妖封

船出 鳩助

第1話 血の契約書


僕は親父が嫌いだ。


オカルトライターとして、

目に見えないモノを追って、

母さんと僕を蔑ろにした。


たまに家に帰ってきたかと思えば、

旅先で出会った妖怪の話を、

僕の耳にタコが、

出来るほど聞かされた。


蔑ろにしたバチが当たったんだ。


そして俺が高3の夏の頃、

得体の知れない何者かによって、

親父は殺され、

母さんも後を追うように死んだ。


1人になった僕は、

高校卒業後この町に来て、

アパートで一人暮らしをしている。


別に苦ではないし、

今やってるバイトも悪くない。



「あの噂知ってる〜?

秘密の探偵事務所のサイト」


「それって

やばいサイトじゃないの?」


「なんかね 普通の人には

見つけられないらしいんだ〜」



「どうせデマなんでしょ?」



「でもバカには出来ないかもよ?

その探偵は普通の

探偵には解決出来ない

奇妙な事件を

解決してくれるんだって」



ここは定食屋だからなのか、

様々な情報が入ってくる。


もちろん、人だけじゃなく、

テレビからも。



「次のニュースです

吸血事件による死者は

今週になって5人目となりました

これを受けて白富高校は

臨時休校となっています」



「たくっ 気の毒になぁ

可哀想に・・・

高校の生徒だけ狙われてるな」



天丼を食べながらテレビを見る、

スーツ姿の男性が、

そう呟いた。


確かに今起こっている事件は、

異常としか思えない。

被害者は、全員全ての

血を抜かれて死ぬんだから。


でも見ているだけで何も出来ない。

早期解決を願うばかりだ。



その日の夜。

バイトを終えた僕は、

いつもの帰路に着いていた。


街灯もそんなに多くない、

ほぼ真っ暗な道を

懐中電灯の

明かりだけで歩いて行く。



「な なんだ・・・?

急に寒気が・・・」



今はましてや夏だ。

こんな急激に冷えるなんて、

ありあえない。



「な なんだあれ・・・」



自分の進行方向に、

何かが立っているのが見えた。


次の瞬間、突風が吹いて、

思わず転びそうになった。


「あれ?さっきの人がいない

突風に飛ばされたのかな?」



「こんばんは 坊や」


「えっ?」


後ろから声がして、

僕は素早く振り向く。

するとそこには、

スーツをを着た若い

女性が立っていた。



「もしかして坊や・・・見た?」



「い いえ!何も見てません!」



「いや こんな暗闇で何が見えるんだ」

そう心の中でツッコんだ。



「なら良いんだけど

夜に1人で出歩くのは

お姉さん的に関心しないわね」


「し 仕事の帰りです」


「そう・・・でも坊やは幸運ね

高校生じゃないんですもの」



「高校生」そのワードを聞いた瞬間、

背筋が一気に凍りついた。


逃げなきゃ 逃げないと殺られる。


そう感じた僕は、

一目散に走り出した。


無我夢中で走っていると、

いつの間にかアパートに着いていた。


慌ただしく

部屋に入って息を整える。



はぁ・・・ はぁ・・・

まさかアイツが犯人なのか?

でも あの人の雰囲気

アレは人間じゃなかった。

出会っただけであんな寒気がする、

人は見た事がない。


しかしだ。

被害者が5人もいて、

警察は犯人像

すら分かっていない。


ただ僕はしがない一般人。

事件の独自調査なんて、

出来るはずが・・・

いや、待てよ?



そこで思い出したのは、

昼間の噂話で聞いた探偵だった。


「奇妙な事件を解決してくれる探偵」


そもそも今回起きているのは、

奇妙というより、猟奇的だ。


駄目元で依頼してみるか。



「秘密のとか言ってたけど

案外あっさり見つかったな

別に有料だとか

会員制とかじゃないし

これの何処が秘密なんだよ」



ホームページを開くとそこには、

「瀬堂探偵事務所」の文字。


なんの変哲もない

探偵事務所のようだ。


「これが依頼のフォームか」



事件の概要を大まかに書いて送信。

すると夜の22時にも関わらず、

すぐに返信が来た。



「明日の16時頃に来て下さいか

ちょうど明日休みで良かった」



〜翌日〜


「ここがそうですよ」



「でもここ 

ただの路地裏の入口ですよ?」


「瀬堂さんの探偵事務所なら

この路地を進んだ先にあるから

ここから先は徒歩でお願いします」



「そうなんですか?

じゃあここで降ります」




タクシーに乗ってやって来たのは、

薄暗い路地裏だった。



「あっ!あった!これだ!」



扉をノックすると

ゆっくりと開き、

中から1人の

若そうな女性が出てきた。




「あ あの・・・い」



「来てくれたんだ!

さっ!入って入って!

ボサッとしてる暇ないわよ!」


「お邪魔します」



事務所の中は、

アニメやゲームに

出てくるような、

まるで絵に描いたような

内装だった。


何かのセットかと

思わせるほどの

内装に内心ワクワクだ。


まじまじと見ていると、

1人の男性に声をかけられた。



「ようこそおいで下さいました」



「あ 貴方は?」



「私は弥生様の執事の

野防 要助のぼう ようすけと申します

以後 お見知りおきを」



「し 執事?

ここって探偵事務所ですよね?」




「飲み物何かいる〜?

と言っても紅茶しか無いけど」




「あ 貴女が瀬堂さんですか?」


「瀬堂?あぁあの人なら

もう探偵はやってないよ?

というかいつまで立ってるの?

いい加減座ったら?」


「あ はい 失礼します」


そう言われて渋々

向かい合わせのソファの、

右側に座った。


「おまたせしました 紅茶です」



要助さんが紅茶を運んできた。

1つの長机に2つの紅茶が並ぶ。


「じゃあ始めましょうか!

貴方がウチの事務所に相応しいか

所長直々に見極めさせてもらうわ」



「はい?何の話ですか?

僕はただ探偵事務所さんに

依頼をしただけなんですけど」


「えっ?でもほら

ウチの事務所の求人に

君の名前が・・・

ていうかコレ書くフォーム

間違えてない?」



「じゃあ僕は依頼じゃなくて

求人の方に書いちゃったって

事になるんですか?」


「そうみたいねぇ〜

あぁ因みになんだけど

殺人事件は私の管轄外だから

そこんとこヨロシク

だから君の依頼は無効で〜す」



「そ そんなっ!

人が既に5人も

亡くなってるんですよ!?」


「そういう事件は警察に

任せておけば良いのよ」



「だから!警察だって

全然犯人を捕まえられないから

駄目元でここに来たんです!」


「駄目元で来たんなら

この結果にも納得しなさい!

そもそも君は警察でしょ!

私に頼る暇があるなら

捜査の前進に尽力しなさい!」



「いや僕警察じゃなくて

ただの一般人ですよ」



「はぁ〜じゃあなんで

勝手に事件を持ち込むかなぁ」



「貴女は探偵ですよね?

いくら管轄外と言えど

話ぐらいは聞いてくれても

良いと思いますけど?」



「あのね?私も暇じゃないの

今は別の事件の依頼受けて

そこに手を回してるから

というか私は探偵じゃない!

言うならばそう・・・

探偵モドキ」



「探偵・・・モドキ?」



「そう!私が取り扱う事案は

主に妖怪や霊絡みの依頼だけ

だから本当の探偵じゃないの」



「妖怪や霊絡み?

なら尚更この依頼

お願い出来ませんか!?

全身から血を抜いて殺す

猟奇的殺人事件なんです!」



「全身から血を抜く?

確かにそれは人間が

やれる芸当じゃないわね

ねっ!被害者の写真とかある?」



「あれ?引き受けて

くれるんですか?」


「ちょ〜と興味が湧いただけ」



「あ〜 被害者の写真なら

ほらっ!SNSに上がってます」



「こんなグロ写真

よくネットに晒せるわね

よし・・・決めた!

君の依頼引き受けるわよ!

た・だ・し!

管轄外の依頼の為

達成報酬はお高めに頂くけど」


「いくらでも払いますよ!」



「あらあら

出会ってまだ数分の相手に

意気揚々と払うなんて

言っちゃっていいの?」



「貴女の協力で命が救えたなら、

お金なんて惜しくありませんから」



「お待ち下さい弥生様!

今の依頼はどうされる

おつもりですか!」



「じゃあ今やってる

行方不明者探しの依頼は

要助に任せるわ

何かあったら連絡しなさい」


「はっ!かしこまりました」



「では 依頼の承諾にあたり

君と契約を結びます」



「契約?」


「今回の依頼は

現在進行系の殺人事件の解決

はい!この契約書にサインして」



「契約書って大袈裟な」



「一応はちゃんとした

仕事だからね

書面での契約は義務よ」


「た 達成報酬5万って!

お高めってレベルじゃ」



「いくらでも払うんでしょ?」



「ぐっ!分かりましたよ」



「えっと 名前と住所

それと達成報酬・・・

必要事項の記入はOKかな

じゃあ最後にアレをやるわよ」



そう言うと弥生さんは、

スッと椅子から立ち上がり、

ズボンのポケットから

裁縫に使う針を取り出し、

僕に迫ってきた。


「ノー プロブレム!

ただちょこっと血を頂くだけ」


「そ それってどういう」



契約書の真上に

僕の左手を引き寄せ、

親指を軽く針で刺した。


その血は契約書に数滴落ちた。



「この血によって誓いを結ぶ

この契約に従い事を成す」



弥生さんが謎の言葉を唱えると、

血が契約書に染み込み、

紙自体が消滅した。



「今のが通称 血の誓い」


「悪魔か!」



「あっ そうだ

まだ君の名前聞いてなかった」



「えっ?契約書に書きましたよ?」



「自己紹介って大事だと思うけど?」



「は はい・・・

う 牛渡 優人うしわたり ゆうとと言います」



「なるほど では今後は牛君で」



「某人形使いのコメディアンか

ま まぁ好きに呼んで下さい」


「じゃあ私も自己紹介!

瀬堂探偵事務所所長の

鬼大路 弥生おにおおじ やよい!23歳!

スリーサイズは

トップシークレット!

以後 お見知りおきを!」



「はい!よろしくお願いします!


あっ!もうこんな時間だ

明日からまた仕事なんで

僕はこの辺で失礼します!」


「待ちなさいよ牛君!」


「は はい!」


「せっかくだから付き合って

犯人逮捕まで!」



「は 犯人が

分かったんですか!?」



「目星はとっくに付いてるわ

今回のやり口はアイツしかないから

公園まで突っ走るわよ!!」



「ランニングですか?」 

 


「そう!ゴールで

犯人が待ってるから」



〜18時30分 牛野公園〜



「ここって近所の子供たちが

よく遊んでる場所ですね」



「そう・・・言葉巧みに

白富高校の生徒を誘い出し

吸血していた犯人がいる」



「吸血って事は!」



「こんな時間に 

いるのも珍しいわね

貴女は普段夜に活動するはず」



「あらあら 貴女たちは 

お呼びじゃないわ」



「やっぱり昨日のお姉さん!」

 


「あぁーー!行方不明だった

鈴木さんの奥さん!!」



「えぇ!!この人って

弥生さんが探してた

行方不明の人なんですか!?」 



「のフリをした吸血鬼よ」



「吸血鬼!?」 



「この女の体は役に立つ

何も知らない男子生徒を

ホイホイ誘い出し

ゆっくりと吸血する」 



「人の体で他人を誑かし

尊い命を奪う妖怪

私の拳を持って沈めます!

牛君は下がってて!」


「は はい!」



拳を持って沈める?

どういう事だろうか?   


そう思っていると、

弥生さんは助走をつけて、

妖怪に殴りかかった。


殴られた吸血鬼は、

勢いよく吹き飛び、

木に激突した。


「こ この力は・・・

人間如きの腕力では・・・」 



「純血妖怪が半妖怪に

遅れを取るなんて

情けないわよ?」


「は 半妖怪・・・だと?」



「弥生さんが半妖怪?

じゃああの契約書が

消えたマジックも 

一種の妖術だったのか」


素早い動きで翻弄し、

今までにない、

強烈なパンチを繰り出した。



「夢さえ見せぬ闇の底

我の言霊携えし

拳を以て閉じ込めん」



「そ その詠唱は・・・」



「き 吸血鬼が石化した!?

い 一体どうなって・・・」



「牛君驚き過ぎよ

コレが私の力なんだから」 



「弥生さんの力?」


石化した吸血鬼は小さくなり、

道端に落ちている、

石ころのようになった。



「拳に封じの力を宿し

妖怪を封印する

私の属性は石

まっ!今驚いてる現象も

少しずつ慣れるわよ」


「あっ!その行方不明の方?

はどうなったんですか?」


「鈴木さんの事?

彼女ならあの木の裏に・・・」 



あの木とは、さっき吸血鬼が、

激突した木である。


「誰もいませんけど?」



「呪を以て呪を解け」


弥生さんのその一言で、

木の裏に縛られていた、

鈴木さんが現れた。



「ぷはぁ!はぁ はぁ

あ ありがとうございます

吸血鬼に身体をコピーされた挙げ句

木に縛られるなんて」




「とりあえず

殺人事件と行方不明事件 

両方とも解決したわね」



優人は次の休日、

弥生の事務所を訪れていた。



「お礼なんて別に良いのに

ただ私は依頼をこなしただけよ」



「でもよく分かりましたね

殺人事件の犯人が

吸血鬼だったなんて」


「鈴木さんが行方不明に

なった時期と殺人事件が

起き始めた時期が

ほぼ同じだったのよ

しかも鈴木さんは

白富高校の教師でしょ?

被害者が全員

同校の生徒だったから

余計にそうかなって思ったの」



「改めてありがとうございました

じゃあ僕はこれで・・・」


「待ちなさい!牛君!」


「は はい!」



「君に提案があります

この探偵事務所で

スタッフとして

働いてみませんか?」


「えっ!?

僕は弥生さんみたいに

特殊能力とか

ありませんけど?」


「何言ってんのよ!

妖怪が見えるっていう

特殊能力があるじゃない

それだけで十分よ

普通の人は見えないから

見えるってだけで

即戦力の人材よ!」


「いやでも僕

定食屋のバイトありますし」


「バイトなんて辞めちゃえば?

こっちの方が給料良いよ?

それにこれから

大きな仕事もあるし!

どう?やってみる?」



「分かりました!

恩返しのつもりで

自分なりにやってみます」

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妖封 船出 鳩助 @youfuu249091

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