは伝わってきたが、変態という言葉は私には受け付けられない。
とりあえず、魔法陣の本を手に入れてある程度勉強してから研究しよう。
本は今までのように母に頼んでいたように買ってきてもらうことはできないので、冒険者になったのだから自分で稼ごう。それまではスノエおばあちゃんに薬屋薬草に関する本を貸してもらったので、それを読み込む。
机の上をガサゴソと片付けていると、夜なので寝ていたリューを起こしてしまった。
「……ゥ?」
「ごめんね、まだ寝ていていいよ」
言い終わった直後に、上げていた頭がぽすんと寝る状態に戻った。
そういえばリューは今日森で不自然な魔力の流れが起こった後、どこかの方向目指しそれをエリスが追いかけて魔物に狙われたのだと思い出した。
半魔だとバレてしまったと考えてばかりいたので、すっかり忘れていた。スノエおばあちゃんに伝えていない。
明日に言わないと、と頭に書きこむ。
魔力がどうこうは伝えてもよく分からないと言われるかもしれないが、リューのことに関しては親の龍と仲がいいらしいので聞いてみると何か分かるかもしれない。
なんだか弟子やら家の手伝いやらもあるのにやることいっぱいだと小さく苦笑して、私は本を手に取り内容を読み始めた。
*
次の日になると忙しくて、スノエおばあちゃんに森で起こった魔力の流れのことやリューのことを言うことはなかなか難しかった。
薬草の加工でずっとバタバタしていたのだ。採取してすぐにやらなければならないものはおばあちゃんやニト先輩が昨日やってくれていたが、なにせ大量に薬草はあるので十分の一が終わっているだけだ。
昨日の午後にやる予定だったものが今日に回ってきていてお店側の接客もあるので、走り回っている状態だった。そんな中で弟子として私に指導してくれたので、言い出せる余裕は見ていてなかったし私も薬草の処理などに集中していたからまたすっかり忘れていた。
その忙しさは午前中でだいぶ収まったが、昨日の帰りに採取出来なかった冒険者ギルドの常時依頼分の薬草を私一人で取りにいけると判断された。私はその話をされたときにようやくおばあちゃんに伝えることができた。
「そうかい、そんなことが……」
「何か心当たりとかある?」
「魔法使いじゃあないからねぇ」
薬の調合で魔力を使うときがあるからおばあちゃんはその扱い方は心得ているが、一瞬の空気中の魔力の流れが変わったということは気付けない。
魔法使いの領分であるから予想はしていた。
「だが、心当たりはないが何か知っていそうな者はいる」
おばあちゃんは顔が広いので、そういう知り合いがいるのは不思議ではない。時間がいるということで、不自然だった魔力の流れの件はおばあちゃんに任せることにした。
何か分かったら教えてほしいと頼む。
こうして、私は薬草を採取しに出かけた。
何も言われなかったがまだ忙しそうだったので、パッと行ってパッと帰ってこよう。
「気をつけてな」と門番に見送られた。
昨日もだが、どうもこの人達は私が森に入っていかないように見張っている気がする。さくさくと鎌で薬草を採りながら私はそう考える。
ここの街の冒険者ギルドだけなのか分からないが、冒険者でなくても小さな子が採取した薬草を買い取ってくれる。
なので小遣い稼ぎとして薬草が生えている森の近くの野原にくる子どもがいて、魔物がいる森に入って危険な目に合わないように門番は見張る役目があるのだろう。
森は自分の身を守るすべをもっていないと危険なのでいいことだと思うが、そのせいで監視があってリューの存在を街の外であるここでも隠れなければならない。
リューは幼いころからの付き合いで友達みたいなものなので、今の窮屈な状態はどうにかならないものかと思った。
薬草を持ってきていた籠に入れて満タンになったので、冒険者ギルドまで持っていくことにした。籠に詰め込みすぎたのか、予想以上に重く立ったときにフラめいてしまう。
体を鍛えた方がいいと思うが、魔法の鍛錬と違いやる気はあまり出ない。母に怒られそうだと、前にも同じようなことを考えたなと思いながら、冒険者ギルドに入った。
前回はスノエおばあちゃんの後ろを歩いていたので視線が分散していたが、今回はまだ見慣れない私の姿にじろじろと見られる。
薬草を持っていることもあって私の要件は見て分かるので何も聞かれたりしないが、とてもドキドキした。
薬草の納品は受付の女性ではなく、おじさんのところだった。
「ほら、お金だ。落とさないようにしろよ」
ニカッと笑うおじさんの大きい手からお金を貰う。
採取が簡単で沢山生えていることから少量だったが、私が初めて稼いだお金であった。
エリスと買い物しに行ったことがありお金は初めて見たものではないが、そのお金は特別なものに見えた。
また二週間以内に冒険者の身分を剥奪されないように活動しなければいけないが、今日は要件はすんだので帰ることにした。
その際冒険者の厳つい顔した男の人から低い声をかけられて心臓がドキリとした。だが「また次も頑張るんだぞ」と腰の辺りにぶら下げていたタグを見て私が冒険者であると知ったのか、そう言われただけだった。
スノエおばあちゃんに挨拶していた冒険者もだが、私がイメージしていた冒険者と違う。
顔と言葉の内容が一致していないので違和感を抱えながらも、冒険者は皆こんな気さくな人なのかと考えた。
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