魔族の父
「そういえば、お父さんってどんな人なの?」
私が半魔なことや母が魔国へ行く理由など、話が一区切りついたとき、思い出したかのように私は問いかける。父のことよりも別のことの方が優先度が高かったので、魔族であることしか知らない。
今まで興味はあったが、母が一人で私を育てていたことや北の方角を見ながら憂いを帯びた顔でいたことから、聞くのは憚られたことも原因の一つである。
私はリューを膝の上に乗せて戯れながら、なんでもないかのように返答を待つ。内心はドキドキであった。
「そうね……。あえていうなら研究好きの変態かしら」
「え」
想像していた以上の答えで呆然とする私を、母はくすくすと笑う。相当な間抜け面だったようで、リューから顔をべしべしと叩かれた。
正気の戻った後、母は出会ったころの話を教えてくれた。
母が冒険者や傭兵でお金を稼いでいた頃。(今でもそれらしいことをして稼いではいる)母は自身を入れて五人でチームを組んで、依頼をこなしていた。それはとある魔物の討伐で、それは何事もなく安全にする事ができた。
だがその帰り道、魔物の群れと遭遇することとなった。魔物は強かった。それは個としてではなく、集団としての強さだった。
それでもそのチームは冷静に判断して対処する。だが母だけ、運悪く仲間と離れ離れとなってしまう状況になってしまった。
激しい戦闘のせいで周りの把握が出来ていなかった母は、気付いたときには見知らぬ土地にいた。合流しようとするが浅くはない怪我をしてしまったことで移動がままならない。
そんなとき、後に私の父となる男―――ゼノに出会った。
母はすぐに魔族だと分かったそうだ。
魔族は人族と魔力の質が違う。簡単に気付けることではないが、自身が危険な状況に置かれていたため感覚が鋭かったせいかわずかな違いに気付けた。
「もしかして、私も魔力の質が違ったりする?」
話の途中だったが、思わず気になったことを問いかける。これから先、半魔だということを隠していかないといけないだろうから、必要な質問だ。
「私は魔法使いではないから、はっきりとは分からないのだけど………そこまで質は違わないとは思うわ。人族と魔族が混ざり合っている感じだからかしら? でも魔力感知が相当優れてないと、魔力自体は分かっても質までは読み取れないから心配しなくてもいいわ。鋭い人でも勘違いだと誤魔化せれると思うから」
ひとまず安心だ。楽観視してはいけないと思うが、考えすぎるのは良くない。母が言い切るのだから、きっと大丈夫だろう。
自分のなかでもそう結論を出した。
話を元に戻す。
母は警戒したそうだ。魔族は人族にとって敵というのが一般常識で、その頃の母も同様だったためだからだ。
だが、父は警戒して臨戦態勢にある母を助けようとする。傷があまりにも酷く見ていられなかったこともあるが、騒ぎを引き起こしたくなかったのだ。父は魔国では手に入らない、研究に必要な材料のために来ていただけの研究バカであった。
父は手持ちの回復薬で母の傷を癒す。母は危険性がないと判断し、流れた血が多すぎたせいか倒れてしまう。父は完全に回復するまで母の様子を見ることにして、母は看病をされるうちに父に惹かれていく。
恋に自覚してからは、ごり押しだった。アピールしてアピールして、とにかくアピールしまくったらしい。
その猛烈なアピールで見事父の心をつかみ取り、色々あって現在に至る。
最後の方はだいぶ省いているが、これはあまりにも惚れ話が長すぎたせいで聞き流していたからだ。人族と魔族の種族の差も、二人の恋を舞い上がらせるだけのようだったし。
だが、なぜこうして二人が離れ離れになって暮らしているのかが気になる。うろ覚えな赤ちゃんの記憶でも父の存在はいない。これは母が不遇な環境を強いられているのではないのかと、まだ見ぬ父に怒りが湧いてくる。
研究バカと言われるぐらいなのだから、母を放って研究三昧の日々を送っているのではないのだろうか。そのことについて若干怒りを隠しきれないまま母に聞いてみると、思いもよらない答えが返ってきた。
「ああ、それは魔国の土地が魔力が多くて、半魔のクレアには毒になりえたからよ」
詳しく説明されたことによると、私に限ってではないが半魔を含む魔族は体内にある魔石を周囲の魔力を吸収することによってある程度の大きさまで形成する。素質によるが、吸収した量が多いほど魔石はより大きくなる。
私の体は魔力を吸収するのはいいが、中途半端な半魔で赤ん坊の体では魔力の多い場所に身をおくのは負担が大きかった。魔力が多すぎると体は汚染されるのだ。魔族はその耐性があるのだが、人族にはそれが備わっていない。
だが人族は体が成長すれば丈夫になって、魔力が多くても平気となっていく。ようは魔力に対する耐性が最初から備わっているか、後から獲得するかの違いだ。
だから母と父は魔国で暮らしていたのだが、私が生まれてその問題が発覚してから一度その地から離れることにしたそうだ。そうなると行き先は人族の暮らす土地となるのだが、魔族だということで危険性が補う。他にも父はどうして魔国から離れられないことが事情あったそうで共に暮らすことは出来ない。
だから私がある程度成長するまで離れて暮らすことになったのだとか。
「でもクレアには他にも問題があって、魔力が少なすぎても駄目だったのよ。魔族は体の機能を魔力で補っている部分があるらしくて、多すぎず少なすぎずの場所ではないといけなくて……」
それで思いついたのはこの森だったらしい。龍が住み着いていて魔力がそれなりにあるおかげで、私にとって丁度良い土地だったのだ。スノエおばあちゃんからとは面識があったことから、家を借りるということも出来て住む家にも困らない。
森の中で暮らすのだから多少不便はあるが、人の目がないので私が半魔だと気付かれない。至れり尽くせりの森であった。
これが私と母が森で暮らす経緯となる。
何だか無性に申し訳ない気持ちになる。離れて暮らしている原因が私のせいで、父に対する勝手な怒りも含めて。
だがそれと同時に母と父が私のことを思っていることが分かり、嬉しくなる。大切にされているんだなと感じることが出来るのだ。
「ありがとう、お母さん」
何の因果か分からないけど、母が私を生まれさせてくれたおかげでこうした暖かい感情を知ることが出来た。静菜だったときには与えられなかった大切なものをいっぱいくれた。
だから私はこうやって心からの感謝を伝えることができる。
これからはきっとつらいことがいっぱいあるだろう。泣きたくなるようなこともあるだろう。
だけど、今はこうして私と母とリューの二人と一匹で暮らせれたことに、ただただ幸せを噛み締めた。
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