知ってるようで知らない異世界を管理することになりました

Taro

第1話 呼び出されてしまいました

あるアパートの一室。

そこの住人である独身の中年男性が目を覚ました。



ああ…まだ体が怠い…

熱も全然下がってないみたいだな…



彼は上体だけを起こし、周囲を見回す。

電源がつけっぱなしのパソコンに、机の上には開かれたままのノートと鉛筆が数本。

その傍らにあるカッティングマットには粘土の塊が放置されており、周囲にはスパチュラや彫刻刀などの道具が乱雑に置かれている。



…もう少し寝るか…



男はその場から起き上がることなく、元の体勢に戻るとそのまま眠りについた。




再び彼が目を覚ます。



ハッ!

もう夜か?!

…ん?



薄暗い中、寝返りを打つようなかたちで自分の周囲に目をやるのとほぼ同時にもの凄い勢いで起き上がる。



「えっ!

嘘っ?!

ココどこ?!」



驚きの余り無意識に声を発したのであろう。

誰かに尋ねているという雰囲気ではない。

男がそういった反応を示した理由だが、分からなくはない。

なぜなら今彼が居る場所は、まるで西洋に存在する神殿の遺跡のような屋外だからである。



いやいや…

普通に考えてあり得ないよな…

…う~ん…

やっぱりこれは…夢の中…なのか?

でも…全身の感覚がリアル過ぎる…



「ようやくお目覚めになられましたか」



突然男の耳に入ってきたのは女性の声。

当然彼はその声の発生源に目を向けるが、それらしき人物の姿は見当たらない。

が、そこには女性を象った劣化した彫像があった。



…まさか…そんなわけないよな…


「そう思われるのも当然ですね。

ですので、この女神像を介して会話を試みている、と言ったほうがまだ理解して頂けるかと」


え?!

オレが考えてること、読まれてる?!


「はい、もちろんです。

私は…そうですね…

あなた方が言うところの神のような存在ですので、これくらいのことは造作もありません」


…ちょっと冷静になって頭の中を整理しないと…

えっと、確か…

朝起きたら体が異常に怠くて、熱計ったら40度近くもあったから会社休んで寝てたんだよな。

で、昼頃に一回目が覚めたけど、まだ怠かったからもう一回寝て…

うん、ここまでは大丈夫…

それで、次に起きた時にはもう夜になってて、全然知らない場所に居て、しかも外。

そんな謎だらけの状況であたふたしてたら、今度は神様に話しかけられている…

つまり…これは夢の中で間違いない!


「せっかく結論を出したところなので申し上げにくいのですが、これは現実です。

ここは簡単に言えば、あなたにとっては異世界、つまり地球とは異なる世界となります」


「えっと…いきなりそんなこと言われましても…」


「確かに突飛な話ですし受け入れ難いのは分かりますが、ここが異世界であるという事実は時間が経てばそのうちあなたにも理解できるはずです。

なので、信じるか?信じないか?はさておき、今はここが異世界だという前提で話を進めさせて頂きますがよろしいですか?」


「はぁ…まぁ…じゃあ、お願いします」


「はい。

ではまず、あなたを呼び出した理由からですね。

実は、あなたにはこの世界を守って頂きたいと考えております」


は?

世界を守るって、もしかして勇者的なやつか?

いやいやいや…

ラノベやアニメの見過ぎで頭がおかしくなってしまったんじゃ…

だから、オレはこんな変な夢を見てるのか?


「別に勇者になる必要はありませんよ」


そういえば、相手はオレが考えてることがわかるんだった…


「取り敢えずのところですが、今から千年、この世界が存続するよう努めて頂きたいのです」


「千年って…

あのぉ…私は普通の人間なので、仮に100歳で寿命を迎えるとしても、あと60年しかありませんよ。

それに、大した能力もない一般人…というか、凡人以下かもしれません。

もしかしてですが、呼び出す人を間違えられたんじゃ…」


「人違いではありませんよ。

そもそも、この世界はあなたの創作物からの影響をより濃く受けている世界ですから。

それに、今のあなたは私の力の一部を与えていますので寿命を気にする必要はありません」


「あのぉ…申し訳ないんですが…

色々と分からないことが多過ぎて…

もう少し詳しく説明して頂くことってできないでしょうか?」


「勿論です。

時間の許す限り説明させて頂きます」



こうして男は、呼び出された経緯やこの世界のこと、神のような存在から与えられた力の一部などについてのより詳しい説明を受けることになった。

そして、そんなやり取りをしているうちに周囲が明るくなってきた頃。



「そろそろ時間のようですね…」


「では、最後にもう一度確認だけ。

とりあえず、千年後にこの世界が存続していれば良い、というのが私がこの世界ですべきことであって、そのためには別にどんな手段を用いても構わない。

ということで良いのですよね?」


「はい、その通りです」


「…わかりました。

正直、自信はありませんけど…とにかく頑張ってみます」


「期待していますよ。

では、千年後にまた会えるのを楽しみにしています」


「あ!

そういえば、今更なんですが…

神様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」



男は女神像に向かってそう話しかけるが、つい先程までのような反応はない。

少し残念そうな顔をしながら彼はその場から立ち上がった。



さて…と。

地球は滅びてしまったようだし、この世界で生きていくしかないか…

…本当に…

できるなら、この状況全てが夢であって欲しい…

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知ってるようで知らない異世界を管理することになりました Taro @kaonothing

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