込み上げる刑事

菜月 夕

第1話

凄惨な事件現場だった。

一家みな殺しの果てに犯人も自殺していた。

犯人は一家と、なんの関係もなく、行きずりの犯行でここまでの事件を起こしていた。

まったく、救いようが無い。

その時女性が倒れて塞いでいた暖炉から赤ん坊の鳴き声した。

私はそっと女性の死体をずらすとその暖炉の中に隠されるように赤ん坊が泣いていた、

女性は自分が死んでもこの子だけは助かるように必死にここに赤ん坊を隠したのかも知れない。

私はそっと赤ん坊を抱くとその子は私の指を握って来た。

その時、私は決めてしまった。この子は私の子にしよう。

妻との間にはずっと子供ができなかった。きっと妻もこの子を好きになる。

そんな予感がした。


「おい、学校に出かけるなら、こっちのパパとママにも挨拶しなさい」

早いものであの時の子供はもう中学生だ。

「そうよ、あなたを私達に授かてくれた大事な両親なんだからね」

「解ったよ母さん」

この子には最初からの事を説明してある。

どうせいつかは解ってしまうことだ。

それでもこいつは素直にそだってくれていた。

私達をちゃんと父母と呼んでくれている。

よし、私も一緒に出勤た。かあさん、行って来る。

「2人とも気を付けてね」

あの日から私は警察でも時間が取りやすい事務方に転属させて貰った。

この子をちゃんと育てるためだ。

2人で歩きながら話をする。

「しかし、父さんも母さんも仲がいいよね」

「それはお前が居てくれるからさ。

お前は可愛かったからなぁ。

いや、今も可愛いぞ」

「中学生なもなって可愛いと言われてもなあ」

僕はこの2人は親バカだと思っている。

僕がしっかりしないと能天気な家族の出来上がりだ。

それぞれの想いを乗せながら2人の乗ったバスは走っていく。

ふと私は何か決意に充ちた息子の顔を見る。

ちょっと大人の顔をする様になった。

そんな子供の顔を見てあの時赤ん坊に握られた指の暑さをふと思い出す。

思い出が込み上げる。

私は再びこの子を守る決意を新たにバスを降りて仕事場に向かった。

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込み上げる刑事 菜月 夕 @kaicho_oba

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