往々にして

@kedama_727

第1話

 マキが推してるアーティストが掛川に来るようだ。テキスト読み上げ機能でiPadから音声を出力すると、スマホを見ていたマキが顔を上げ食い気味に聞いた。

「え?いつ?もっと詳しく!!」

わたしはさっきのTLから詳細ページを表示してマキに見せ、もう一度答えた。

『今度の百鬼夜行で野外ライブをするそうです。』

「マジ?シ集じゃなくてライブ?やばいじゃん!」

すばやくマキがリポストし、それを見たミクからもすぐチャットがきた。

『見た見た!野外ってどゆこと?』

『ね、わかんない。けど、でっかいモニターでやるとか?』

『特典あんじゃん!早く応募しよ!』

『あがるー!今年の仮装なんにする?』

『去年と同じでよくない?』

『絶っ対やだ。』

 16歳のマキとミクは、去年、鬼滅の刃に出てくる蜘蛛の鬼の仮装で参加し、他の参加者から評判がよかったらしい。機嫌よくあちこちで写真撮影に応じていたが、見返してみたらウィッグや着物のセットがぐずぐずに崩れてたとぼやいていた。移動手段が問題だったのだが、気づいていないようなので助言した。

『今年はビワちゃんとコトちゃんで行かないほうがいいですね。またボサボサになりますよ。』

 お母さんとおばあちゃんが日本舞踊の先生をしているマキの家には、代々受け継がれてきた″琴″と″琵琶″がある。もちろん楽器の。そして妖怪——。


 本当は長年使用された物に精霊が宿った″付喪神″なのだが、ここ掛川市では″人ならざる者″すべてが、妖怪や妖と呼ばれる事を好む。

 ビワちゃんは面に浮かぶ目が愛らしく、小さな手足でよくひょうきんに躍っている。コトちゃんは、あの美しい音色からは想像できないほど様変わりしてしまう。側面の龍口部分がパカっと上下に開き、長い舌と鋭い牙が覗く。高さを出すための猫足も獣足になり、竜頭竜尾の部位名称どおり、龍の如く空を駆け抜ける。

 どうせビワちゃん達も百鬼夜行に参加するのだからと、去年はコトちゃんの上に乗って出かけて、風圧にやられたのだ。

 そう言うわたしも、マキが使っているiPadを依代とした妖だ。マキからは「ききょう」と呼ばれいている。

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